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「日中金融円卓会合」報告

2012年9月号

金融ITイノベーション研究部長 井上哲也

野村総合研究所(NRI)は、2009年3月以来、金融市場に関する政策を議論する場として「金融市場パネル」(※1)を運営してきた。去る6月24日、中国で同様な活動を行うシンクタンクである「中国金融40人論壇」(CF40)(※2)と合同で金融円卓会合を初めて開催したので、目的や内容、今後の展望を報告する。

1. 会合の目的

この円卓会合の最大の目的は、日中両国の金融市場の健全な発展へ向けて、それぞれの有識者が当局、学界、金融業界といった枠を越えて知見を共有し、意見交換を通して政策運営に資する議論を行うことにある。
 アジアの主要国である日本と中国の金融市場がともに健全に発展していくことは、両国の経済成長に貢献するのみならず、金融危機後の世界の経済や金融システムにとって重要な意味を持つことは言うまでもない。このため、実体経済が成熟化し、人口の高齢化が進む中で安定成長に即した金融のあり方を模索する日本と、急速な経済成長の中で金融のさまざまな領域における自由化を着実に進めている中国という異なる経済環境の下にある両国が、自国へのインプリケーションを意識しつつ、互いに相手国の課題 について意見を交わすことには大きな意義がある。
 両国の間では既にこうした問題意識に基づく官民双方での様々な取り組みがあるが、この金融円卓会合も、金融市場に関する政策を中心に一翼を担うことを目指している。

2. 会合の内容

会合に際して、NRIは日本側のプレゼンターとして、西村吉正氏(早稲田大学名誉教授)、深尾光洋氏(慶應義塾大学教授)、根本直子氏(スタンダード&プアーズ社マネジング・ディレクター)を北京に招聘した。また、本会合の企画に際してご支援をいただいた財務省と日本銀行からは、それぞれ、貝塚正彰氏(在北京日本大使館公使にご出向中)、新川陸一氏(日本銀行北京事務所長)、岡嵜久実子氏(中国人民銀行上海総行にご出向中)の各位の参加を得た。このほか、中国問題の専門家として、関根栄一氏(野村資本市場研究所北京事務所長)にもご出席いただいた。
 これに対し中国側は、魏加寧氏(国務院発展研究センターマクロ経済部副部長)、管涛氏(国家外貨管理局国際収支司司長)、瞿強氏(中国人民大学金融証券研究所副所長)がプレゼンターとして参加したほか、討議においては、鐘偉氏(北京師範大学金融研究センター主任)、劉明志氏(上海新金融研究院)、賈康氏(財政部財政科学研究所所長)などが発言された。
 初回会合である今回のテーマは、NRIの事務局であるNRI北京の神宮健氏と当方が、CF40側の事務局である王海明氏(CF40秘書長)と事前に協議し、日本経済の長期停滞とそのインプリケーションとした。なかでも、CF40からは、かつての日本での金利や為替の自由化との関連に焦点を当てて欲しいとの要請があった。これには、言うまでもなく、現在の中国にとって金融自由化を可能な限り副作用の少ない形―特に金融システムの安定を維持した形で進めることが重要な政策課題であることが背景にある。
 こうした問題意識を踏まえて、日本側からは、西村氏が日本の金利自由化の経験に関し、二つの「コクサイ化」―国債の大量発行と日米円ドル委員会等を通じた米国の圧力―が契機であった点を指摘しつつ、前者の影響がより重要であったことや、自由化の完成に長期間を要した背景に「護送船団行政」に関する国民の強い支持があったことを説明した。深尾氏は、為替規制を緩和することで、中国も経済発展の継続に必要となる海外の経済資源の取得を円滑にするメリットが生じることを指摘した上で、日本では変動相場制の下で対ドルでの大幅な円高が進行したが、大部分は日米のインフレ格差、つまり国際競争力を反映したものであったと述べた。また、根本氏は、日本で金利自由化とともにバブルが生じたことには、預金貸出利鞘の縮小に直面した銀行の貸出先シフトによる面も大きい一方、銀行による与信リスク管理が未整備であったことや監督当局が適切な対応を採らなかったことも大きいと説明した。また、預金保険等のセーフティーネットが早期に整備されたことで銀行預金が安定的に維持されたが、銀行サービスの供給過剰に繋がっている面もあると述べた。
 これに対する中国側のプレゼンテーションを含む討議では、①円高と日本経済の停滞との関係、②資産価格インフレの防止における中央銀行の役割、③金利自由化と金融システムの安定、といった論点に主として焦点が当てられ、予定の時間を大きく超過する活発な議論が行われた。
 まず、日本経済の長期にわたる停滞にとって、プラザ合意以降の大幅で継続的な円高が大きな影響を与えたかどうかに関しては、いわば「最初のドミノ」の役割を果たしたとする意見や、日本経済の「自信過剰」を通じて構造改革の先送りに繋がったとする見方が示された一方、円高自体よりもその影響を過大評価した政府・日銀の不適切な政策がその後のバブルへの道を拓いたとして、いわば間接的な形で契機になったとする解釈など、様々な意見が提示された。
 併せて、日本経済の停滞自体に関しても、イノベーションや経済のサービス化などの面で米国に大きく水をあけられたといったネガティブな評価だけでなく、経済発展が一定の水準に達すれば中国も同様の状況になるといった指摘や、時間をかけた緩やかな調整を選択したことで社会の安定が維持されたことを再評価すべきといった見方も示された。
 日本の不動産バブルに関しては、その過程で当局も兆候を十分に把握できたはずであるのに、なぜ有効な政策措置が採られなかったかという問題が提起されたが、マクロ経済の他の部分が安定的であった中で強力な引締めを行うことには、金融システムの実態把握の面でも政策手段の面でも課題があり、こうした課題は世界的金融危機を経た現在でも未解決であるとの議論があった。なお、この論点に関しては、日銀の独立性が不十分であったことが機動的な政策運営の妨げになったか否かという問題提起もなされ、中国のような政策決定過程の下での金融政策の独立性という新たな視点の必要性を指摘する意見があった。
 また、金利の自由化については、マクロ経済の調整手段としての金融政策の有効性を高める面がある一方で、預金や貸出を巡る銀行の競争を過熱させることで、金融システムの安定にとっての副作用も大きいのではないかという懸念が挙げられた。この点は先進国の実例によって裏付けられている面もあるが、日本に関しては、不適切な政策対応の方がバブルの発生にとって重要であったという指摘がみられたほか、中国経済の課題である投資効率の低さを改善する上でも、金利メカニズムの活用の意義は大きいとの意見が示された。
 この論点に関しては、中国で金利自由化を進める上で預金保険制度のようなセーフティーネットの整備をどう考えるかという問題も提起され、日本の経験も踏まえて必要性自体には大きな異論がなかった一方で、より広義のセーフティーネットに関して、巨大な国営銀行への信認が存在する下での位置づけや、銀行の破綻処理法制など重要な要素の整備といった政策課題を指摘する向きが見られた。(なお、議論の詳細に関しては、「第1回 日中金融円卓会合議事概要」<http://www.nri.co.jp/opinion/r_reportに掲示>もご覧下さい)。

3. 本会合の評価と今後の展望

本会合については、日中双方とも、現在ないし過去に中央銀行や当局で実際の政策運営に関与した経験を持つだけでなく、現在もそれぞれの立場で現場の第一線で活躍される方々の参加が得られたことの恩恵として、実際の政策課題について具体的で実務的な議論を行うことができた。この点は、中国側の参加者からも高い評価を得ている。
 NRIとCF40との間では、取り敢えず年に2~3回のペースで会合を続けていくこととしており、第2回の会合を本年晩秋に東京で開催すべく、関係当局の支援をいただきながら調整を進めている。
 本会合自体、NRI北京がこれまで中国内で築いてきた人的ネットワークがあってこそ実現したものであるが、今後に機会を重ねていくことで、NRIによる日中双方での人的なネットワークの一層の強化に繋げていくことが期待される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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