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情報化時代の不動産投資分析

2012年8月号

公共経営コンサルティング部 主任研究員 谷山智彦

勘と経験と度胸の世界と言われていた不動産投資市場にも、ようやく情報化の波が訪れている。
今後は、過去のイメージにとらわれず、豊富な情報を活かして不動産投資を分析すべきである。ま
た、それらの情報に基づいた「不動産情報産業」の誕生にも期待したい。

価格が不透明で、情報の非対称性が強く、勘と経験と度胸がモノを言う市場。多くの投資家にとって、不動産市場のイメージは、バブル崩壊期の頃と同じく、未だ悪いままであろう。しかし、今や日本の不動産市場は、当時とは比較にならないほど透明化されており、世界でもトップレベルの情報公開を推進していることをご存知だろうか。現在の不動産市場は、他の市場から十数年遅れて、ようやく「情報化時代」が到来している。過去の苦い経験から「不動産」というだけで拒絶反応を示さず、近年整備された豊富な情報インフラを活用し、不動産投資を客観的・論理的に評価・分析すべきである。

不透明というイメージが強かった日本の不動産市場

 不動産投資のメリットとして、安定的なキャッシュ・フローの獲得、収益率の向上、ポートフォリオのリスク分散、そしてインフレヘッジという4点が語られることが多い。しかし、日本における不動産投資は、実物資産であることに伴う流動性の低さ1)だけでなく、市場の透明性が低いという大きな課題を抱えていた。
 一般に、市場の透明性は、上場ビークルのガバナンス、規制や法制度、取引プロセスの信頼性などに加え、投資パフォーマンスの測定精度や、市場データの水準に基づいて判断される2)。特に、日本の不動産市場においては、投資パフォーマンスの測定や取引価格情報の精度が最大の不透明要因とされてきた。実際、ほんの最近まで、市場を代表するインデックスや、オフィス市場や住宅市場の詳細な取引データを入手することは不可能であった。
 これは、投資家の立場から見れば、流動性リスクだけではなく「透明性リスク」までも負うことを意味する。そのため、受託者責任や説明責任、投資プロセスの透明性が強く求められる機関投資家にとっては、いくら数多くのメリットを説明されても、日本の不動産市場への投資を躊躇してしまう要因となっていた。また、信頼できるデータに基づいて理論的に評価・分析できないため、「勘と経験と度胸」と揶揄されるように、不動産のリスクマネジメント手法も未熟なまま発展していなかった3)。

日本の不動産市場も、やっと「情報化時代」へ

このような状況を打破するため、産官学による積極的な取り組みが行われ、近年では、不動産投資に関する情報は、以前とは比較にならないほど充実しつつある。もちろん幾つかの課題は残っているものの、もはや「不透明な不動産市場」というイメージは過去のものと言える。
 特に、不動産投資において重要となる情報としては、投資パフォーマンス測定のためのベンチマーク・インデックスと、実際の不動産の取引価格情報4)がある。前者の不動産インデックスは、既に数多くの指数が開発されており、群雄割拠とも言えるまで乱立してきている。さらに今後も新しい指数の登場や既存指数の改良が予定されており、投資家側にとっては、多様な切り口で不動産投資市場を捉えることができるようになるだろう。
 また、後者の不動産の取引価格情報に関しても、上場しているJ-REITは、全ての個別保有不動産の実際のデータを公表しており、約2,000物件の詳細な不動産情報を、半期毎(決算期毎)の時系列データとして誰でも自由に見ることができる5)。これは東京証券取引所の上場会社数とそれほど変わらず、J-REIT市場の拡大に伴って、公表データ数は今後も増加していくだろう。
 さらに、J-REITの保有不動産以外であっても、2006 年から、国土交通省が全国の個別不動産の取引価格情報を公開している6)。物件数は、2011年11月時点で約 123万件であり、この膨大なデータを、ホームページからCSV形式で誰でも自由にダウンロードできる。
 特に、これらの情報インフラから得られるデータは、取引価格や成約賃料などのキャッシュ・フローに関連する情報以外にも、個別物件の詳細な属性(面積、築年数、最寄駅からの距離、構造等)も入手可能である。まさに少し前には考えられなかった「情報化時代」に突入しつつあり、今後はこれらを投資家側が活用する段階にある。

情報化時代における不動産投資の分析手法とは

 不動産投資の投資判断において最も重要なのは「物件の立地」や「ファンド・マネージャーの能力」であると言われてきた。しかし、穿った見方をすれば、入手できるデータの制約上、投資家が自分で判断できるのは、立地ぐらいしかなかったからではないだろうか。
 前述したような豊富な取引価格情報に基づけば、地域毎の不動産の価格形成要因の分析や個別物件の価格評価、投資パフォーマンスの測定など、株式市場や債券市場を対象とした手法に勝るとも劣らない分析が可能である。不動産の属性を用いたファクターモデルや、個別物件のバリュエーション、さらにはオーダーメイドで不動産インデックスを推計することも可能であろう。さらに、不動産投資市場では、国土交通省や不動産鑑定士などによるテキストデータも膨大に存在しており、これらをテキストマイニングすることで、不動産市場の投資センチメントの変化を長期的に捉えることさえもできる7)。
 不動産と金融の融合と言われて久しいが、今後は評価・分析手法でも融合を進展させ、従来の勘や経験、そして度胸だけに頼らずに、株式や債券などの金融資産と同等のフレームワークで理論的に評価すべきである。

日本における「不動産情報産業」の登場への期待

 ところで、2011年7月、米国NASDAQ市場に、オンライン不動産情報サービスを展開するZillowが上場した。米国全土の住宅価格を“Zestimate”と呼ばれる独自の手法で推計し、ホームページに住所を入力するだけで、隣の家の価格や賃料の時系列推移(推計値)を示してくれるサービスを展開している8)。住宅を購入しようとする個人だけでなく、不動産業者や居住用不動産への投資家にとっても人気のサービスとなっている。
 米国では、このZillow以外にも、TruliaやRedfinなど、不動産に関連する豊富な情報を収集し、それを分析する独自のモデルを活用したビジネスを展開する「不動産情報産業」とも呼べる産業が2005年前後から育ちつつあり、活況を呈している。
 今後は、日本の不動産市場においても、幾多の困難を乗り越えて整備されつつある豊富な情報を活用し、不動産の「情報化時代」に即した新たなビジネスモデルが登場することを期待したい。

1) 低流動性への対応については、金融ITフォーカス2011年3月号「日本における新たな不動産金融商品の登場」を参照のこと。
2) ジョーンズラングラサール社が2年毎に世界主要都市の「不動産透明度インデックス」を公表しており、2010年では日本は世界81ヵ国中26位となっている。
3) 詳しくは、国土交通省「不動産リスクマネジメントに関する調査研究」(2010年3月)を参照のこと。
4) 募集価格や鑑定評価額ではない、実際の不動産の取引価格情報が強く求められていた。
5) 不動産証券化協会「J-REIT個別保有不動産検索システム(http://jreit-pdb.ares.or.jp/J-REITView/)」や、様々な民間企業がデータを収集している。
6) 国土交通省「土地総合情報システム」にて自由にダウンロードすることができる。詳しくはhttp://www.land.mlit.go.jp/webland/を参照のこと。
7) 不動産市場は、金融市場以上にセンチメントが重要であり、実際にテキストマイニングに基づいて投資センチメントを推計してみると、不動産価格に大きな影響を与えていることが分かる。
8) http://www.zillow.com/を参照のこと。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

谷山智彦Tomohiko Taniyama

ビットリアルティ株式会社
取締役
専門:オルタナティブ投資

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