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21世紀少年のインセンティブ

2012年12月号

加藤友明

15年前に2つの電子百科辞典のビジネス・モデルがあった。1つ目は、マイクロソフトのEncartaという何千人ものプロに適切な報酬を与えて執筆させた電子百科事典。2つ目は、誰も金を与えられず、みんなが好きだから投稿するだけの電子百科事典。15年前にどっちの電子辞書が勝つと思うかと聞かれたら何と返答したであろうか?後者のWikipediaが勝つなんて言う人は少なかったであろう。

 これは、米国のダニエル・ピンクのプレゼン内容だ。金銭的なインセンティブは、目標が具体的ではっきりしている場合にしか効果を発揮せず、ゴールが抽象的・創造的な環境下ではボーナスは逆にパフォーマンスにネガティブな影響を与えることが様々な実験からファクトとして証明できるとしている。21世紀の仕事は、単純作業は減少し、複雑な事象が増加するので、個人が「自立」の精神のもとに働くことが重要で、20世紀のインセンティブ・モデルは通用しない可能性を指摘している。

 米国では教育の世界でも、様々なインセンティブ・スキームがテストされている。多くは優等生に金銭を与えようとするものだ。ただ、プロジェクトの多くは効果をあげていない。特に金額の多寡は成果にまったく関係がなく、合格点をとった生徒に100ドル払っても、500ドル払っても成績には大差がない。一方、成功しているスキームでは、合格点をとった生徒に単にお金を与えるだけではなく、生徒向けの補修を充実させたり、生徒集めのポスターにラップ・ミュージックのスターを使ったりしている。成功を収めた生徒は、「お金はおまけだけど、合格者と認定されることはクールな感じがする」と語っている。一見不良のような生徒が勉強していい点をとることを「クール」に感じるプログラム、これこそ「自立」を促進するプログラムの効果と言えるだろう。

 一方、日本で逆の動向を指摘する声もある。半数以上の日本のビジネスマンは収入や身近な上司を重要視しているというデータが存在する。この背景として、日本では仕事の成長やチャレンジ機会が減少し、もはやそうした観点は諦めてしまっていることが指摘されている。その結果、目先の収入や上司からの承認、役割の明確化をインセンティブにしている可能性もあるという。

 人間はお金だけで動かず、本質的に「自立」したがっている。「自立」に向けては、チャレンジの機会、権限委譲、適切なリソース・アロケーションといった観点が重要になるだろう。金銭的なインセンティブは、そのようなエキサイティングな仕事を支えるインフラのような存在であるべきなのかもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

導入事例

加藤友明Tomoaki Kato

金融デジタル企画一部長

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