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投資信託の「公正価値測定に関する基準」準拠への課題

2012年6月号

資産運用ソリューション企画部 システムコンサルタント 山本由香理

IFRS(国際財務報告基準)の公正価値測定に関連する基準(IFRS13号)は投資信託にも適用される可能性が高い。基準準拠にあたっては、各社および業界における実務ルールの策定、業務を効率的に行うためのシステム対応や監査法人との検討などが必要である。

ファンドにも及ぶ可能性が高いIFRS公正価値基準

 日本では現在、IFRS(国際財務報告基準)のコンバージェンス(※1)が進められている。既に銀行などではIFRSに準拠した会計情報の開示が始まっている。
 IFRSは適用対象に議論の余地がある基準ではあるが、運用会社にとっても無関係とはいえない。運用会社自体がその親会社のIFRS導入によって適用対象となる場合もあるだろう。またそれだけでなく、有価証券報告書を公表している投資信託等のファンドについても、今後IFRSへの準拠が求められ、それに則した情報開示が義務化される可能性が高いと見るべきである(※2)。
 ファンドのIFRSへの準拠にあたっては、まず「公正価値測定及びその開示に関する会計基準」(以下、公正価値基準)(※3)に沿った保有財産の価値測定、並びにそれらを開示するレポートの整備を検討すべきであろう。IFRS全体の強制適用は2017年以降と目されるが、公正価値基準はそれに先駆けて、早ければ2013年度からの適用となる(※4)ため、先行しての準備が必要となるからである。

公正価値測定及びその開示に関する会計基準とは

 公正価値とは、秩序をもって通常通りに取引が行われた場合の価格のことである(※5)。公正価値基準では、各商品の公正価値は、公正価値の算定に使用した価格や金利等のインプット値の種類に応じ、レベル1~3に分け評価することが要求されている。
 まずレベル1の商品とは、活発な市場での公表価格を調整せずにそのまま入手できる商品を指す。国内外の主要取引所で売買される株式が代表例である。
 レベル2の商品は、インプットとして用いる値が観察可能な値であり、価格の妥当性が投資家に判断できるものである。日々公表されるスワップレートを用いて計算された国内外の債券価格等がこれに当たる。
 レベル3の商品は、観測不能な値を重要なインプット情報として用いて評価価格が算出されているものである。
 公正価値基準では、保有商品を上記の3つのレベルに分類した上で、各レベルの保有額、レベル間の資産移動額とその移動理由などの開示を求める。
 さらにレベル3の商品については、入力数値と公正価値の間の感応度分析や、相関関係の記述的説明、詳しい評価プロセスなど、詳細項目の追加開示も求められる。
レベル3の商品は、価格を直接観測できず、開示側の価格付けに対する恣意性をどうしても排除できない。そのため、価格付けに利用した指標の内容や、価格とその指標の関係など、投資家がその価格の妥当性を判断できる材料を開示側に提供させることが、これらの措置の狙いと言えるだろう。投資家はこれらの情報を用いることで、開示側の価格の信頼性や情報開示に対する姿勢を評価することが可能になると考えられる。

ファンドの公正価値測定にあたっての課題

 運用会社がファンドの公正価値基準への準拠を行っていくには、今後二つの課題を解決する必要がある。
 一つ目の課題は、フレームワークのみが記述されている公正価値基準を、実施可能な明確な業務ルールへ落とし込むことだ。
 この基準にどの程度厳格に準拠するかの判断は、オペレーション指針や情報開示水準において、他社との差別化を図ることにつながる。価格推計のロジックなどを投資家に分かりやすく情報開示することで、運用会社として投資サービスを向上することができるからだ。ゆえに、まずは個社ごとに、会社としての情報開示の在り方や、後述の作業負荷とのバランス、投資家へのサービスレベルを検討した上で、具体的な適用ルールを決定する必要がある。
 ただし個社ごとに検討を進めるとしても、横比較が可能な公正な価値評価の基準とするには、やはり業界としての一定の共通ルールも必要となってくる。例えば、非公開株式や仕組債など価値把握が複雑な金融商品の公正価値測定は、前述の通り恣意性が働きやすい部分である。こうした商品についても完全な個社判断のみとなると、同一商品であるにも関わらず各社で異なるレベルとして測定が行われる可能性が高い。また、ファンドオブファンズの評価や時価採択の基準等、現在の投信協会ルールと公正価値基準に齟齬がある部分についても、統一すべき重要なルールとして業界の判断が必要となる。これらの共通ルールを投信業界で制定するには、先行して議論が進められている銀行や保険業界の状況を睨みつつ、投信協会、各運用会社、時価ベンダー、システムベンダーを巻き込んでの検討が不可欠である。
 二つ目の課題は、上述の業務ルールに従い日々業務を行うための社内体制やシステム対応等、管理体制の整備と、投資家へ開示するレポート内容の決定である。この課題に対応するためには、業務負荷やフローを正確に把握した上で、監査法人との間で入念な調整が必要となる。
 公正価値基準では決算の度に開示が求められる。設定しているファンドの数が多い運用会社では、ファンドによって決算日が異なるため、ファンドの基準準拠の負荷が一般上場企業に比して大きくなる。よって、実際に運用にのせるには、公正価値測定の業務フローの効率化の検討が不可欠である。重要なインプット情報となる時価ベンダーの開示資料の管理、日々の各商品のレベルと資産額の管理などは、機械的に行える業務の例だろう。こうした業務に関しては、システム対応や監査法人との事前の合意形成により効率化が可能だ。
 一方、レベル3の追加開示などは、個別対応が必要となるため、作業負荷はやはり高くなる。各開示項目がどの程度有用なのか、投資家側からの評価が進められていないこともあり、開示範囲の判断も難しい。また、ファンドオブファンズではファンドの組み入れ内容についてまで詳細な開示を求められる可能性もある。こうした各種負荷から、レベル3に属する投資対象の組み入れを避ける動きもあると聞く。だが決められたリスク(政策)の下で最大限高いリターンを投資家に提供することが運用会社に求められる役割であり、作業負荷から投資対象を絞るのでは本末転倒である。価格付けの透明性向上により、投資家にとっての商品選択範囲はむしろ広がるはずである。サービス向上に繋がるこれら業務について、削減を図るのではなく、重要なプロセスとして作業の効率化を志向していく、という発想の転換が必要である。

1) 会計基準のコンバージェンス(収斂)とは、自国基準を維持しつつ、IFRSとの差異を縮小することである。ASBJ(企業会計基準委員会)は、米国財務会計基準審議会(FASB)と国際会計基準審議会(IASB)のプロジェクトの内容を踏まえ、日本基準のコンバージェンスを行っている。
2) 昨今外国籍投信の取り扱いなどが議論される中、明示的な何らかの基準準拠による取引の透明性確保が急務とされている。現在行われている投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング等の中でも、金融庁が昨今の各種グローバル基準を踏まえた上での投信関連基準の整備の必要性を謳っている。
3) 具体的には、IFRS上の「公正価値」の測定に関するガイダンスとして発表されている「IFRS第13号」のこと。
4) IASB(国際会計基準審議会)がIFRS第13号を発表したのは2011年5月12日のことだが、2012年4月現在、ASBJ(企業会計基準委員会)による日本版の確定基準公開は未だなされていない。現時点では2013年度からの基準適用が見込まれているが、確定基準の公開が更に遅れる場合、適用時期の後ろ倒しの可能性もある。
5)「 測定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろう価格又は負債の移転に支払うであろう価格」とされる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

山本由香理

山本由香理Yukari Yamamoto

資産運用サービス事業二部
システムコンサルタント
専門:資産運用ソリューション企画

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