1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. ホールセールビジネス
  6. CVA評価がもたらす公正価値測定へのインパクト

CVA評価がもたらす公正価値測定へのインパクト

2012年8月号

投資情報サービス事業部 主任研究員

世界金融危機以降、店頭デリバティブにおける取引先の信用力を評価する手段として注目されるCVAであるが、その評価と会計への導入には様々な課題が存在する。

世界金融危機を契機として、取引相手のデフォルトリスク(カウンターパーティーリスク)を時価評価する手段、CVA(Credit Valuation Adjustment)が注目を浴びている。本誌2012年6月号ではリスク管理とバーゼル規制上の観点からCVAを論じたが、本稿ではCVA評価に伴う損益の認識や会計上の課題について議論する。

カウンターパーティーリスクの時価評価

 CVAとは、金利スワップ等の店頭デリバティブ契約やレポ取引等の証券金融取引に際し、取引相手が将来デフォルトした際に受ける期待損失の現在価値のことであり、銀行貸出における引当金に相当する概念である1)。本来デリバティブの時価を評価する際には、取引相手の信用力を織り込む必要があり、CVAはその価格調整の額を表す。
 上記の取引相手の信用力を考慮した価格調整を一方向CVAと呼ぶが、相手の信用力だけでなく、自分の信用力も価格調整に入れる概念もある。自分の信用力に伴う価格調整のことをDVA(Debt ValuationAdjustment)2)、また一方向CVAとDVAの双方を考慮した価格調整を双方向CVAと呼ぶ。
 図表1にデリバティブの相対取引を単純化した例を示す3)。金融機関Aが取引相手Bと通貨スワップ取引をして、1年後に1ドルを受けとり、100円を支払うポジションを取ったとする。1年後に為替レートが1/2の確率で110円、または90円になると想定すると、前者の場合、デリバティブは正のエクスポージャを持っており、満期時点で10円の利益が出るが取引相手Bが満期前にデフォルトしてしまうと、その収益機会が失われてしまう。そこで取引相手Bのデフォルト確率を2%と仮定した場合、金融機関Aはその期待損失に対する引当金、すなわちCVA=0.1円4)を計上し、内部で管理することになる。デフォルト考慮前の通貨スワップの時価は0円であるが、CVAを考慮すると、相手のデフォルトリスクは時価に対してマイナスに寄与するため、一方向CVAにより価格調整を行った時価は?0.1円となる。この0.1円は取引開始時に、取引相手Bに対してチャージすることもあり得る。
 一方、90円となったとすると、満期時点で10円の損失となるが、仮に金融機関Aが満期前にデフォルトした場合、その支払いを避けることができるため、それは自社のベネフィット5)であると考えることができる。これがDVAであり、金融機関Aのデフォルト確率を1%と仮定した場合、DVA=0.05円となる6)。DVAはベネフィットであるため、時価に対してはプラスに寄与する。そのため双方向CVAで時価調整を行う場合、一方向CVAにDVAを足すことになり、時価は?0.05円となる7)。
  重要なポイントは、双方向CVAを採用している場合、自身の信用力が低下すると(デフォルト確率が上昇すると)DVAが高くなり、デリバティブの時価も高くなると言うことである。上記の例で言うと、金融機関Aのデフォルト確率が4倍の4%になると、DVAも4倍の0.2円となり、時価は+0.1円となる8)。信用力は日々変動し、それは日々の時価に影響を与える。双方向CVAによりデリバティブの公正価値を測定する場合、自社の信用力が落ちると価格が上昇して利益が発生するという現象が起きるのである。

会計におけるCVA損益の認識と課題

 米国では米国財務会計基準審議会(FASB)が公表しているASC820(旧FAS157)とASC825(旧FAS159)において、デリバティブは公正価値測定されることになっており、金融機関は双方向CVAにより価格調整された時価を会計に計上する。図表2は米国大手4社が発表している、2011年第3四半期から2012年第1四半期までの、DVAによる各四半期の損益の一覧である。2011年第3四半期は各社の信用力が低下したことにより、非常に大きなDVAによる利益を計上しているが、信用力の回復ととともにDVAは損失の方向に動いている。
 DVAは自社の信用力が低くなったときに発生する見かけ上の利益であり、それを会計に計上することについては直感的に違和感がある9)。例えば、ゴールドマンサックスはDVAのヘッジにより、この見かけ上の利益を相殺しており、2011年第3四半期におけるDVAの利益は4.5億ドル程度と、同時期の他の金融機関と比べると、非常に小さい値である。一方で、会計基準とバーゼル規制との間の不整合などにより、DVAのヘッジに対しては慎重に状況を見極める向きも多い10)。これは①会計上は双方向CVAが求められるが、バーゼルIIIのCVA資本賦課は一方向CVAに相当する概念であること11)、②バーゼル委員会は今年2月に発表した市中協議文書12)で、DVAを自己資本として認めない方針を示しており、これによりDVAのヘッジも認識されず、ヘッジに利用した商品に対しても資本賦課を要求される可能性があること、などの理由による。
 国際会計基準(IFRS)も双方向CVAを反映させることを要求しており、今後IFRSが適用されれば、本邦金融機関も米国と同様の問題にさらされる可能性がある。またIFRSのIAS39が求めるCVA計算手法は非常に複雑であり13)、バーゼルIIIとは別の対応を迫られることになるだろう。今後の規制動向は不透明ではあるものの、徐々に対応を始める必要がある。

1) 基本的な概念に関しては、本誌2012年6月号を参照されたい。
2) Debit Valuation Adjustmentとも言う。
3) 単純化のため、担保取引やデフォルト時の回収率は考えない。また金利もゼロと仮定する。
4) 為替レートの推移確率1/2×デフォルト確率2%×未実現利益10円=0.1円
5) 富安弘毅(2010)「カウンターパーティーリスクマネジメント」の表現を拝借している。実際の利益と区別するために、ベネフィットと表記する。
6) 為替レートの推移確率1/2×デフォルト確率1%×未実現損失10円=0.05円
7) 一方向CVA?0.1円+DVA0.05円=?0.05円
8) 一方向CVA?0.1円+DVA0.2円=+0.1円
9) そのため最近は、DVA控除前と控除後の値を決算報告書等に併記する場合が多い。
10) Risk, 2012 March
11) 加えて、先進的手法を選択した場合、バーゼルIIIで規定された評価式を用いてCVAを評価する事になるが、これには市場リスクファクターが含まれておらず、会計上利用するCVAの評価式と異なる可能性がある。
12) Basel Committee on Banking Supervision(2012), “Application of own credit riskadjustments to derivatives”
13) IAS39は、CVAの計算について明確な手順を示していないものの、①公正価値ヒエラルキー(公正価値の算定
に使用した価格や金利等のインプットの種類に応じ、レベル1? 3に分け評価)に沿ったCVA測定、②市場での公正価値評価方法(デリバティブ評価を行う際に一般的な、リスク中立測度における価格評価のことなど)の踏襲、③期待損失を表すCVAの計算方法が、IAS39の定める信用毀損時の会計処理と整合的であること、などの条件を定めている。(Risk, 2011 January)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

このページを見た人はこんなページも見ています