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中国自動車保険市場の魅力と参入の課題

2012年8月号

社会システムコンサルティング部 上級コンサルタント 野崎洋之

中国の自動車保険市場は成長の余地が大きく、魅力的である。また、強制保険が外資に開放され
たことで、日本の損害保険会社にとっても参入の機会は拡大した。しかし、成功を得るにはロスプ
リベンション等を意識した「チャネル戦略」が重要となる。

中国の損害保険市場と日本の損害保険会社の中国展開の現状

成熟した日本の損害保険市場が内需の低迷に苦しむ中、海外に目を向けてみると、そこには着実な成長を遂げ、まだまだ拡大の余地がある中国の損害保険市場がある。実際に直近10年を振り返ってみても、経済の発展や国民の生活水準の向上に伴って、年率10%以上、2008年の世界金融危機の時でさえ17.0%と、高い増収を実現している(図表1)。また、日本の損害保険会社にとって中国は、独資1)で現地法人を設立することが可能な国であり、日本の製造業などの中国進出に帯同し、ホールセールや再保険取引を中心に事業の拡大を図ってきた。
 しかし、中国の損害保険分野における収入保険料の8割近くを占める自動車保険2)、そしてリテール市場への展開は、自動車交通事故責任強制保険(以下「強制保険」)の取り扱いが「中国資本の損害保険会社」に限られていたことが障壁となって困難を期していたはずである。

中国自動車保険市場の開拓に、なぜ強制保険の外資開放が必要なのか?

 中国も日本と同様に、自動車保険は「強制保険」と「任意保険」の2階建て構造になっている。しかし、中国には日本のような強制保険と任意保険の間の一括請求制度3)がないため、両者を異なる損害保険会社で契約してしまうと保険事故に遭遇した場合、保険金の請求に二重の手間が生じてしまう。そこで中国では、自動車保険の契約者のほとんどが、強制保険と任意保険を同じ損害保険会社で契約する4)。
 強制保険の取り扱いについては日本も中国政府に対し、外資の損害保険会社への開放を強く求めてきた。そして、2012年3月30日の国務院令618号の発表によって、同年5月1日よりその開放が決定した。中国の WTO加盟から既に10年以上経ってしまったが、今まさに、日本の損害保険会社は「中国」という大陸への進出の切符を手にしたことになる。

日本とは異なる自動車保険の募集・販売の実態を把握してチャネル戦略を考える

 中国における自動車保険の募集・販売は、「新規契約」と「継続契約」とによって取扱者(チャネル)が異なり、新規契約については約8割が自動車販売店で加入する。一方、2年目以降の継続契約は、自動車販売店の継続率が35%程度と低く、全体の約7割が損害保険会社による電話販売(以下「直販」)に切り替わってしまう。日本の経験からは考え難いことであるが、そもそも自動車販売店を介して引き受けていた損害保険会社が、契約者に直接電話して販売店から契約を奪取することも当然にして行われている(図表2の「旧契約を保有する保険会社」)。
 日本の損害保険会社は、この実態を把握した上で、自動車販売店で新規契約を獲得し継続率を高める仕組みを構築するのか、または他社の契約(他社新規)を直販で獲得していくのか、戦略を定める必要がある。

強制保険が外資に開放されても、まだ残る「リテール」「自動車保険市場」への参入の障壁

 強制保険が外資に開放されたとしても、自動車保険市場への参入が即座に容易になるわけではない。以下のような障害が横たわっているのが現状である。

(1)収支の償わない強制保険

 2006年7月に強制保険制度が発足して以来、強制保険は順調にその収入保険料を伸ばしており、2010年 1月1日から12月31日までの契約件数は101百万件5)(加入率73.5%6))となっている。しかし、損害保険会社にとって強制保険が収益性の高い保険商品かというと決してそうではなく、保険引き受けによる利益を計上できたのは2008年のみであり、2010年については97億元の引き受け損失を出している5)。
 このように、収支の償っていない強制保険であるが、ノーロス・ノープロフィットの原則7)に立ち返れば、保険監督管理委員会は、収支の安定化を目的に強制保険料率の改定(引き上げ)を実施することが適当と考えられる。しかし、実際には2008年2月1日に、補償内容の拡充を図るとともに、保険料率の引き下げを行っている。

(2)不適正な保険募集・販売

 中国において強制保険は勿論のこと、任意保険についても補償内容や保険料率はすべての損害保険会社で同一または類似のものである。また、かかる保険商品を募集・販売することで得る損害保険代理店の手数料率は地域の保険業協会によって定められており、強制保険については4%、任意保険については15%程度になっている。
 しかし実際には、損害保険会社間や代理店間の競争の中で、不適正な募集・販売は増加傾向にあり、損害保険会社による代理店手数料の過払いや保険料の割戻しなど、不祥事案は絶えない状況にある。外資の損害保険会社は、こうした不適正な募集・販売に巻き込まれない方策を採る必要がある。
 中国における消費者の自動車保険の加入動向から、自動車販売店および直販は有力なチャネルといえる。そして、日本の損害保険会社にとって、先述の通り、どのチャネルに注力するのかは重要な検討課題である。
 しかし、中国でのリテール展開では、単に消費者へのアクセサビリティを考えるだけではなく、収支の安定のためのロスプリベンション8)やアンダーライティングの仕組み、不祥事件に巻き込まれない方策を考慮したチャネル戦略の検討が必要である。

1) 100%外国資本で中国の出資者を有さないことをいう。
2) 本稿では、特別な説明を付した場合を除き、強制保険と任意保険を纏めて「自動車保険」と記す。
3) 日本では、任意保険の引受保険会社が自賠責保険部分も含めて保険金を支払う一括払いが実務的に行われて
いる。
4) 野崎洋之「中国自動車保険市場 急成長市場への参入と課題」保険毎日新聞社、2012年7月。
5) 中国保険業協会「中国保監会による2010年度の強制保険業務状況についての公告(保監公告(2011)15号)」2011年8月4日。
6) 加入率は、強制保険の契約件数を自家用車及び商用車の和で除して算出した。
7) 強制保険を取り扱う損害保険会社に、利潤も損失も生じないことをいう。
8) 損害に繋がることを事前に予見し、被害を最小限に抑えようとすることをいう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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