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2013年の資産運用会社の経営課題は顧客満足度向上にあり

2013年1月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

日本の資産運用ビジネスは金融危機以降、4年を超える停滞期間に入っている。リターン低迷などによる顧客満足度の向上が見られないことが主な不振の原因であり、顧客満足度を改善する運営プロセスの構築が、今後の資産運用会社が抱える大きな経営課題となる。

 日本の資産運用会社(※1)の収入は2007年度にピーク利益を更新した後、08年度以降ずっと、ピーク時の2割以上も低い水準に留まっている。12年度も既に9ヶ月が経過、現在の相場水準を前提にすると、11年度比で減収に陥る模様である。収入の伸び悩みに比例し、営業利益率もピーク時の30%以上の水準から20%以下のレベルにある。

 収入が伸びないため、運用会社の経営層の関心事はコスト削減に向きがちである。しかし、日本の投資家が抱える巨額の金融資産を長期的に増加させ、成熟した社会で豊かな生活を送るサポートをすることが日本の運用会社の重要な役割であり、投資家にとって満足のいく運用サービスを提供することが不可欠であることは論を待たない。残念ながら、過去10年間を振り返ると、資産運用業界が顧客から高い満足度を得てきたとは言えず、そのことがビジネスが低迷している大きな原因と言えるのではないか。今後の業界の成長を図るには、顧客満足度を上げていくことが不可欠であり、そのために経営は何をしなければならないのか考察してみたい。

顧客満足度向上に焦点をあてた運営プロセスの必要性

 資産運用業界が、顧客ニーズに対応し様々な努力をしてきたことは紛れもない事実である。例えば、投信市場を見ると、日本での低金利・高齢化に対応し、過去10年以上にわたり、多分配型投信や、投資家に提供するインカム収入をグローバルな投資対象から得る商品などの開発を進めてきた。グローバル国債から始まり、配当の高いグローバル株式、信用リスクと高金利通貨を組み合わせたファンド、グローバルREITなど、公募投信の現在の残高の9割は外国資産が中心のファンドであり、これらは投資家の安定的なインカム収入ニーズに応えたものと言えるだろう。日本と同様の低金利環境に置かれている海外で同種のファンド開発が最近行われていることを見ても、日本の資産運用業界が世界の課題を先取りして商品開発をしてきたことが示されている。

 このような商品開発面での努力にも関わらず、投資家から見たリターンがプラスになっていない、顧客への商品説明が不十分など、顧客満足度という面ではまだ多くの課題を抱えている。例えば、元本まで含めて顧客に支払いを行い高い配当利回りを提供しているファンドがある(※2)が、その配当原資の内容が十分に顧客に説明されていないために顧客がファンドのリターンを正確に理解せず、商品への不満が高まるケースもあるようである。

 顧客満足度を向上させるには、投資商品を作る製造部門と、顧客ニーズを把握し投資商品の内容を顧客に説明する部門が、共同で顧客にサービスをする必要がある。それは投資サービスの特徴に起因している。

 投資商品は、顧客が最も気にするリターンが投資環境に左右され、さらに過去の運用成績が必ずしも将来を見通す上で参考にならないことも多く、顧客が商品特性を理解しにくいという特徴を持っている。商品特性を顧客に理解してもらうには、リターンを左右する投資環境の状況を変化のタイミングに合わせ迅速に伝えること、また環境に対応し予定通りの運用成果が達成されているかを説明することが重要になる。

 従って、顧客満足度を上げるには、顧客に説明した商品特性を維持させるため製造プロセスを改善することはもちろんのこと、商品特性を顧客に伝える高い能力が必要となる。そのためには、組織設計上の工夫が欠かせない。例えば、営業・マーケティングや顧客レポーティングを含む部門が、投資商品の製造を担当する運用部門と密接に連携をとり、投資商品に何が生じているかを把握した上で、何を顧客に伝えなければならないかを両部門が共同で考えるような仕組みが必要になるだろう。

 その意味で、日本の公募投信の主流である、日系運用会社がファンドの設定や販売会社・投資家への説明を主として担い、実際の商品製造を外資系に委託しているサブアドバイザリーモデルは、顧客満足度を向上させる上で難しいビジネスモデルである。製造部門が別会社であるため、投資環境の変化に対応し商品特性が維持されているかどうかを判断することが難しく、お互いが連携をとって顧客に伝えるべき情報を考えるのは、社内に製造部門が内製化されている場合より課題が多いだろう。

 サブアドバイザリーモデルは実は機関投資家ビジネスでも拡大しつつある。例えば2012年6月にGPIF(※3)がグローバルエマージング株式のマネジャーとして採用した(※4)日系運用会社の4社はすべて日本に拠点を持たない外資系運用会社をサブアドバイザーとしていた。年金ファンドでも、製造部門と商品説明を行う顧客サービス部門は別会社でも構わない、という動きが出ているのである(※5)。

 このビジネスモデルの下では、外部の運用会社との情報連携をどう強化していくかが日系運用会社にとっては重要になる。例えば、保有銘柄の情報も含めた詳細な情報をリアルタイムで自社システムに取り込み、ポートフォリオをつぶさに分析し、ガイドラインチェックを含めたリスク管理を強化する必要がある。この対応により顧客に対してきめ細かな情報提供が可能になるのではないか。別会社の場合、2つの部門が距離的に離れ情報連携が難しくなるが、IT技術を駆使することで、その難しさを克服できるだろう(※6)。

商品設計に課題のある日本株ファンド

 顧客満足度を向上させる上でのもう一つの課題は、商品設計に問題のあるケースが増えていることである。例えば、既に制度疲労を起こした商品設計をそのまま採用して顧客満足度を著しく下げているのが、日本株商品である。株式投資の真の目的が絶対リターンであることを理解しているにもかかわらず、他国に比べ市場全体として相対的にリターンが低いと予想されるベンチマークに連動した超過リターンを目指し、結果的に過去10年間、ほとんどプラスのリターンを顧客に提供できなかった。日本株の商品設計が劣化していることは明らかであり、思い切って絶対リターンを目指す設計変更を行い、その設計に対応した投資商品の製造部門改革を行うなどの対応を講じる必要があるのではないか。

 顧客満足度に軸足を置くことが、長期的に顧客からの委託資産を増加させる上で最も重要である。コスト効率の改善も重要だが、顧客視点からの改善案を提示しない限り、資産運用業界が成長できる道はない。製造部門と顧客サービス部門の連携強化や商品設計の改革など多面的な改革が運用会社には求められているのではないか。

1) 信託銀行・生保を除く運用専業の会社のみ。
2) 元本を含めて分配金を支払うこと自体は、投資家への説明が正確にされるのであれば、高齢化に対応した資金払い出し機能を備えているという考え方も出来、悪いこととは考えられない。
3) 年金積立金管理運用独立行政法人の略称。
4) 合計6社が採用され、外資系運用会社が2社、日系運用会社が4社という内訳であった。
5) 年金ファンドでこのような動きが出てきているのは、日本拠点を持つ日系及び外資系運用会社だけを運用委託先としていたのでは、ベンチマークを上回る超過リターンを獲得できないのではないか、との危機意識があるためと思われる。
6) 機関投資家でもサブアドバイザリーが主流になると、大規模な運用部門を持っていた組織自体の見直しも不可欠になるものと予想される。外部の運用会社との連携を強化した上で、自社の強みを強化する組織の構築が今後の顧客満足度を向上していく上で重要になるのではないか。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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