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プロ向け市場を通じた地域振興の試み

2012年11月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

プロ向け市場を創設したTOKYO AIM取引所は、ほとんど実績を残せないまま、東証グループに吸収合併された。他方、沖縄県内企業のプロ向け市場への上場を支援する会社が設立され、地域振興への貢献を目指している。

TOKYO AIM取引所の吸収合併

 2012年7月、原則として特定投資家や非居住者だけが取引に参加できる証券市場である「プロ向け市場」を開設するTOKYO AIM取引所が東京証券取引所グループ(東証)に吸収合併された。TOKYO AIM取引所の設立は2008年12月であり、わずか3年半余りで独立の取引所としての歴史を閉じることになった。

 プロ向け市場の制度は、2008年の金融商品取引法改正で設けられたものである。制度導入の背景には、有価証券報告書など日本語の開示書類作成のコスト負担が、外国企業による日本市場で株式上場を妨げているといった問題意識があった。法定情報開示制度による保護を必要とする一般投資家の参加しない市場を設けることで、規制に伴う負担の軽減を図ろうとしたのである。

 当初、TOKYO AIM取引所は、東証とロンドン証券取引所(LSE)との合弁事業としてスタートした。英国外の企業を多数取り込んだ株式市場AIMの運営実績を持つLSEのノウハウを活用することで、国際性豊かな市場の実現を目指したのである。

 しかし、TOKYO AIM取引所に株式を上場した企業は2社にとどまり、しかもいずれも国内企業である。2011年5月にはプロ向け債券市場を新たに開設したが、こちらも1社が上場したのみである。

 こうした状況をみて、2012年3月、LSEは事業から撤退することとなり、取引所は東証の100%子会社となった。そして7月には取引所そのものが東証に吸収合併され、プロ向け市場は東証内の市場として位置づけられることになった(図表)。

なぜプロ向け市場は機能しなかったか

 鳴り物入りで創設されたプロ向け市場が、東証やLSEの思惑通りに機能しなかった理由としては、次のような点を指摘できるだろう。

 第一に、かつて活発に行われた東証への外国企業の上場は、ほとんどの場合、日本の個人投資家を対象とする株主作りが狙いであった。日本での株式上場を行わないにもかかわらず、あえて日本法に基づく法定開示書類を作成して個人投資家を勧誘するPOWL(上場を伴わない公募)も同じ狙いの下に行われてきた。

 しかし、個人投資家が取引に参加できないプロ向け市場は、そうした目的にはそぐわない。他方、機関投資家は既に外国企業の本国市場への投資という形で国際的な株式投資を展開しており、国内のプロ向け新市場に対する関心は薄かった。

 第二に、有価証券報告書の作成が不要といったプロ向け市場の制度は、国内のベンチャー企業にとっても魅力的なものとなり得るが、従来、国内の株式新規公開(IPO)の市場は個人投資家中心の市場となっている。ベンチャー企業の多くは、個人が参加しないプロ向け市場でのIPOでは十分な流動性を確保できないと考え、二の足を踏む結果となった。

 第三に、プロ向け市場の構想が最初に提唱されたのは、2007年春頃であり、東証とLSEの提携合意は同年10月に発表されたものである。ところがその後、世界的な金融危機が起き、各国の経済低迷が顕著となるなど外部環境が急激に悪化した。外国企業もベンチャー企業も、株式上場自体を先送りする事態となったのである。

沖縄ジェイ社の挑戦

 実績を出せないまま、大幅な方針転換を余儀なくされたプロ向け市場だが、今後の展開に希望を抱かせるような動きもある。

 2012年9月、プロ向け市場への上場適格性について調査・確認を行い、上場後は適切な情報開示の支援など上場企業への助言・指導を行うJ-Adviser(指定アドバイザー)となるOKINAWA J-Adviser社(沖縄ジェイ社)が業務を開始した。従来のJ-Adviserはすべて既存の証券会社であり、専門会社による新規参入は初めてである。

 沖縄ジェイ社は、沖縄県産業振興公社が県内企業の出資を募って設立したもので、県内のベンチャー企業によるプロ向け市場での資金調達支援を目指す。このような形は、東証等の当初の構想からすれば想定外だが、プロ向け市場制度を地域の産業振興に活かそうとする動きとして興味深い。既に上場支援の第1号企業の具体名も挙がっており、2013年以降は、沖縄県内から年に2、3社程度の新規上場を目指すという。

 これは実質的には沖縄における取引所の創設だとも言える。取引所がコンピュータ化されても上場支援活動には地域性がある。沖縄以外の地域にも応用可能な仕組みであり、今後の展開が注目される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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