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証券界ストリートワイド訓練に向けて

2012年11月号

ERM事業企画部 主任コンサルタント 森哲也

業界全体や他社に依存せざるを得ない要素を含めた業務継続性を確認する有効な手段としてストリートワイド訓練がある。証券界での訓練実現には様々な課題があることが、小規模なBCP共同訓練から明らかになった。今後も訓練実施に向けた継続的な取り組みが求められる。

ストリートワイド訓練とは

 業界全体や業界横断的に取り組まれる事業継続計画(BCP)(※1)の実効性の確認を目的とした訓練をストリートワイド訓練(マーケットワイド訓練、インダストリー訓練など国により呼称は異なる)と呼ぶ。業界内のみならず、電気・通信・警察・消防など、社会インフラの担当者も訓練へ関与・参加するケースがあることも、この訓練の特徴として挙げられる。

 ストリートワイド訓練は、個社、また業界全体の両面で有用な訓練である。個社の観点では、個社訓練では実施することが困難な、他社との相互依存関係などを検証できる。一方、業界全体の観点では、想定されるリスクに対する業界としての課題と対策について共有できる。

 金融業界における最初のストリートワイド訓練は、2003年に英国で実施され、その後、米国、シンガポール、豪州、フランス、オランダなどで実施されている。訓練シナリオも、テロ、新型インフルエンザ、暴風雨(洪水)、サイバーテロ、オリンピック(※2)と多様である。

 日本では、2010年に全国銀行協会主催のもと、ほぼすべての銀行(正会員123行、準会員61行)が参加して、新型インフルエンザの発生を想定したストリートワイド訓練が実施され、感染まん延期における窓口・ATMでの現金の払出しに関連する業務運営を中心にBCPの実効性の確認が行われている。

 なお、ストリートワイド訓練は、一般的に、利用制約の大きい実機(コンピュータ)の利用や、バックアップサイト等への物理的な移動は行わず、机上シミュレーションの形式で実施される。

複数の証券会社でBCP共同訓練を実施

 証券会社のBCP担当者と意見交換をすると、自社のBCP整備が進む一方で、他社に依存せざるを得ない要素を含めた業務継続性が確保されているかが不安、といった課題を挙げる企業が多い。証券市場は、証券会社だけでなく、インフラ機関(取引所、清算機関など)、当局が各々の役割を果たすことで成り立っており、証券会社だけで訓練を行っても、必要な社会的機能を維持出来るかどうかを、一連のビジネスフローとして一気通貫で検証することができないからである。しかしながら、証券界での業界横断的な訓練は、ウェブツールを使った情報連絡体制、連携体制の確認程度に留まっている状況であった。また、業界横断的な訓練の有用性は各社共通的に理解していても、企業間の調整やファシリテーション、全体管理、ノウハウ不足、多大な準備負荷等、実行するには多くの問題があった。

 このような背景の中、2012年5月、国内大手証券会社3社と当社にて、証券界でのストリートワイド訓練の実現に向けた課題の導出・整理を目的として「BCP共同訓練(プレ・ストリートワイド訓練(※3)」を実施した。

 訓練当日は、各社のBCP担当者が1つの会議室に集まり、訓練時に提示される幾つかの訓練課題(被災状況)に対する自社の対応策を発表し、それについて参加者間で議論し、個社、また個社では解決できない業界全体の課題、懸念事項などを共有した。

訓練からみえた課題

 今回の訓練を通して、証券界ストリートワイド訓練の実現に向けた様々な課題が導出されている。訓練事務局の立場から、運営面での課題を3点挙げる。

1)訓練参加者の交渉・調整

 業界横断的な事業継続性を検証する場合、証券会社だけでなく、インフラ機関、当局、さらには社会インフラ(電気・通信・警察・消防・自治体の災害担当など)を巻き込んだ訓練を実施することが重要なのは前述の通りだが、証券個社や、当社のようなベンダーが主導で訓練参加者の交渉・調整をするには限界がある。参加者の拡大と内容の充実を図るには、海外や他業界に倣い、業界の団体(協会)が音頭を取って、訓練を推進していくことが望まれる。

2)訓練シナリオの準備と運営体制

 証券界と一言で言っても国内大手・中堅から外資系、ネット専用、地場の証券会社など業態は様々である。また、BCPの整備レベルも各社様々である。今回の訓練に参加した3社は、業態もBCPの整備レベルもそれほど大きな違いはなかったが、多様な参加者に対して満遍なく有用な訓練課題を提供するのは容易ではない。

 なお、大規模なストリートワイド訓練では、シナリオ作成に半年以上の期間を掛けている。大規模なものに発展させるためには、それに応じた陣容も必要となる。

3)訓練方法の設定

 今回の訓練は小規模ということで1つの会議室で顔を合わせて実施することができたが、参加企業が拡大していけば、訓練場所を各社に分散して実施することが想定される。分散して実施する場合、BCP担当者だけでなく、現場担当者や意思決定者も訓練に参加できるようになるというメリットがある反面、今回の訓練のような課題共有、相互理解という側面が薄れてしまう懸念がある。共同訓練に特化した話ではないが、訓練目的に応じた訓練方法を設定することが肝要である。

 

 今回の訓練は、試行を優先に、短い準備期間の中で実行されたものであったが、訓練後の事後アンケートでは、訓練に参加した3社が、有意義な訓練であった、次回も参加したいと回答している。業界横断的な訓練の有用性と継続的な取組の必要性について再認識している。

 解決すべき課題は多々あるが、今回の訓練を契機に、参加者の拡大と内容の充実を図りつつ、徐々に大規模なものへと発展できるよう、活動を継続していくことが重要だと考えている。

1) 事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan):事故発生時の事業継続を確実にする継続計画。 具体的には、規程、体制、マニュアル等の対応手順、代替拠点(バックアップデーターセンターやバックアップオフィス)の整備などを指す。
2) ロンドンオリンピックでの脅威を想定した訓練。大量に押し寄せる観光客による交通網の麻痺や通信回線のダウン、デマによる従業員の大量欠勤などをシナリオとして設定。
3) 今回のBCP共同訓練の概略:2011年秋、国内大手証券会社のBCP担当者と当社にて、企画を立案。当社は、訓練事務局として、訓練時に提示する訓練課題の作成や、訓練当日の進行役も担当した。
今回の訓練は、先ずは、実行することが最重要と定め、有志数社で小規模に試行することとした。調整や準備の負荷・時間をなるべく省力化するためである。また、訓練シナリオは、昨今の状況を考えれば地震を題材とすることが望まれたが、同じ理由から、海外等の多くの事例を参考に出来る新型インフルエンザとした。訓練方法も大掛かりなツール類は使用せず、1つの会議室に各社のBCP担当者が集まり、訓練当日に提示される幾つかの訓練課題に対する自社の対応策を各社で発表し、それについて参加者間で議論する形式とした。
訓練当日は、当社会議室に各社数名ずつのBCP担当者が集合し、訓練課題として提示された、「感染拡大期の取引チャネル別(店舗、コールセンター、ネットトレーディングなど)の対応」、「職員の欠勤率が高まる状況下での取引量増加への対応」、「他社でフェイルが発生した場合や関係各機関(取引所、清算機関など)のどこかがクローズした場合の対応」、「当局や協会から求められる報告事項の想定」、などについて自社の計画、課題、懸念事項などが共有された。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

森 哲也

森哲也Tetsuya Mori

金融システムリスク管理部
上級コンサルタント
専門:BCP の構築、評価

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