1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. 期待されるPTS利用の拡大

期待されるPTS利用の拡大

2012年9月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

日本の株式市場におけるPTS利用の妨げとなってきたとされるTOB規制上の5%基準の適用が見直される。機関投資家によるPTS利用に弾みがつくものと期待されるが、本格的なHFT時代に備えた規制やシステム・インフラの見直しも必要である。

伸び悩むPTS利用

欧米の株式市場では、伝統的な証券取引所の市場外で売買注文のマッチングを行う電子取引システムが機関投資家を中心に盛んに利用されている。米国では、ニューヨーク証券取引所の自市場上場銘柄取引シェアは3割程度にまで低下した。欧州では、新興の電子取引システムBATSチャイエックス・ヨーロッパが、ロンドン証券取引所をしのぐ最大の株式取引市場を運営している。
 日本でも、1998年の「日本版ビッグバン」実施へ向けた法改正で、取引所外の電子取引システム(PTS)の開設が証券会社の認可業務として解禁された。現在、チャイエックス・ジャパンとSBIジャパンネクスト証券の2社が上場株を取引するPTSを運営している。
 PTSの取引シェアは、日本証券クリアリング機構(JSCC)による清算取扱いの対象となったことや取引所市場とは異なる呼び値の刻みの設定が機関投資家に評価されたことなどから2010年下期以降、徐々に拡大している(図表)。それでも取引シェアは5%前後にとどまっており、既存の取引所の地位を脅かすまでに成長した欧米市場とは状況が大きく異なっている。
 このようにPTSの利用が伸び悩んでいる一つの理由として、株式公開買付(TOB)規制との兼ね合いが指摘されてきた。金融商品取引法は取引所市場外で株式を取得し、株式の所有割合を5%超にする場合は、61日以内に10名以下の者から取得する場合を除きTOBの実施を義務づけている。多くの機関投資家は、意図せずしてこの5%基準に抵触することを懸念し、PTSを通じた株式の買付けを控えているというのである。

 

5%基準の適用除外へ

こうした中で、2012年6月、金融庁が金融商品取引法施行令及び関連内閣府令の改正案を発表した。その内容は、注文や約定に関する情報をリアルタイムで公表するなど、一定の要件を満たすものとして金融庁長官の指定を受けたPTSを通じた取引については、前述の5%基準を適用しないというものである。
 改正は、パブリック・コメント募集を経て、2012年10月から施行される予定である。現在株式の売買を取り扱っている2つの証券会社の運営するPTSは、いずれも法令上の要件を満たして金融庁長官の指定を受けられるものと見込まれる。TOB規制への抵触の可能性という懸念材料が解消されれば、これまでPTSの活用に二の足を踏んできた機関投資家の対応が大きく変わることになるだろう。
 金融庁が、このタイミングでの規制見直しに踏み切った背景には、取引所市場とPTSが投資家の売買注文の獲得を競い合うという形での市場間競争を促そうとする狙いがあったと言える。
 欧米諸国では、市場間競争の活発化が市場全体の流動性向上と価格形成の効率化につながっている。一方日本では、従来、重複銘柄の売買注文獲得をめぐってライバル関係にあった東京証券取引所(以下「東証」)と大阪証券取引所の経営統合が進められようとしている。
 両取引所の統合計画は、2012年7月、独占禁止政策を所管する公正取引委員会による事実上の承認を得たが、その判断に至る過程でも、金融庁による規制見直しが競争制限への懸念を和らげるポジティブな要素として評価されたのである。

今後の課題

おりから東証は、株式売買システム「アローヘッド」の注文応答時間を従来の2ミリ秒から1ミリ秒以下に短縮するバージョン・アップを実施した。既に東証市場では、発注サーバーを取引所システムに直結するコロケーション・サービスを利用する注文が全体の3割程度を占めるに至っているとされる。
 取引システムの高速化とPTS利用の拡大は、高度なシステムを通じて頻繁に売買を行うことで市場に流動性を供給するHFT(高頻度取引)を用いたトレーディングを更に活発化させることも予想される。そのことが日本の株式市場の流動性向上につながるのではないかとの期待は大きい。
 HFTによるトレーディングをめぐっては、米国で市場環境が急速に悪化した場合に事態を更に深刻化させる可能性が指摘されたり、売買注文のキャンセル増大がシステムに与える負荷が懸念されるなど問題点も指摘されている。そうした問題点を解消するための規制改革も検討されている。日本においても流動性の向上というHFTのもたらすメリットを享受しつつ、負の側面が市場の混乱につながることのないよう規制やシステム・インフラの見直しを進めていくことが求められるだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

この執筆者の他の記事

大崎貞和の他の記事一覧

注目ワード : PTS

注目ワード : HFT(高頻度売買)

注目ワード : arrowhead

このページを見た人はこんなページも見ています