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金融市場パネル報告 IMF/IBRD総会記念 国際コンファレンス

2012年12月号

金融ITイノベーション研究部 嶋村武史, 竹端克利

野村総合研究所(NRI)は、2012年10月12日に「金融市場パネル:IMF/IBRD総会記念 国際コンファレンス」を開催した。「金融市場パネル」は、金融市場の動向と中央銀行の政策に関して考える場として2009年3月にスタートしたが、今般、東京で40年ぶりに開催されるIMF/IBRD総会の時期に合わせて開催することで、登壇者・参加者を含めて海外からの参加者を多数招聘する「国際コンファレンス」として企画した。当日は、従来から本パネルの活動を支援していただいている先を中心に国内外の金融機関、研究機関、金融メディアの幹部や専門家の98名の方々にご参加いただいた。

 コンファレンスにおける議論の詳細は、後日、NRIのホームページ等で開示する予定であるが、本稿では、本パネルの企画と運営を担当してきた立場から、その概要について簡単に報告したい。

基調講演:金融危機後の金融政策の波及について

国際決済銀行 金融経済局次長 Philip Turner氏

 Turner氏は、非伝統的金融政策の波及チャネルを、①将来の政策パスをコミットすることによる「シグナリング効果」と、②中央銀行による資産買入を通じて民間金融機関の貸出やリスク資産取得を期待する「リバランス効果」に分けて整理した。Turner氏は、非伝統的金融政策によって資産価格は概ね想定通りのチャネルを通じて変化したと評価する一方で、年々その効果が低下している点、銀行貸出には目立った増加が認められない点にも言及した。加えて、財政制約の中で中央銀行の国債買入に対する期待が過度に高まり続ける状況(Fiscal Dominance)に言及し、出口政策をより困難にしている点、長期金利が上昇するリスクを内包している点を指摘した。

パネルディスカッション(第1部):金融危機後の金融政策の波及について

  

 第1部では、1)金融政策の波及チャネル、2)資産価格を通じた波及効果及び副作用、3)信用緩和の効果及び副作用、の三つの論点についてディスカッションを行った。

 一点目について、加藤氏は、金融政策に期待される役割が、危機直後のパニック対策から総需要刺激策へシフトした点に触れながら、金融政策はあくまで「時間を買う政策」であり、景気回復のためには、構造的な改革も並行して進める必要があると指摘した。これを受けて柳川氏は、「時間を買う政策」が抜本的な景気浮揚策ではないという意味にも関わらず、人々が景気回復の即効薬としての効果を期待している点に言及し、中央銀行の説明と人々の期待の間にギャップがあると指摘した。

 二点目について内田氏は、非伝統的金融政策が資産価格に与える影響が徐々に低下している点を指摘し、中央銀行による出口戦略の問題や市場メカニズムの喪失といった副作用が大きくなっていると指摘した。また、短期金融市場の機能が低下する中で、誰がインフラとしての金融システム維持を担うかが、今後の重要な論点になりうると指摘した。細野氏は、実証分析結果を紹介しながら、非伝統的金融政策は自国通貨を有意に減価させるケースがあるとしながらも、その効果が持続的かどうかは判断が困難であると説明した。また、国内資産に対する影響が支配的な場合は、非伝統的金融政策は為替レートに対して中立的である可能性も指摘した。

 三点目について柳川氏は、実体経済への効果が市場の予測にも左右される点を指摘し、米国のQEに懐疑的な見方が広がっている点に注意を喚起した。また、中央銀行が企業や家計に直接働きかける経路もありうるとしつつ、これらの主体がリスク回避的である場合、働きかけの効果にも限界があると述べた。

 全体を通じて福田氏は、日本の2000年代前半の経験に言及しつつ、資金需要を喚起しデフレから脱却するには、コストカットに傾斜した構造改革ではなく、効率的な投資を生み出す改革が必要と指摘した。

 パネリストによる議論を踏まえて、Turner氏からは、金融政策のみで構造問題をすべて解決することは困難であること、多くの国が同時に金融緩和を行っても自国の為替レートに大きな効果を与えられないのは自明であること、の2点が指摘された。

 その後、フロアからは、金融政策の評価軸を、銀行貸出ではなくインフレ期待に置いた場合、どのような政策が効果的かという質問が出された。これに対し福田氏は、インフレ期待を直接のターゲットにすることは一つの選択肢ではあるものの効果は限定的であり、より構造的な問題に対応する方が重要であると回答した。

基調講演:日本の銀行のアジア業務を巡る環境について

IFR アジアクレジット部門長 Christopher Langner氏

 Langner氏は、アジア危機後にアジアの銀行の健全性が高まった一方で、欧州系金融機関が足許でアジア向けの貸出を減らしている中、アジアの銀行がその穴を埋めていると述べた。一方、海外向け貸出が急速に伸びており、その規模も大きいので、アジアの銀行が抱える与信リスクが高まりつつある点にも言及した。その上で、バーゼルⅢの導入を控える中、アジア諸国の成長を資金面から支えるために、アジアの銀行は自らがリスクを抱える“originate to fund”型からリスク移転を前提に貸出を行う“originate to distribute”型に転換する必要があるだろうと述べた。

パネルディスカッション(第2部):日本の銀行のアジア業務を巡る環境について

  

 第2部では、邦銀のアジア業務に焦点を当てて、1)地理的特徴、2)ビジネス面での特徴、3)国際部門とアジア業務、の三つの論点についてディスカッションを行った。

 一点目について、高田氏は、預貸率の低さや個人資産の預金への集中といった国内金融構造を背景に、邦銀がアジア向け貸出を拡大していると説明した。これを受けて根本氏は、アジアの一部で銀行貸出の集中リスクが見られる中、リスクを分散しつつ資金需要を支えるため、市場メカニズムの活用が必要ではないかと指摘した。また、江川氏は、邦銀のアジア店舗網が特定の国を中心に拡大している点を指摘した。

 二点目について、根本氏は、邦銀のアジア業務がホールセール主体で、クレジットリスクは総じて低いことを述べた。一方、利ざやの低さと資金調達面でのホールセールへの依存度が高い点を課題として指摘し、収益性の改善策として、現地の人材の有効活用やリテール業務の拡大を挙げた。高田氏は、邦銀がアジア向けビジネスに積極的姿勢を示す中、邦銀の海外向け融資をサポートする政策の必要性を指摘した。

 三点目について、北村氏は、経済理論から邦銀の海外展開を捉えた際に、借り手国政府の影響や複数の貸し手が一つの借り手に貸す場合に生じる外部性から生じる問題を指摘した。その上で、IMFのような国際機関による調整メカニズムとグローバル化のための互恵主義の重要性を指摘した。江川氏は、邦銀のアジア業務は追い風の下にあるとしつつも、その収益性に関する懸念として、CMSにおける大規模なシステム投資の必要性、邦銀間の貸出し競争による利ざや低下の可能性を指摘した。

 その後、Langner氏からは、邦銀の海外融資向けの資金調達の相当程度が国内からという状況で、為替スワップの取引コストが上昇することによる邦銀のアジア向け貸出への影響に関する質問が出された。この点については、外貨建ての起債や現地の公金預金の取り込みなど、外貨資金調達の多様化の流れが出ている点が述べられた。また、出資や提携を含めて現地のリテール預金を取り込む必要性が指摘された。

総括

日本銀行 理事 木下 信行氏

 木下氏は、金融政策と邦銀のアジア業務について、資金調達主体のインセンティブに着目した議論を展開した。第一に、非常時における非伝統的金融政策の必要性を認めつつも、企業の資金調達コストを下げることがインセンティブを歪めるリスクがあること等を指摘した。第二に、邦銀が相対的に優位な信用力を背景に安価な資金の提供を推し進めると、逆選択が起こり、相対的に質の低い顧客を集めるリスクがあることを指摘した。その上で、資金調達主体に働き掛けるチャネルとして、緊密なモニタリングにより市場規律を浸透させていくこと、企業取引を決済と資金の双方から支援すること、の二つを挙げた。

金融市場パネル ―IMF/IBRD総会記念 国際コンファレンス―

2012年10月12日(金)

13:00 主催者挨拶
井上 哲也  野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

― 第1部―

13:10 基調講演「金融危機後の金融政策の波及について」
フィリップ・ターナー氏 国際決済銀行 金融経済局次長

13:40 パネルディスカッション
 ・パネリスト
 内田 和人氏 三菱東京UFJ銀行 執行役員 円貨資金証券部長
 加藤 出氏  東短リサーチ 取締役 チーフエコノミスト
 福田 慎一氏 東京大学大学院経済学研究科 教授
 細野 薫氏  学習院大学経済学部 教授
 柳川 範之氏 東京大学大学院経済学研究科 教授
 ・モデレーター
 井上 哲也  野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

15:20 ― 休憩(25分間) ―

― 第2部―

15:45 基調講演「日本の銀行のアジア業務を巡る環境について」
クリストファー・ラングナー氏 
トムソンロイター IFRアジアクレジット部門長

16:15 パネルディスカッション
 ・パネリスト
 江川 由紀雄氏 新生証券 調査部長 チーフストラテジスト
 北村 行伸氏  一橋大学経済研究所 教授
 高田 創氏   みずほ総合研究所 常務執行役員 チーフエコノミスト
 根本 直子氏  スタンダード&プアーズ マネジング・ディレクター
 嶋村 武史   野村総合研究所 主任研究員
 ・モデレーター
 井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

17:45 総括
木下 信行氏 日本銀行 理事

18:00 懇親会

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

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