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欧州清算機関の競争と統合

2012年9月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

欧州では、取引所や清算・決済機関の競争と統合を促す政策を背景に、清算手数料の大幅な引き下げ競争が進み、さらには取引所グループと清算機関の経営統合という動きにつながってきている。

金融インフラ間の競争と統合を促してきた欧州

ロンドン証券取引所グループ(以下、LSEG)は2012年3月、大手清算機関LCHクリアネットの株式の過半を取得する意向を表明した。当局認可を経て2012年第4四半期に手続きを完了する見込みという。
 欧州は市場統合により米国並みの規模の経済を目指す施策を証券取引所や清算機関、証券決済機関にも適用し、互いを競争させながら数の集約を図ろうとしてきた。
 結果、取引所ではパリやアムステルダムなどが統合し、その後NYSEとも合併してNYSEユーロネクストにつながった。清算機関では英国のLCHとフランスのクリアネットが2003年に合併。証券決済機関では国際決済機関のユーロクリアがフランスなど7カ国の機関を傘下に収めた(※1)。いずれも同種の金融市場インフラを地域的に統合したことから、水平統合と呼ばれている。
 一方、欧州にありながらドイツ取引所グループ(以下、DBG)は一カ国で取引所から清算機関、決済機関に至るバリュー・チェーンを統合した経営組織を崩していない。金融市場インフラ間の競争政策を支持する市場参加者や当局からは、DBGの垂直統合は水平統合の流れを妨害するもの、あるいは取引所取引の後工程をグループ内に囲い込み収益を独占しているとの批判が絶えなかった。それでは何故、今回、取引所による清算機関の取り込みという垂直統合に見える動きが出てきたのであろうか。

新興勢力の台頭と手数料の引き下げ

 大きな要因としては、取引所や清算機関の機能を担う新興勢力の台頭があげられる。欧州では競争政策を背景に、2007年からMTFと呼ばれる代替的な取引の場が登場し、組み合わされる形で新しい清算機関が相次いで参入した(※2)。例えば、MTFのChi-X(チャイ・エックス)(※3)に組み合わされたEMCFや、ターコイズに組み合わされたEuroCCPがその代表である。
 MTFの隆盛に伴い新しい清算機関の取り扱い件数も急拡大した。2011年の1日平均清算件数はLCHクリアネットの300万件に対してEMCFが460万件と凌駕し、EuroCCPも90万件と追い上げている。
 競争激化を背景に、清算サービスの手数料も低下した。LCHクリアネットやDBG傘下のユーレックス・クリアリングなど伝統的な清算機関の株式清算サービス平均手数料は、2007年から2011年にかけて軒並み半額から三分の一となった(図表)。
 さらに、2012年1月にはMTFでの約定分について清算機関の相互運用性が実現された。相互運用性とは、銀行ATM網のように清算機関が互いに連携し、ある市場参加者が一つの清算機関に参加すれば、取引相手が別の清算機関に参加していても清算可能とするものである。結果、自社に対する手数料やサービス内容だけを考慮して選べるようになり新しい清算機関を利用しやすくなる。相互運用性は将来、伝統的な証券取引所の約定分にまで拡大される見込みであり、LCHクリアネットの経営は規模拡大による抜本的なコスト競争力強化を迫られていた。
 しかしながら、欧州域内ではDBGやスイス証取グループ傘下の清算機関は独自路線、イタリアの清算機関も既にLSEG傘下にあり交渉相手に乏しい。米国のDTCCによる買収受入れ検討も実現には至らず(※4)、清算機関どうしの水平統合による規模拡大は行き詰っていた。

LSEGのデリバティブ強化戦略

 LSEGの立場からLCHクリアネットの統合を見ると、今回の経営統合発表からは、現物株に係る垂直統合、水平統合といった従来の軸に加えて、現物とデリバティブの市場インフラ統合という軸が浮き彫りになる。
 まず現物株にフォーカスすると、確かに垂直統合にはなる。しかし、欧州では前述のとおり既に清算機関どうしの競争状況が生まれており、ロンドン証取での約定分について未来永劫LCHクリアネットでの清算に囲い込むことは難しい。従って独占の批判はあたらない。
 デリバティブについて見ると、LCHクリアネットは金融先物や商品先物を含めた多様な清算業務を擁しており、特に金利スワップ清算業務では世界で圧倒的な地位にある。ドッド・フランク法や欧州市場インフラ規制の導入を背景に、世界的に店頭デリバティブ取引の清算需要拡大が見込まれており、さらには店頭デリバティブ取引から上場デリバティブ取引への需要シフト期待もある。
 上場デリバティブ取引の場合、垂直統合が一般的であり、新商品の開発やリスク管理で有利と主張されている。実際、世界最大手のCMEグループをはじめ、多くのデリバティブ取引所が清算機関をグループ内に持つ。また、NYSEユーロネクスト傘下のLiffeは、大陸欧州市場分についてLCHクリアネットへの清算委託を2013年6月末に終了し、ロンドンのグループ内清算機関に集約すると発表した。業務および証拠金等の効率化を謳っている。
 証券発行国に集中しがちな現物株取引と比較して、デリバティブは国境を越えた競争が激しい。たとえ取引所と清算機関の垂直統合関係が強くても、全体としての競争力が低ければ、利用者は他所に移ってしまう。LSEGとLCHクリアネットが統合し、LSEGが上場デリバティブ市場を整備・強化したとしても、世界的な競争状況に置かれる限り、独占にはあたらないであろう。
 日本においても、TOPIX等を擁する東京証券取引所と、日経225先物等を擁する大阪証券取引所の合併に向けた準備が進められている。取引の場と共に、清算機関もひとつのグループ傘下に入る。世界的に、垂直統合したデリバティブ取引所・清算機関グループ間の競争が繰り広げられる中で、新しい上場商品の開発や業務・証拠金等の効率化が一層進むことが期待される。

1) ベルギー、フィンランド、フランス、オランダ、スウェーデン、英国およびアイルランド。
2) 新しい清算機関が台頭してきた頃の状況については、金融インフラ2008年7月号「欧州清算機関の競争激化」に詳しい。
3) 現在は米国のBATS と統合してBATS Chi-Xとなっている。
4) DTCCによる買収検討については金融インフラ2008年10月号「DTCCとLCH.Clearnetが合併へ」に詳しい。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙Ken Katayama

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