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日本版ISAへの準備が急がれる金融機関

2013年1月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 金子久

昨年9月に日本版ISAに対する銀行の取り組みについて調査したところ、積極派と慎重派では準備状況に大きな違いがあることが分かった。日本版ISAのスタートまで残された時間は短く、事前準備が成否に決定的な影響を及ぼすはずで、各社対応を急ぐべきだ。

 2014年からスタートする「少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」、いわゆる日本版ISAへの関心が高まっている。当初、この制度に対して、証券会社や銀行は、購入可能な期間がわずか3年間に限定されているため制度の普及に対して懐疑的であり、さらに煩雑な業務や専用のシステムが必要になるなど採算面を懸念する意見が多く示されていた。これに対し、政府が昨年7月に示した日本再生戦略では、日本版ISAを、幅広い家計に対して長期・分散投資による資産形成を支援する制度と位置付け直し、導入からわずか7年で投資総額を25兆円にするという意欲的な数値目標を掲げた。さらにそれを実現するための具体的措置として、2013年度税制改正要望の中で金融庁が購入可能期間の恒久化や非課税投資総額の拡大、対象商品に公社債や公社債投信を加えるよう求めるに至って、金融業界の姿勢は徐々に変化している。金融庁の要望が何処まで認められるのか、その結果如何によって、金融機関は日本版ISAの受け止め方を大きく変えることが予想される。

要望事項への反応

 野村総合研究所では、金融庁が税制改正要望をとりまとめた直後の昨年9月中旬から下旬に掛けて投信窓販管理システムBESTWAYのユーザを対象に日本版ISAに対する取り組みについて意識調査を実施した。本稿では、寄せられた回答の中から特に回答数の多かった地銀と第二地銀に絞って紹介する。回答を寄せた53行(※1)の中では、制度の導入については9割近くが導入の方向、残り1割強が検討中であり、導入しないという回答はなかった。制度導入が2年間延期される前に行った同様調査に比べ、導入割合が高くなっている。日本版ISAの導入可能性が以前より高まり、制度内容の改良も具体化してきたために、全体として前向きな回答が増えたと推測される。

 また、金融庁が税制改正要望で取り上げた対象商品の拡張に対する対応を聞いたところ、「公社債を提供する予定」と回答したのは4割近くに達し、反対に「提供しない」のは2行に過ぎなかった。6割の回答は「未定」であり、その理由としては、「システム対応が困難又は対応の可否の判断が難しい」が最も多く、税制改正要望が公表されて間もないため「まだ検討していない」などの意見も目立った。また公社債投信については、「提供する予定」は3割強、反対に「提供しない」は3割弱、残り4割が「未定」と回答している。「未定」の中には「現状の金利水準ではニーズがない」等の取り扱いに否定的な意見が多い。公社債については提供したいがシステムの準備期間が短いと考えているのに対し、公社債投信についてはシステム対応は比較的容易だが提供に対して否定的な意見も目立った。

バラツキの大きい目標顧客数

 また調査では、目標とする顧客数について現在の投信顧客数との対比で尋ねた。回答の中央値は「5割」であったが、これは筆者の事前の予想とほぼ同水準であった。他社にも口座を持つ顧客の存在や手続きの手間を考えるとISAの口座を開設しない既存顧客も考えられるからだ。予想外だったのは、回答のバラツキである。「現在の投信顧客数の1~2割」という慎重な回答が2割弱あった(以下「慎重派」という)のに対し、反対に「現状の投信顧客数の1~1.5倍」という意欲的な回答も2割弱存在している(以下「積極派」という)。調査の時期を考えると、必ずしも組織的な検討を踏まえた回答ではないが、各行の取り組み姿勢を垣間見ることができる。

 積極派の第一の特徴は「早めの準備」である。日本版ISAでは口座開設にあたって、金融機関が窓口になり事前に税務署へ非課税口座開設の申請を行う必要がある。金融機関が顧客から預かった申請を税務署に提出するのは2013年10月からと定められているが、金融機関が顧客の申請の受付を開始する時期については規定がない。調査でその時期を尋ねたところ、積極派は慎重派に比べ平均で2ヶ月早く、7月には開始すると回答している。また、業務上の課題に関する質問に対しても、積極派は回答率が高く、回答の内容は諸業務の効率化に関する事項を中心に具体的に記載されており、準備が進んでいる様子がうかがえる。

 また新規顧客の獲得を重視しているのも積極派の特徴だ。重視する顧客層について尋ねたところ、「退職世代の既存顧客」に対しては積極派も消極派もその姿勢に違いが見られなかったが、「現役世代」や「退職世代の新規顧客」に対しては積極派の方が重視すると言う回答の割合が高い。このためか、非課税口座開設の申請を受け付けるチャネルについて、積極派は半数以上がネットでの受付も検討しているのに対して、慎重派は検討している銀行が1行もなかった。

早急な準備が重要

 日本版ISAでは、様々な新たな業務が要求されている。例えば、今までの取引の有無に関わらず顧客から新たに住民票と非課税口座開設申請書を受け入れ、その記載内容を税務署に提供し、開設可否の結果を受け取って顧客に渡さなければならない。また年間取引報告書についても専用の書式が要求されているなど新たに準備すべき事務は多い。これら必要な事務の全てが現段階では明らかになっていない。加えて、制度開始前に顧客への営業が可能で、他社との競争を考慮すると前倒しで準備せざるを得ないなど、準備に掛けられる期間が短い。このため、制度に関する議論の進捗を横目に見ながら確度の高いものから検討していくなど柔軟な対応が求められる。

 また手間の掛かる業務が多い。先に挙げた口座開設申請の他、開設後の取引に関する事務でも、顧客毎に残り非課税枠を正確に把握することなども求められている。にもかかわらず、約定金額は最大でも100万円までと収益は限定されている。このため、業務処理に関してはシンプルな事務ガイドラインを作ることが必要だ。さらに、1口座当たりの口座獲得コストを低くするなど営業に関しても効率化への意識が重要である。

 

 銀行における投信ビジネスの状況は厳しく、そのため特に収益性に鑑み新たな投資に対して慎重になることは理解できる。だが日本版ISAは投信顧客層に厚みをもたらすことは間違いなく、中期的にみれば投信ビジネスを再び成長軌道に乗せるはずだ。対応に遺漏は許されない。

1) 回答数は地銀37行、第二地銀16行であった。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
金融制度イノベーション研究室長
専門:個人金融マーケット調査