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ルーレットとサイコロで地震を予測

2012年7月号

猪野淳一朗

 今年の一月、「今後4年以内にマグニチュード7級以上の首都直下地震が発生する確率が70%程度という予測を東京大学の研究チームが発表」という記事が各紙に掲載された。また浜岡原発付近に震源域を持つ東海東南海地震も今後30年以内に87%で発生するという政府の試算が出された。この「4年以内に70%」や「30年以内に87%」という数字はどのように計算されるのだろうか。
 東海東南海地震を例にとると、その発生原因は「フィリピン海プレートとユーラシアプレートの圧縮・反発による運動」であり、経験的におおよその周期も確認されている。しかし、その発生時期、兆候などに関しては、精度の高い予測は実現されていない。そのため、1つの“数理モデル”を作る必要がある。まず初めにモデルのパーツとなる「年間に東海・東南海地域で発生するすべての地震の回数を占うルーレット」と「1回あたりの地震の規模を占う規模サイコロ」の2つを用意する。ここで、ルーレットは過去の地震の統計情報をできる限り収集して、出目に各年の地震の回数が書かれているものを作成する。サイコロは地震の規模が大きくなると頻度が減少するという経験則に基づき、マグニチュードの数字が面に書かれた多面体のものを作成する。例えば、そのサイコロでは「M3の目がM4の十倍多く用意されている」といった具合である。これらのルーレッ トとサイコロを使って、「30年以内にM7級以上の地震が発生する確率」を占うとしよう。まずルーレットを30回、すなわち30年分回転させて出た目の数を合計して、今後30年に起こる地震の発生回数を仮想的に決定させる。次に地震の回数だけサイコロを振り、今後30年のすべての地震の規模を占う。この「今後30年の地震の規模を占う作業」を100万回繰り返して、M7級以上の地震が1回でも起きた30年の回数が87万回であれば、最終的に発生確率は「30年以内に87%」と求めることができるのである。
 このようにいつかは必ず起きるが、その時期の予測が難しい事象を確率的に捉えるということは金融機関でも行われている。例えば、銀行において事務手続きミスによる損失は必ず起こるものと考えられるが、その発生時期の予測は難しい。そのため金融機関は過去の業務からどの程度の頻度でミスが発生し、どの程度の規模の損失が発生するかを経験的に分析する。その結果を踏まえて、シミュレーション(=ルーレットとサイコロ)を行い、仮想の年間の累積損失額を計算して発生しうる損失に備えることにより業務が滞ることを防ぐのである。
 地震や金融機関の損失のどちらも発生時期の予測はできない。しかし、いずれそれらの事象は発生する。そのため、私たちはいつ危機が発生しても対処できるように、常に防災やリスク管理を怠るべきではないのである。

(猪野 淳一朗)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

猪野淳一朗Junichiro Ino

投資情報サービス開発部
主任コンサルタント
専門:リスク管理

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