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円高で何を失い、何を得たか

2013年2月号

金融ITイノベーション研究部 竹端克利

 過去8年間の為替の動向を振り返ると、前後4年の期間で状況は大きく異なる。前半の4年間、円ドルレートは100-120円/ドルの間を推移しており、内閣府が調査する採算レートと比較すると日本企業は常に有利な環境にあったことがわかる。この頃、ちょうど銀行の不良債権問題も峠を越え、輸出と設備投資に牽引されて実体経済のパフォーマンスが好転していた。わが国は「戦後最長の景気拡大」の只中にあり、多くの人が「失われた10年」と呼ばれた長いトンネルの出口を意識し始めていた時期である。

 ところが、後半になると状況は一転する。2007年のピーク時から一気に3割近く円高が進行し、80円台が常態化した。いうまでもなく、これは米国発金融危機や欧州債務危機に伴う“flight to quality”の流れの中で急速に円に対する資金流入が進んだことにある。急速な円高によって、日本企業は海外での価格競争力を失い4年間で輸出は約20兆円減少し、企業マインドの悪化により国内設備投資も約14兆円減少した。また、製造業の海外進出を加速させ、国内産業の空洞化を招いたとの指摘も多い。今や円高は「日本企業の六重苦」の筆頭に挙げられるほど、忌むべきものになった。

 ただ、円高によって日本企業は多くのものを失ったことは事実だが、確実に得たものもある。それは、不確実な経済環境への適応能力だ。下の図表からわかるとおり日本企業はここ4年間で採算レートを2割も切り上げたが、この調整はバブル崩壊以降で最も大幅かつ短期間のものであった。中には、賃下げや雇用削減といった短期的な「痛み」もあっただろうが、必要な改革を先送りせず環境変化に合わせて経営努力を続けた結果であると解釈できる。2割のコストカットは「平時」においては容易に着手できるものではなく、円高という「有事」が日本企業に収益体質の強化を促したとすれば、その意味は決して小さくない。

 

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

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