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アジア域内銀行のマルチ・ドメスティック戦略と新展開

2012年12月号

NRIアメリカ 主任研究員 片岡佳子

ここ数年、アジアでは、複数国において従来の既存事業基盤や顧客基盤に捉われることなく、新市場での新しい成長機会を追及するマルチドメスティック銀行の存在感が高まりをみせている。こうした銀行の事業モデルは近年深化すると共に、裾野拡大の動きもみられ始めている。

アジアにおけるマルチドメスティック銀行の台頭

 ここ数年、シンガポールやマレーシアなどを本拠国とする一部銀行による、アジア域内銀行事業への出資・買収の動きが活発化している。アジアにおける銀行の海外進出の動きは以前から多く見られたが、既存顧客の海外進出のサポート等、リレーションシップ・バンキングの延長線上にある事業展開が主流であった。しかし最近では、国内市場の飽和・成長の鈍化等を背景に新たな事業基盤や顧客基盤の獲得を企図して海外展開を進める事例が増えている。このように、複数国において新市場での成長機会を追求する銀行を「マルチドメスティック銀行」と呼ぶ。これらの銀行には、従来型の海外展開とは異なる幾つかの特徴がみられる(図表)。

 まず、マルチドメスティック銀行では、買収や出資に際し、必ずしも自国市場と関連の深い地域や事業分野ばかりが対象となる訳ではない。本国市場との中長期的なシナジーの有無は意識されるものの、当該国の市場の成長や規制緩和の進捗度合い、出資・買収価格の妥当性等も重視しながら進出地域が選択される。進出先では、従来のような、海外展開を進める既存顧客への貸出や現地の大手企業へのシンジケート・ローン参加等にとどまらず、現地の中堅・中小企業や個人も新たな顧客として取り込み、資金管理やリテール事業といった広範なサービスを提供することが目指される。そのため、現地で展開する拠点も、単なる支店ではなく、必要に応じて純投資的に事業買収や出資を行うことによる現地法人の設立やその下での広範な支店網の形成が志向される。

 こうした戦略の結果、本拠国の競合銀行が貸付の伸び悩みや預貸率の低下等の構造的な経営課題に引き続き直面する中で、多くのマルチドメスティック銀行ではローン成長率が二桁を上回る水準で推移するなど、その存在感は徐々に高まりをみせている。

マルチドメスティック銀行モデルの深化

 こうした中、このところ、先行するマルチドメスティック銀行において、①更なるビジネスの拡大と②コスト効率の改善を狙った、新しい動きがみられている。

 まず、①の動きとして、進出先で新たに獲得した顧客・事業基盤と自国でのビジネスとのシナジーを高める取組みが進められている。あるシンガポールの銀行は、進出先のタイで、買収等を通じて現地銀行並みの広範なサービスの提供を開始した。この現地法人を活用することで、本拠国における既存顧客のタイ出先に対しても、従来のような定期貸付等にとどまらないサービスを提供できるようになった。加えて、新たに獲得したタイの地元顧客に対しても、シンガポールに事業展開する際のサービス提供を強化し始めている。本拠国での強みを生かした安価な貸出しや資金管理サービスの提供は、タイでの顧客獲得競争において、現地銀行との差別化に有効なばかりでなく、本拠国での収益機会の拡大をもたらす。進出先での事業拡大を本拠国の事業と有機的に結びつけ、更なる収益機会の獲得を目指す戦略的取組みといえる。

 また、別のビジネス拡大の取組みとして、進出先での事業を梃子とした、更なる未展開地域への展開の動きもみられている。マレーシアを本拠とするある銀行では、2008年に買収したタイの銀行を地域統括のハブとして位置づけ、次なる高成長市場と位置づけるラオスへの進出を準備中だ。タイは、隣国であるラオスと歴史的に繋がりが強く、また中国に次ぐ直接投資国として存在感を有する。このように、本拠国からみれば地理的な制約や経済圏の親和性等によりアクセスに限界があった市場に対して、買収を通じて獲得した現地法人の優位性を活かしつつ新たな事業機会を模索する動きは、マルチドメスティック銀行ならではの取り組みといえる。

 同時に、②の動きとして、コスト効率化の観点から複数国をカバーするプラットフォームの構築と、それによるオペレーション最適化に向けた取り組みも進められている。シンガポールを本拠とするあるマルチドメスティック銀行では、1,000億円規模の投資により、主要進出先国におけるコアバンキング・システムの統合作業を実施中である。これにより今後10年間にわたり大幅なコスト削減と、オペレーションの効率化が見込まれるという。また、マレーシアのある銀行は、「ワンプラットフォームプロジェクト」と題したプロジェクトにおいて、グループ内の組織管理体制の統合と標準化を進めている。

裾野が拡大するマルチドメスティック事業モデル

 先行するマルチドメスティック銀行がその事業モデルを深化させ益々存在感を高める中で、同様の事業モデルを採用する銀行の裾野にも拡がりがみられ始めた。直近では、マレーシアの資産規模中位行がインドネシアの現地銀行への出資を行おうとしているほか、台湾の一部銀行がベトナムやカンボジアでの現地銀行買収に乗り出している。

 アジア地域においてマルチドメスティック事業モデルを志向する銀行におしなべて共通するのは、本拠国における低い預貸率や貸出の伸び悩み、低い資金利ざやに象徴される市場の飽和感や閉塞感である。同様のマクロ経営環境にある邦銀にとっても、既存の市場や事業にとらわれない純投資的判断に基づく海外展開は、中長期的な事業戦略を考える上で一つの方向を示すものではないか。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融関連ソリューション企画

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