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最良執行方針は顧客にとって最良か?

2012年10月号

グローバルソリューション事業部 上席コンサルタント 角田充弘

5%ルール改正に伴いPTSの利用拡大が見込まれるが、取引所のみを利用することが最良執行であるとしている証券会社は少なくない。市場の変化や顧客のニーズ、システムの成熟度に応じた執行方針の見直しが必要である。

取引所のみが最良とした最良執行方針の雛型

 証券会社には、顧客からの注文を最も有利な条件で成立させる最良執行が義務付けられている。この制度は、平成17年4月に、PTSの利用拡大と市場間競争を促すために、取引所と同等のオークションによる価格決定方式をPTSに認めた規制緩和に伴って導入された。

 顧客から特定の取引市場が指定されない場合、証券会社の判断で市場を選択することになるが、その判断結果が顧客に不利なものであってはならない。市場の選択は、気配値段や取引コストなどを総合的に勘案してなされるべきであり、対象とする市場やその選択方法については、最良執行方針として証券会社が個別に定めて、事前に公表することとされた。

 証券会社にとって、一度定めた最良執行方針は、その履行状況が金融庁の検査で問われる可能性があるため、方針の策定にあたっては、日本証券業協会が事前に示した雛型を参考にした所も少なくなかった。

 その雛型では、流動性、約定可能性、取引スピードの全てに優れる取引所を利用することが投資家にとって最も合理的であり、PTSを含む取引所外取引は利用しないとされていた。雛型が作成された当時の市場状況では、銘柄の流動性、価格の透明性、決済の安全性などの点で、PTSは取引所に劣ると見なされていたのである。

無視できなくなったPTSの存在感

 最良執行義務の導入から7年が経ち、PTSの利用シーンは、個人投資家の夜間売買から、機関投資家の日中売買を中心としたものに大きく変化した。

 規模の点では、国内株式の売買代金に占めるPTSの割合は、0.1%未満から5%程度へと、約100倍に拡大した。取引所より有利な気配価格が提示される時間の長さや、板に並んでいる注文数量から、PTSに一定の流動性が認められるとした分析もある(※1)。

 価格の透明性の観点では、主要な情報ベンダーがPTSの気配、約定価格を配信しており、少なくとも機関投資家においては情報格差が減ってきている。また、決済リスクの観点では、清算に日本証券クリアリング機構を利用することが可能となり、取引の安全性が高まった。

 PTSに参加する証券会社の数も大手を中心に増えてきており、機関投資家にとって、もはやPTSが無視できない存在になりつつある現在、最良執行にPTSをどう位置付けるかが問われているのである。

変化に対応できていない最良執行方針

 ところが、証券会社の最良執行方針を見てみると、未だに取引市場の変化に対応できていないものが多い。
 図表1は、年間売買代金の多い上位40社(※2)の最良執行方針をPTSの取り扱い方法で分類したものである。約4割の証券会社は、PTSを利用しないと明記しており、PTSについて触れていない2割と合わせて、約6割の証券会社が取引所での執行のみが最良であるとしている。

 市場の選択方法は明記しないが、顧客との事前取り決めがあればPTSでも執行すると記載しているのは残りの3割弱であり、PTSを含めた市場の選択方法を最良執行方針に定めているのは、僅かに1割という状況である。

 これを外資系証券会社だけを抜き出した16社で見てみると、PTSも含めて最良執行を行うとしているものは6割以上となり、取引所のみと記載しているものとの割合は逆転する(図表2)。

 日系証券会社で最良執行方針を書いているのは、殆どがコンプライアンス部門と思われるが、外資系証券ではセールス部門が原案を書いていると聞く。最良執行方針を積極的に営業シーンで活用し、執行の質の高さをアピールしているそうだが、それがグラフにも表われているのであろう。

最良執行方針におけるPTSの扱い

最良執行を支えるITとの整合

 本年10月には、金融庁が認めるPTSはTOB5%規制の適用除外となる予定である。機関投資家のPTS取引ニーズの拡大が見込まれており(※3)、証券会社にとって最良執行方針を見直す良い機会であろう。

 その際には、新たな市場選択の方法がIT面で実現可能かを考慮する必要もある。複数の市場を監視し、最良気配と待機数量を比較して、瞬時に市場を選択するのは、今や人間ではなくシステムであるからだ。

 その役割を担うものの一つがSOR(スマート・オーダー・ルーティング)であるが、最良執行方針に基づいた動作が実現可能かどうかについて、IT部門が検証を行う必要があろう。

 また、市場選択の結果や、注文が成立した時の値段等が、顧客にとって本当に有利であったのか、事後的に検証する仕組みについても準備しておく必要がある。最良執行義務の中には、顧客からの求めに応じて執行結果に関する情報を交付する義務も含まれていることを忘れてはならない。

 最良執行方針は、一度作っておしまいではない。執行品質を向上させる継続的な取り組みのひとつとして、市場環境や顧客ニーズの変化、またシステムの成熟度に応じて、定期的な見直しが行われるべきである。

1) 五十嵐瑛一「多くの約定機会が眠る国内PTS」、金融ITフォーカス2010年2月号。
2) 2011年度の委託売買代金ベース。
3) 大崎貞和「期待されるPTS利用の拡大」、金融ITフォーカス2012年9月号。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

角田充弘Mitsuhiro Tsunoda

金融デジタル企画一部
上席コンサルタント
専門は株式市場、電子取引システム

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