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日本株式投資は期待ではなく企業のファンダメンタルを見よ

2013年3月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

最近の日本の株式市場の上昇傾向を受け、株式投資を積極的に捉える投資家が増加してきた。株式投資でプラスのリターンを獲得するには、足下の為替等の経済動向や人の期待を予測するのではなく、中長期の企業収益を見通し、ベンチマークを意識することなく選別投資することが不可欠である。

 安倍政権に変わり、日本の株式市場が久々に上昇に転じている。今後の市場見通しも強気の論調が多い。ほんの数ヶ月前までは極めて弱気の見方が大勢を占めていたのと様変わりである。一方で、どのタイミングで天井を迎えるかといった、相変わらずの短期スタンスで投資家の期待をベースにした報道が多数を占めるようである。今後の株式投資を考える上でマクロ環境の動向や人の期待はどれほど重要なのだろう。本来、株式投資で重要なことは、個別企業の競争優位性を含むファンダメンタルを知ることなのではないか。海外の機関投資家の日本株に対する投資スタンスも参考にしながら、今後の日本株投資を考えてみたい。

海外の長期投資家の投資スタンスに変化なし

 筆者は1月に、海外でグローバル株式投資を行っている10社ほどのアクティブな(※1)長期投資家(※2)に会う機会があった。企業のファンダメンタル分析に基づき、企業の本質的価値(※3)を計算、株価との対比で割安な企業を購入、3年以上保有し株価が彼らが計算する本質的価値に近づくのを我慢強く待ち、絶対リターンを目指す投資家である。

 インタビューの際、安倍政権の経済政策や為替動向といったマクロ指標に関する質問は彼らから一切出なかった。これらの変数は自らコントロールできず、また投資先企業の中長期的な収益予想をする上で、さほど重要な変数ではないからである。短期的に日本株の見方を変えたということではなく、数年も前から割安で本質的価値が向上すると考える日本企業に投資をしてきたのである。以前から、日本の株式市場は低迷していても、長期の収益見通しが高く割安な日本企業が少なくないと考え、日本株比率を高めている投資家も多い(※4)。彼らは、足下の経済動向とはあまり関係なく、投資先企業の競争優位性がどうなるかに焦点を当ててきたと考えられる。

 短期的なマクロ動向にあまり左右されない、このような投資態度はどうして生まれているのか。それは、主として投資期間の違いから生じている。そのことを理解するには、株式リターンの構成要素を理解する必要がある。

現在の株価上昇は将来の期待への変化の現れ

 株式から得られるリターンは3つの要素から構成される。①配当、②利益成長、③PER(※5)変化(株式に対する投資家の期待の変化)によるキャピタルゲイン(またはロス)、である。この3つの構成要素の大小関係は、投資期間の違いにより大きく変化することが知られている。投資期間が短いと③の要素が大きく、投資期間が長いほど①と②の構成割合が高くなる。投資期間が長ければ、先述の投資家のように、投資先企業の収益予想に集中でき投資家の期待を予測する必要はあまりない。

 しかし投資期間が短いのであれば、投資家の先行きに対する期待がどのようになるのかを当てなければならない。今、日本の株式市場で起こっている株価上昇も、この③PERの変化、つまり投資家の期待の変化に他ならない。現に、来期予想ベースのPERは、安倍政権前の15倍前後から20倍(2月中旬時点)へと上昇している。

 日本株式に2割以上の資金を投資している、インタビュー先のあるグローバル株式マネジャーは、「東日本大震災以降、2012年9月末までに株式市場全体で収益は改善していたが、株価は1割以上下がった。現在はまだ収益改善の見通しが不透明にもかかわらず、期待先行で株価が大きく上昇している」と指摘している。安倍政権以前に収益改善は全体的に進んでいたが、株価は反応せず、今は逆に実態が変化していないにも関わらず先行きの期待感から株価上昇が起こっているにすぎないというのである。

ファンダメンタル重視の絶対収益指向を目指せ

 投資期間を短期に設定するなら、投資家の期待を予測する作業が必要になる。20倍に達したPERは国際基準(※6)から見てやや割高な水準にある。PERが20倍に上昇したのは、デフレからインフレへと人々のマインドセットが変わり、多くの日本企業の収益が向上すると期待してのことだと考えられる。投資家の期待を当てるには、投資家がどの程度の収益改善を見込んでいるのかを見極め、しかも、その期待が実現するのかどうかを予想することが必要になる。収益予想の絶対値を予測するのではなく、人々の予想がどの辺りにあり、実際の値がその予想とどの程度の差になるのか、を当てるのである。このスキルセットは本来の株式投資、つまり企業の業績を予測するものとはまったく異なるものと考えられる。

 筆者はそのような投資ではなく、企業収益の絶対値を見通す長期投資が今後の日本株投資への正しい投資スタンスなのではないかと考える。例えば、21世紀に入り日本の株式市場全体のリターンは低迷したが、その間、株価が上昇した企業は6割に上った。収益力の高い企業を選別する能力があれば、株式市場全体がマイナスであったとしても、プラスのリターンを獲得することもできたのである。日本株式でも、そのような個別企業の長期見通しに基づき、選別投資で高いリターンを獲得する投資家も現れ始めている(※7)。

 日本株式で今後も中長期的に高いリターンを獲得するにはベンチマーク(※8)を意識する投資方法も見直す必要がある。過去20年以上にわたり、投資家の多くは、ベンチマークを基準に投資を行ってきた。しかし、経済はグローバル化し、海外進出の度合いも競争優位性にも大きな差が付いているのが現状である。このような状況で、日本経済がデフレからインフレ環境に変わったとしても、日本企業全体の収益力が大きく改善すると予想することには無理があるのではないか。日本企業全体の収益が改善することを前提として、市場全体との相対感で企業の収益予想を行うことよりも、株式市場とは関係なく、競争力が高いと思われる企業だけに絞って選別投資することが理に適っているのではないか。株式投資に求められるのは、個人・機関投資家に関わらず、高い絶対リターンである。低い水準にとどまるかもしれないベンチマークリターンとの勝負は、投資家にとって本質的ポイントではない。

 企業の長期的な利益成長を予測し、そのような企業に選別投資をすることで、結果的に株価上昇を含めた高いリターンを獲得することが株式投資の王道である。人の期待やベンチマークとの相対値を予測する手法ではなく、個々の投資先企業の利益予想という本来の投資手法を徹底することが、投資家に求められているのではないか。

1) ここでアクティブとは、株価指数と同じリターンを目指すパッシブ投資家に対し、ベンチマークを上回るリターンを目指す投資を指している。
2) 長期投資家とは、投資先企業の株式を5年以上保有するのが通常の投資家を指している。
3) ここで本質的価値とは、将来生み出されるであろうキャッシュフローを現在価値に割り引いたものと考えておく。
4) ベンチマークであるMSCI Worldの日本株比率が8~9%であるのに対して、20%以上の保有比率の投資家も存在した。
5) 株価収益率。
6) 時間と共にPERの水準は変化するが、15倍前後が先進国の長期的な平均値と考えられる。
7) 個人投資家や年金ファンド向けに、現在少なくとも10社以上がこの投資スタイルを標榜したファンドを提供している。
8) 日本株式でいえば、TOPIXや日経平均株価が代表的なベンチマークである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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