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日本取引所グループ(JPX)の経営課題

2013年3月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

2013年1月、東証と大証が経営統合し、日本取引所グループ(JPX)が発足した。今後は、デリバティブ部門の強化や積極的な海外戦略の展開などを通じて、取引所グループの企業としての実力を示す株式時価総額を引き上げていくことが経営課題となる。

JPXの発足

 2013年1月、東京証券取引所(東証)と大阪証券取引所(大証)が経営統合し、日本取引所グループ(JPX)が発足した。今後、2013年7月までに現物市場、2014年3月までにデリバティブ市場について、それぞれ取引システムと市場の統合が行われるほか、清算機能や自主規制機能も集約され、市場運営が合理化・効率化される。デリバティブ取引における証拠金の一本化などで、市場に参加する投資家にも取引コストの低下などの統合効果が実感されるようになるだろう。

 もっとも新生JPXが取り組むべき課題は多い。

 2000年以降、世界的な規模で取引所間の競争が激化し、会員制取引所の株式会社化と国境を越えたM&A(買収・合併)が進んだ。その結果、世界の主要な取引所の多くは、複数の国で幅広い分野にまたがる多数の取引所を運営する多国籍総合取引所グループを形成している。

 こうした中で発足したJPXは、取引所間競争を強く意識し、「アジアNo.1の取引所」を経営目標に掲げる。東証市場の規模が、上場企業の時価総額でアジア最大であることからすれば、十分実現可能な目標とも思えるかも知れないが、事はそれほど単純ではない。

 今や取引所は社会のインフラである市場の運営というサービスを提供する企業である。ところが、取引所グループの企業としての実力を最も端的に示す自社の株式時価総額という指標でみれば、JPXは、アジアでも、香港取引所やシンガポール取引所の後塵を拝している(図表)。JPXにとっては、株主価値・企業価値の飛躍的な向上が、大きな経営課題なのである。

世界の主要取引所運営会社の株式時価総額

デリバティブ部門の強化

 JPXが取引所グループとしての企業価値向上を実現するためには、デリバティブ市場部門の拡大・強化が喫緊の課題となる。

 世界の取引所で、時価総額ランキング上位に位置するのは、いずれもデリバティブ取引に強みを持つ取引所である。例えば、2012年12月には、インターコンチネンタル取引所(ICE)が、世界最大の株式市場ニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEユーロネクストを買収することが明らかになった。ICEは2000年5月に設立された新興取引所で、一般的な知名度は高くないが、企業としての時価総額は、NYSEユーロネクストを上回る。

 一方、JPXグループのデリバティブ市場部門を担うのは大証だが、大証がデリバティブで強みを有するとは言っても、その実態は日経225株価指数関連の「単品商売」だったと言わざるを得ない。

 折から政府が「総合取引所構想」を打ち出し、2012年の金融商品取引法改正では、証券取引所が商品(コモディティ)の市場を開設する場合でも、一定の要件を満たせば、規制・監督を金融庁が一元的に行うことが明確にされた。残念ながら、規制・監督の一元化は、既存の商品取引所を合併したり事業譲渡を受けたりする場合に限られる。

 そうした限界はあるとはいえ、総合取引所化が政策的に促されているという規制環境はJPXにも追い風である。これまでの観念に囚われない発想で、投資家のニーズに応える新しい市場を創成し、デリバティブ取引で一層の強みを発揮することが期待される。

国際戦略の展開

 もう一つの大きな課題は、海外戦略である。既に2000年代前半から欧米の主要取引所は国境を越えたM&Aを活発に繰り広げてきた。その蚊帳の外と思われてきたアジア地域においても、最近では、香港取引所がロンドン金属取引所(LME)を買収してコモディティの分野に本格的に進出したり、最終的には政治的な理由で失敗に終わったものの、シンガポール取引所がオーストラリア証券取引所グループとの経営統合を試みたりするなど、従来にない展開がみられる。

 日本の取引所については、金融商品取引法によって厳しい株式の保有制限が設けられていることから、JPXが海外の取引所を一方的に買収しようとすれば、相互主義の観点から問題視される可能性がある。また、とりわけアジア地域では、まだ国境を越えた取引所の統合に対しては心理的な抵抗が大きいのも事実である。

 それだけに、JPXが、欧米の取引所グループのように、企業価値の向上という観点のみから大胆なM&A戦略を海外で展開することは当面難しいだろう。とはいえ、かつてのように、世界各国の取引所と見方によっては表面的な提携関係を構築するだけといった姿勢では、市場の受け止め方は厳しいものとなるだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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