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若年層の相談ニーズを取り込む生命保険業界のニューチャネル

2012年7月号

金融コンサルティング部 コンサルタント 松崎智彦

インターネットチャネルや保険ショップ等、近年生命保険市場に登場した「ニューチャネル」の利用は着実に増えている。今後、生命保険業界では、ネットでの情報収集ニーズや、専門家への相談ニーズに総合的に応えられるチャネル連携が求められる。

生命保険の「ニューチャネル」の着実な普及

 近年の生命保険業界には、2つの大きな動きが見られる。1つは、主要顧客の高齢化を受けた医療・介護・運用などシニア向けビジネスへの注力であり、もう1つは、資金余力のない若年層に対する低コスト商品・チャネルによるアプローチである。本稿では後者についての消費者のニーズと対応の方向性をとりあげる。
 若年層向けの低コストのチャネルの代表例としては、インターネットチャネルや保険ショップ(「ほけんの窓口」や「保険クリニック」等の来店型総合保険ショップ)が挙げられる。金融サービスに関するインターネットチャネルは、2000年代前半から証券・銀行分野で普及が始まり、最近では損保にも広がってきている。しかし、生保ではまだ立ち上がったばかりのステージと言われる。また、保険ショップは2000年代後半になってよく目にするようになってきた。これら「ニューチャネル」の普及状況は実際どうなっているのだろうか。
 NRIが首都圏(1都3県)の生活者に対して実施した「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)2011」(※1)によると、上記ニューチャネルが出現する前と後、即ち2001年以前と2008年以降で、生命保険の加入チャネルは大きく変化している(図表)。かつて生保加入の半数近くを占めていた生保レディからの加入は減少傾向にあり、電話・DMをきっかけとした郵送による手続きが増加傾向にある。インターネットチャネルや保険ショップといったニューチャネルの割合は、全体からみると割合はまだまだ小さいものの、1%から7%へと急上昇している。

インターネットで情報収集し、対面で加入する若年層

 生保加入におけるインターネットの利用の特徴は、情報収集・検討においてネットを活用する人が増えているものの、加入手続きまでネットで完結させる人はまだ少ないということである。
 前述の調査結果からは、ネットで資料請求して申込書を郵送する人の割合は0%から3%に増加しているが、ネットで直接加入手続きまで行った人は殆どいないことがわかる(図表)。
 同調査では「将来的に生命保険に加入する際のネットの利用意向」についても尋ねているが、情報収集および検討目的でのネットの利用意向は全世代で高く、なかでも20~40代では5~6割に達する。一方、ネットでの加入まで想定している層は全世代で1割未満と少ない(※2)。ライフネット生命のような、ネットで加入手続きまで完結できる企業のシェアがどこまで高まるかは、今のところ不透明である。
 生命保険は、自動車保険のように毎年更新する保険とは異なり、生活者にとっては大きな額の支払いとなるため、ネットで加入手続きまで完結させることに不安を感じる人が多いのだろう。実際、NRIの別の調査によると、ネットを頻繁に利用する世代である20~30代で、情報収集は自身で実施するような能動的な人であっても、生保加入を検討する際に専門家への相談ニーズを持つ人の割合は7割と高い(※3)。生命保険は長期的かつ内容を理解することが難しい分野であるとの認識が強いため、情報収集に便利なネットチャネルと、相談に便利な対面チャネルとを組み合わせて利用したいという意向をもつ人が多いと考えられる。

チャネル選好の違いに応える保険ショップや保険情報ポータルサイト

 保険ショップを活用したビジネスモデルは、いま述べたような幅広い情報収集ニーズと専門家への相談ニーズの両方に応える仕組みを兼ね備えていると言える。
 保険ショップは、10社以上の商品を扱う保険比較サイトを運営し、利用者の情報収集ニーズに応えている。さらに、WEBで保険ショップの店舗検索や相談予約を行える機能があり、専門家への相談ニーズにもスムーズに応えられるようになっている。加えて、スーパーマーケットや駅等の便利なところに立地していて気軽に立ち寄れること、多くの保険会社の商品を取り扱っていること、相談は何回でも無料であること等によって、利用者が相談しやすい環境を整えている。
 保険ショップと同じく複数の保険を取り扱い、専門家の相談を受けられるチャネルとしては保険専門代理店が以前から存在するが、20~30代の女性については、保険ショップの方が今後の利用意向が高いという結果が出ている(※4)。保険ショップが保険専門代理店に比べてまだ数が少ないとを考慮すると、若年層、なかでも女性に、保険ショップは支持されていると言える。 情報収集ニーズと相談ニーズの両方に対応できるチャネルは保険ショップだけではない。保険情報ポータルサイトを主軸に、ネットでの情報収集から専門家の派遣につなげるサービスを提供する、保険マンモスのような企業も現れている。保険マンモスは、ポータルサイト上で保険選びの基本的な情報提供を行った上で、ファイナンシャルプランナー(FP)との対面での無料相談サービスの申し込みを受け付けている。中立の独立系FPが相談に乗るという点が、従来の保険専門代理店とは異なる魅力である。
 保険ショップや、保険マンモス等のポータルサイトのように、ネットと対面を組み合わせて幅広いニーズに応えるサービスは、ネットを頻繁に利用する若年層を中心に、今後も普及を続けると見られる。課題としては、相談を受けるFPが保険会社から販売手数料を得るビジネスモデルであるため、相談サービスの中立性をどのようにして担保するか、といったことが挙げられる。
 今後、生命保険業界におけるニューチャネルが、保険販売拡大のためというより顧客志向のサービスを提供するチャネルとして定着するならば、主流のチャネルとなる日も来るだろう。

1) 「NRI生活者1万人アンケート」は、NRIが1997年から3年毎に行っている全国規模の訪問留置型のアンケート調査。2010年からは、金融商品・サービスの利用に特化した「金融編」を新たに開始した。2011年に、「NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)2011」を実施したが、この年は、3年毎に行う調査の間を補完するために、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の18歳~ 79歳の男女個人4,484名を対象に、2011年8月~ 9月にかけて、主に、東日本大震災の金融行動に与えた影響について訪問留置型の調査を行った。2) 1)の調査内の設問「今後生命保険の加入を検討する際、インターネットを利用したいと思いますか」に対する回答結果。
3) 1)の調査とは別に、NRI が2010年10月~ 11月にかけてインターネット上で実施した調査より、生命保険への加入を検討する際の考え方についての設問の回答結果。選択肢は「①生保レディに相談したい」「②自分で調べて不明な点だけ専門家に確認したい」「③自分で調べて専門家には会わずに加入したい」「④生命保険はよくわからない・面倒なので専門家にお任せしたい」の4択。②を「情報収集は自身で実施するが、専門家への相談ニーズも持つ層」と見做している
4) 1)の調査内の2つの設問「今後、駅周辺やスーパーなどにある「保険ショップ」を利用してみたいと思いますか」「今後、ショップタイプではない「保険専門の代理店」を利用したいと思いますか」に対する回答結果。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

松崎智彦

松崎智彦Tomohiko Matsuzaki

コーポレートイノベーションコンサルティング部
主任コンサルタント
専門:金融機関のチャネル改革、業務改革、リスク管理

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