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欧州通貨統合の成立と展開

2013年2月号

金融ITイノベーション研究部 部長 井上哲也

 過去10年の国際金融で最も重要な出来事は欧州通貨統合の成立と展開である。ユーロ圏は、新通貨への信認を取り付けた後、米英の懐疑心を裏切る良好な経済パフォーマンスを経て、今回の債務危機を経験した。この間に生じた中心国から周辺国への資本フローの拡大と逆流の背景として、次の2点が指摘できる。

 第一に、通貨統合が各国の経済や市場に及ぼす影響について、適切な理解が共有されなかったことである。実体経済(輸出競争力や潜在成長力)や財政の不均衡は、資本フローでなく、各国の構造改革で調整されなければならず、それまでは国債の利回りも収斂しないという冷徹な現実を、我々は債務危機後に厳しく思い知らされた。

 第二に、Great Moderationと呼ばれる国際金融市場の安定が問題を覆い隠したことである。周辺国への資本の流れは、インフレが低下し、市場のボラティリティが抑制される中で、search for yieldとして実現された。ECBによる金融緩和の維持が、Great Moderationを通じて、資本フローの過度な蓄積を招いた面もある。

 

 今から考えれば、通貨統合だけを推し進めることには無理があり、先送りされてきた課題への対処、つまり上に見た実体経済の不均衡の調整に加え、①健全化を通じた財政状況の収斂、②金融システムに対する安全装置の導入が不可欠であることが改めて明らかになったに過ぎない。債務危機に至る局面では、課題への取り組みが経済や市場の求めに沿わないものであった訳である。

 それでも債務危機を受けた昨年中は、①に関する財政ルールの見直しや域内諸国の予算に対する相互監視、②に関する銀行監督一元化(Banking Union)の決定など具体的な成果が得られた。同時に、ECBによる新たな国債買入れ(OMT)の導入や国際機関としての欧州安定機構(ESM)の設立など、安全装置の整備も進んだ。ユーロ圏が通貨統合を超えて広範な経済統合へとむしろ歩みを進めたことは、危機を契機に台頭した統合への懐疑心を再び裏切ることになった。

 ユーロ圏の中心国の政治家や、EU委員会、ECBといった政府組織を、欧州統合という長く苦しいプロジェクトに駆り立ててきたものは何だろうか。歴史的経験に基づき、域内での戦争を繰り返さない政治的決意の表れという面もある。今回の危機が関係者の背中を押した面もあろう。しかし、これらに劣らず重要な動因は、欧州経済の地盤沈下に歯止めをかけ、米国に伍する経済圏として復活したいという欲求であろう。そうであれば、域内各国は、統合維持のための不均衡是正に止まらず、経済圏全体の効率性も念頭に、ユーロ圏で自国が何を担うかという産業の選択と集中を進めることになる。

 ユーロ圏に比べて政治経済の分散が大きいアジアで、近い将来に通貨統合が成立する可能性は大きくない。それでも、ユーロ圏諸国の経験は、経済圏での立ち位置を考える上で、日本に貴重な示唆を与えることになろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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