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震災が金融行動に与えたインパクトとデジタルなシニアの増加

2012年6月号

金融コンサルティング部長 上席コンサルタント 宮本弘之

本稿から4号にわたって、NRI生活者1万人アンケート調査シリーズ(※1)の分析に基づいた、日本人の金融意識・行動の構造的な変化の方向性について述べていく。第1回は、震災及び中期的な社会構造の変化によって生まれた、絆意識や新たなアドバイスニーズに対応した金融サービスの拡充の必要性を述べる。

震災前から強まっていた家族や地域コミュニティの絆

 東日本大震災は、日本人の絆意識を強めたと言われる。
 NRIが震災後に首都圏で実施したアンケート調査(※2)(以下、2011年調査)では、「約半数の人が被災地に義援金を送り、被災地の商品を意識して買うようになった」という結果が出た。また、「資産の状況を家族などにわかるようにしておこうと思った」割合や、「加入している損害保険の補償内容や支払い条件を確認した」割合も、それぞれ約3割に達した(※3)。
 これらの変化は、震災後に急に生まれたわけではない。家族や地域コミュニティの関係が徐々に強まっていることは、震災前から、観察されていた。例えば、NRIが全国で3年毎に実施してきたアンケート調査(「生活者1万人アンケート調査」、注1参照)によれば、自分の親と片道1時間以内のところに住んでいる割合(いわゆる近居・隣居)は、2000年の46%から2009年には51%に増加した(※4)。近居・隣居の親子は、週末の食事や買い物、孫の世話、自家用車の利用、介護などを共にすることで、精神的・経済的に強く結びついている。
 また、隣近所との関係に対する意識も徐々に変わってきた。「迷惑がかからなければ、隣近所の人とはお互いに干渉しない方が良い」というドライな考えに賛成する割合は、意外にも、この10年間一貫して低下している。これが、震災という国難に直面した際に、助け合いの気運が盛り上がる土壌となったのである。
 これらの背景には、約20年に及ぶ経済の低迷や、政治不信・官僚バッシングなどに象徴される公的な組織・機関に対する信頼の低下があると考えられる(※5)。不安の増大や「お上(かみ)には頼れない」という意識が、自助や共助へと向かったのである。つまり、震災のインパクトは一過性のものではなく、顧客の意識や行動は、構造的に変化していると考えるべきなのである。

500万人を超え、急増するデジタルなシニア

 ここ10年の構造変化の中でもう一つ注目すべきは、既に500万人を超えたデジタルなシニア(※6)の増加である(図表)。高齢者の人口増加とシニア世代でのITの普及に伴い、デジタルなシニアは急増しており、今後毎年、数十万人単位で増えていくとみられる。デジタルなシニアは、お金(資産)、時間、ITリテラシーの三つをあわせ持つ、「魅力的だが、手強い顧客」である。

デジタルなシニアの推計人口

 ここで注目しておきたい点は、デジタルなシニアの金融行動が極めて活発なことである。例えば、デジタルなシニアの投資経験率(※7)は6割を超えているのに対し、アナログなシニア(※8)の投資経験率は3割強に過ぎない。2011年調査からは、デジタルなシニアはアナログなシニアよりも、多くの金融資産を持ち、金融商品の情報を積極的に集めるなど、行動的な性格を持つことがわかっている。これが両者の投資経験率の差につながっているのであろう。投資商品以外の金融商品・サービスの利用や、インターネットや保険ショップなどの新しいチャネルの利用においても、同様の傾向が見られる。
 ここから、「ネットを使いこなすデジタルなシニアを、自社にロイヤリティの高い顧客にできるか」が、今後のリテール金融ビジネスの成功条件になると考えられる。

「情報洪水」の中で顕在化する新たなアドバイスニーズ

 インターネットを使いこなす顧客には、低廉なネットチャネルがあれば十分と考えがちである。確かに、若年層中心のネットバンクやネット証券は、インターネットチャネルだけで成長してきた。ネット専業の金融機関においては、顧客の自己責任を前提とし、基本的に、金融機関はアドバイスサービスを提供していない。

 しかし、デジタルなシニアはアドバイスニーズが旺盛である。2011年調査では、「お金に関することは、専門家の意見やアドバイスを参考にしたい」と思う割合は、アナログなシニアで26%であるのに対し、デジタルなシニアでは35%と高い。「情報洪水」とも言える昨今の状況の中で、デジタルなシニアには、膨大な情報の整理・取捨選択から顧客の意思決定までを支援するという、新たなアドバイスニーズが生まれたと解釈できる。

 金融機関は、絆意識の強まりや新たなアドバイスニーズに対応した金融商品・サービスを考え始めている。

 その一例として、三菱UFJ信託銀行は、2012年3月に、月々の生活資金や万一の際に必要な資金を本人が受け取ることができ、かつ、相続後に遺族が継続して生活資金を受け取ることができる機能をあわせ持った「ずっと安心信託」の販売を開始した。本人の生前の資金ニーと相続後の遺族の生活資金ニーズに同時に対応できる点は、まさに、家族の絆の強まりを捉えた金融商品と言える。

 また、ソニー損保は、自動車保険の事故解決サービスとして、顧客の専任担当者が事故解決まで一貫して対応する「1事故1担当者制」をとり、ダイレクト損保でありながら、ハイタッチな顧客サービスを実現している。同社のお客様専任担当者は、問合せや事故受付の後、3時間以内に顧客に連絡することを約束している。また、同社のインターネットサービスセンターでは、顧客専用に用意された伝言板(コミュニケーションボード)で、24時間いつでも、担当者への問い合わせや質問を書き 込むことができ、また、担当者からの回答を確認できる。

 これらの動きから考察すると、震災後のリテール金融ビジネスは、「複雑なニーズを持ち、きめの細かい対応を求める顧客に対して、商品のパッケージングや進化するITチャネルを活用して、高い付加価値を効率よく提供する」という方向に進むであろう。

1) NRIが1997年から3年毎に行っている全国規模の訪問留置型のアンケート調査。調査対象は15歳~ 69歳の男女個人。調査年度は1997年、2000年、2003年、2006年、2009年。各回1万サンプル強の有効回答を得ている。2010年からは、金融商品・サービスの利用に特化した「金融編」を新たに開始した。
2) NRI生活者1万人アンケート調査(金融編)2011:この年は、3年毎に行う調査の間を補完するために、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の18歳~ 79歳の男女個人4,484名を対象に、2011年8月~ 9月にかけて、主に、東日本大震災が金融行動に与えた影響について訪問留置型の調査を行った。
3) 義援金を送った割合、被災地の商品を意識して買うようになった割合、資産の状況を家族などにわかるようにしておこうと思った割合、損害保険の補償内容や支払い条件を確認した割合は、総じて、インターネットを頻繁に利用する層及び高齢層において高かった。すなわち、後述するデジタルなシニアは、震災によって金融意識や行動に大きな変化があったセグメントと言える。
4) 設問の対象は、自分の親が健在で、配偶者のいる人。
5) 注1と同じアンケート調査において、警察官、学校の先生、郵便局・郵便局員、中央官庁の官僚、政治家などを信頼する割合が徐々に低下している傾向がみられる。
6) パソコンを使って、ほぼ毎日インターネットを利用する60代~ 70代を、「デジタルなシニア」と定義する。
7) 投資経験率は、株式・債券・投資信託などに投資したことがある割合。
8) デジタルなシニア以外の60代~ 70代を「アナログなシニア」と定義する。インターネットを2日に1回以下利用する人、インターネットを利用しない人の両方を含む。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

宮本弘之

宮本弘之Hiroyuki Miyamoto

コンサルティング事業本部
パートナー
専門:金融機関の経営戦略、プライベートバンキング戦略

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