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グローバルスタンダードである国債決済期間T+1化を目指して

2013年3月号

グローバルソリューション事業部 営業担当課長 木綿芳行

国債の決済期間短縮化に関して、T+2化は2012年4月23日約定分から実施された。いよいよ、最終目標であるT+1実現に向けて、2012年10月より一部の関係者で議論が開始されはじめたが、最大の懸案である膨大なコストに対して、グローバルスタンダードであるT+1化への意義を理解して、業界横断で取り組んでいく必要があろう。

国債の決済リスク削減第1段階完了

 2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券破綻を機に日本の国債決済リスク削減に向けた取り組みが大きく進展している。日本銀行(決済機構局)によれば、リーマン証券の破綻により、7兆円のデフォルト(債務不履行)が発生し、フェイル(受け渡しの遅延)の連鎖も累計6兆円規模に上ったという。この事態を受け、金融庁は、決済リスク削減策の一つとして、国債の決済期間の短縮を求めた(※1)。

 国債の決済期間短縮の実現には、市場参加者と市場インフラで横断的に検討する必要がある。そこで日本証券業協会は「国債の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループ(以下、WG)」を2009年9月に設置し、2011年11月30日に国債決済短縮化に向けた最終報告書を公表、その中で、国債の決済期間短縮化を2段階で実施する方針を示した。第1段階はアウトライト取引のT+2化(GCレポ(※2)のT+1化)であり、2012年4月23日約定分から実施された。GCレポ取引はアウトライト取引のファイナンス手段として活用され、当該市場のアウトライト取引よりも1日短い決済期間が必要となる。

 第1段階のアウトライトT+2化については、約定照合および相対ネッティング照合の電子化(迅速化)が必要となるものの、現行の枠組みを基本的に維持しつつ、STP化を推進することにより、市場参加者や市場インフラの負担はさほど大きくなく実現できる。そのため、移行当初にWebサービスのシステム障害はあったが、順調に移行が進み、データフォーマット標準化による業務効率化等一定の効果も得ることができた。

国債決済期間短縮T+1化に向けた課題

 第2段階はアウトライト取引のT+1化(GCレポのT+0化)であるが、実施時期は2017年以降とされているのみである。それは、以下のような大きな課題があるからである。

①既存事務フロー・市場基盤での事務の限界

 アウトライト取引T+2までであれば、約定日と決済日の間に少なくとも1営業日あり、市場参加者や市場インフラの現行の事務プロセスやシステム(たとえば夜間バッチ処理で行うシステム)でも対応が可能である。しかし、T+1では取引約定日にポスト・トレード処理事務の多くを行う必要が出るため、リアルタイム処理システムへの変更など、相当の期間とコストを要することとなる。

②市場参加者の取引動機の相違

 証券会社等は、アウトライト取引のファンディングをGCレポで行うことが多いため、アウトライトをT+1化するには、GCレポの標準決済期間をT+0化するニーズが高くなる。他方、GCレポの相手方となる投資家は短期資金運用が目的であり、GCレポのT+0化に伴う事務インフラ投資負担やフェイル発生リスクの高まりを好まない。そのため、証券会社と投資家双方のニーズを満たす制度設計および市場基盤の整備が必要となる。

 

 T+1の世界は現行の枠組とは全く異なるものであり、上述の課題解決には、現行プロセスの延長ではなく、GCレポの担保を管理するサービスの創設・運営主体の検討や取引慣行の見直し、レポ取引における基本契約書等リーガル面の検討、非居住者取引の取扱など、多くの議論が必要とされる。

国債決済インフラのグローバル化を目指して

 T+1化にあたっては、T+2化より膨大なコストがかかることが明らかであり、特にWGで中心となっている主要プレイヤー以外の中堅・中小プレイヤーにとっては、費用対効果が見えにくいという声も聞く。

 しかしながら、視野をグローバルに広げると、やはりT+1化は必須であると考えられる。現在日本の国債は国内でその多くが消化されているが、投資家を広く海外に求め資金調達先を多様化していくことは国の財政運営にとって極めて重要になると考えられる。非居住者による国債保有比率の低さについてはさまざまな要因があるといわれているが、国債をグローバルな商品とするためには、国債決済インフラのグローバル化は必要条件である。欧米の主要国をみると、米・英・香港では既にアウトライト取引はT+1(GCレポT+0)決済となっている。日本は2012年4月からアウトライト取引T+2化が実施されたが、それでもこれらの国々より長い状態にある。

 また、日本の決済インフラもグローバル化の流れを受けて対応を始めている。日本銀行は、2016年初に新日銀ネット(※3)を稼働させる予定で、ほぼ24時間稼働のインフラとなる。また証券保管振替機構は、2014年1月にISO20022(※4)という国際標準フォーマット対応を行い、グローバルの証券決済機関の中ではいち早く、国際標準化対応されたインフラとなる。国債決済のT+1化も、こうした日本の金融市場のグローバル化の流れの中に位置づけられるものであろう。国をあげて、証券決済分野におけるグローバル化の取組みをしている中、国債決済T+1化が各金融機関の費用対効果を理由に遅れるとしたら、日本の金融市場の発展にとって大きな損失となるだろう。

 日本証券業協会では、2012年10月からT+1化に向けたWGの活動を再開し、上述の課題解決に向けて、大きく2つの検討体制を同時並行で進めていく予定である。

ア) GCレポT+0の取引手法・インフラ整備面の検討(※5)

 ① 取引手法は、フロント中心に、約定項目・取引時間帯のイメージ・法律構成の検討等の内容に関し、レポ研(※6)との連携を展望

 ② インフラ整備面(担保管理インフラ)は、バック中心に、照合、債務引受・清算、決済の各市場インフラのあり方、担保割当可能残高の確定方法・タイミング等の内容について、日本国債清算機関、証券保管振替機構との連携を展望

イ) T+1後の国債市場のグランドデザイン検討(※7)

 幅広い市場関係者へのヒアリング・アンケート等を通じて、実態把握や課題の整理等を実施し、機会を捉えて検討状況の報告や情宣を実施していく。

 

 当局や市場インフラ関係者は、T+1化を、低リスク・高効率な市場インフラ・慣行を構築するラストチャンスと捉え、幅広く市場参加者との議論を行いながら、最大の障壁となるシステムコスト低減に向けて、共同システムの開発等の努力をしていく必要がある。一方で、最終投資家に対してリスク削減に対する間接的なコスト負担の説明責任を果たせるように、啓蒙活動等努力を続けることが求められよう。

1) 金融庁は「金融・資本市場に係る制度整備について」を2010年1月22日に公表し、決済リスク削減策の一環として、国債の決済期間の短縮のほか、フェイル発生時の取り扱いルールの確立・普及を図ることを求めた。これによりフェイルチャージが2010年11月から導入された。フェイルチャージとは、国債の受け方が、予定されていた決済日が経過したにもかかわらず渡し方から対象債券を受け渡されていない場合に、渡し方に対して金銭負担として賦課されるもの。
2) GC(General Collateral)レポ取引は、取引対象の債券が特定の銘柄である必要がなく、途中で対象債券を差替えることができる資金貸借的な性格をもつ取引。
3) 新日銀ネットは、最新の情報処理技術を採用し、変化に対して柔軟性が高く、アクセス利便性の高いシステムとして、2015年をめどに構築する予定の新しい日銀ネット。
4) ISO20022は、International Organization for Standards20022の略称。外国人投資家やグローバル・プレイヤーのプレゼンスの高まり、あるいは海外証券決済機関等の直接参加ニーズ等の高まりにともなって求められてくる、取引・決済システムの国際標準化の流れを受けて、証券保管振替機構が、2014年1月導入をめざしている制度。
5) WGを中心に2つのグループが対応。
6) 債券現先等取引研究会の略。
7) 事務局を中心に対応。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

木綿芳行

木綿芳行Yoshiyuki Kiwata

証券ホールセール事業一部
部長
専門:証券決済サービス

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