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地震保険の認定区分の細分化がもたらす課題

2012年12月号

ERM事業企画部 上級コンサルタント 野崎洋之

地震保険は「被災者の生活の安定に寄与すること」を目的としているが、実際には、損害を補償する保険として用いられている。今まさに、商品改定に向けた議論が行われているが、安易な改定は、次なる問題を引き起こす可能性が高い。

地震保険の目的と、その目的を果たすための仕組み

 日本の地震保険(※1)は、地震保険に関する法律に基づいた官民連携による保険制度であり、かかる法律の第1条では、その目的を「被災者の生活の安定に寄与すること」と謳っている。つまり、地震保険は地震による損害を補償する「財物保険」ではなく、被災者の当面の生活費を補う「費用保険」と解することが適切と言える。

 そして、地震保険はこの目的を全うするために、損害保険会社が迅速に保険金を支払うことができるよう、保険の対象物の損害の額の如何に関わらず、損害の程度をもとに3段階で損害を認定して保険金を支払う仕組み(※2)になっている(※3)。

損害保険会社の努力による迅速な保険金支払い

 このように、地震保険では保険金の額を決定するのに簡便な方法を採用している。とは言え、被災者からの入電(事故受付)に対して殆どの場合、損害保険会社の社員や損害保険登録鑑定人等が被災者宅を訪問して損害の程度を調査・協定する必要があるため、損害保険会社にとって、同時に多くの保険金請求が発生する地震という事象(保険事故)に対応するのは容易ではなく、保険金の支払い業務に相当の負荷が掛かってしまう。

 しかしながら東日本大震災においては、損害保険会社各社の努力の結果、迅速な保険金支払いが実施され、受付件数に対する調査完了件数は早い段階から9割を超え、発災から半年が経たないうちに97.5%と、殆どの保険金請求者の要求に適切な対応を行っている(※4)。

保険金の使途

 ところが、その保険金の多くが「当面の生活費」として使われていないという実態が明らかになった。

 東日本大震災から8か月が経過した時点で実施した調査(※5)では、受け取った保険金を「すべて使った」と回答した人は25.0%に留まり、逆に「まだ使っていない」と回答した人が37.5%もいた(図表1)。また、これを金額に置き換えてみると過半が使われておらず、現金又は預貯金として残っていることが確認できた(図表2)。更に、受け取った保険金は、その8割以上が建物や家財、家電の修繕又は再購入費に充てられている(※6)。

 これらに鑑みると、経済的な側面では地震保険に迅速な保険金の支払いは必要なく、かつ、保険金を受け取った人にとって、その保険金は地震保険の本来の目的を超えて財物保険として機能していることになる。しかし、ここには「世帯年収が高い世帯ほど加入率が高く、『当面の生活費』を必要とする生活が不安定な世帯に十分に普及していない(※7)」といった地震保険の課題が隠されている。

保険金の使用状況(N=800、SA)

地震保険制度・商品に関する消費者の要望

 東日本大震災を経験し、消費者の地震保険への関心の高まりから加入者数が大幅に増加する(※8)一方で、地震保険制度・商品の問題・課題について報道等でも多く取り沙汰されるようになった。日本損害保険協会は「保険金の上限の拡大や損害の認定基準の細分化を求める消費者の声に対して業界としての要望を纏めて政府に伝え、商品内容の改定に向けた議論を始める」との考えを示し(※9)、実際に「地震保険制度に関するプロジェクトチーム(財務省PT)」が開催されている。そして先述の調査(※5)からも、損害の認定基準の細分化を求める要望があることを確認している。

認定基準の細分化がもたらす課題

 消費者が「認定基準の細分化」を求めるのは、その認定結果によっては被災者が受け取る保険金の額が1/2、動もすると1/10に減ってしまう可能性があり、その額の違いの大きさに対する不満・問題意識からだと考えられる。そして、認定基準の細分化を図ることは、当然にしてこの問題の解消に繋がるであろう。しかしながら、実際にこの保険商品の効用を得る人の多くは、地震保険に財物保険としての機能を期待していることが想定される。従って、認定基準の細分化を図ったところで、損害の額と保険金の額とが適切に連動していなければ、次なる問題が指摘されるに違いない。

 地震保険は建物主要構造部の損害の程度(※10)をもとに認定することになっており、これには一往の建物全体の損害との連動が図られている(※11)はずである。しかし、地震保険を比例填補(50%)の実損払契約とみた場合に、一部損については保険金の額と損害の額に一定程度適切な関係がみられるものの、全損、半損については決して地震保険は財物保険とは言い難い状況にある(図表3)。

 筆者は、飽くまでも地震保険は現行の目的を踏襲し、補償の範囲を当面の生活費に留めるべきと考えている。しかし、本当に地震保険の認定基準の細分化を行うのであれば、その保険の目的(※12)を問わず、公平性の観点から建物全体の損害と主要構造部の損害の関係にベーシスリスクが生じないような手当てを講じるべきと考える。

保険金の額と損害の額の関係

1) 本稿では、日本で営業する殆どの損害保険会社が共通して取り扱っている家計分野の地震保険について紹介する。
2) 地震保険は建物については5,000万円、家財については1,000万円を上限に、地震保険が付帯されている火災保険契約の保険金額の30%から50%の範囲で契約しなくてはならない。また、全損のときには地震保険金額の全額、半損のときには50%、一部損のときには5%の保険金が支払われる(但し、時価を上限とする)。
3) 野崎洋之「官民一体で責任を分担する家計向け地震保険」週刊金融財政事情、金融財政事情研究会、2011年4月18日。
4) 野崎洋之「東日本大震災を踏まえた地震保険制度の再構築」NRI KNOWLEDGE INSIGHT Vol. 21、野村総合研究所、2011年11月。
5) 野崎洋之・稲垣博信・岩瀬健太「地震保険金の使途等に関する調査」野村総合研究所、2011年11月。
6) 日本損害保険協会「東日本大震災における損害保険業界の取り組みと今後に向けた課題」2011年12月15日。
7) 野崎洋之「消費者の期待に応える地震保険の検討にむけて」損害保険研究 第72巻 第3号、損害保険事業総合研究所、2010年11月。
8) 損害保険料率算出機構「地震保険保有契約件数および新契約件数(都道府県別推移表)2012年7月分」2012年10月15日。
9) 日本経済新聞「地震保険改定へ議論」2011年7月1日。
10) 主要構造部とは軸組、基礎、屋根、外壁等を指し、保険金の額はその損害の程度で決まる。
11) 保険毎日新聞社編(日本損害保険協会監修)「地震保険のすべて」保険毎日新聞社、1972年。
12) 地震保険制度に関するプロジェクトチーム等において、地震保険の目的が確認・再整理され、補償の範囲を見舞金(費用)とするのか財物とするのかが明確になることを想定。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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