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事業フェーズに入った震災復興に求められるもの

2012年6月号

社会システムコンサルティング部 部長 神尾文彦

復興事業が動き出した被災地域では、住宅、交通等を中心に早期のサービス提供が求められる一方で、持続可能性に配慮した事業設計も必要である。そのため、街づくりと地域活性化を並行して担うコーディネーターの形成が極めて重要となる。

復興事業推進に向けた課題

 東日本大震災から1年以上が経過した。2012年の3月上旬に、被災自治体に対して東日本大震災復興交付金が交付され、被災自治体では復興事業が動き出している。しかしながら、ここ半年、復興のあり方について議論してきた被災市町村の担当者からは、事業が着実に歩み出すのとあわせて、計画段階とは別の課題に直面しているという声を聞く。
 それは、住民にとって安心で魅力あるまちにするため、再生エネルギーやICT(※1)を盛り込んだ最先端の都市基盤やインフラを構築していきたい意向がある一方で、復興過程を通じて行われる過大な投資が、決して財政規模の大きくない自治体にとって後に過大な負担にならないような事業の設計を考えなければならないという点である。また、多くの復興事業が同時に動くなかで、どのような順序で事業を進めれば、行政に負担が少なく、手戻りのない事業が推進できるのかも模索している。ゼロから住宅、インフラ、産業等を作り上げていくことが求められているものの、被災地域の行政職員の平均年齢は40代後半であり、ほとんどの職員は、既に築かれた街を拡張・改造した経験こそあれ、新しい街を築き上げた経験があるわけではない。
 本稿では、このような課題解決に向けて被災市町村と議論してきた内容の中から、復興まちづくりの事業推進上抑えるべきポイントについていくつか示したい。

早急に取り組むべきは住環境整備と生活交通サービスの提供

 被災地域で早急に行うべきは、被災者や避難者に対して安心した生活を営んでもらうための住環境の整備(高台住宅地の整備)と、必要な都市機能(教育、買物、娯楽等)を支える生活交通サービスの提供である。これらについて、人口の趨勢的減少や超高齢化といった環境変化を見通したうえで、行政負担を抑えるような事業設計を考えていかなければならない。
 まず、住戸の形態については、住民の資金負担を抑えるような災害公営住宅の先行的な整備が必要である。高齢者比率の高い被災自治体では、阪神淡路大震災時に多く建てられたコレクティブハウス(※2)など、住民同士の交流を促す空間やケアサービス等を備えた住宅に加え、部屋の改造・統合等が容易な低層・長屋建てをイメージした住戸形態が求められる。また、公営といっても、完全に自治体が所有・管理するのではなく、将来的には民間事業者に管理を包括的に委託することや、資産そのものを買い取ってもらえることが重要であり、そのために住宅の目的外利用や用途廃止等が自由にできる制度環境を整えていく必要がある。また、高台住宅地の整備にあたっては、段階的な開発を念頭に置くことだ。将来的にも中核となるような集合住宅を先行的に整備し、周辺部に低層・戸建住宅を配置するという考え方だ。また、このような段階的開発の先進的な取り組みとして、ドイツのハノファー市郊外で、万博開催地に隣接したクロンスベルク地区の新都市開発が挙げられる。ここでは、概ね200戸を単位とした街区を設定し、街区単位で事業者に払い下げているが、駅に近く利便性の高い地区から順番に払い下げを行い、当該地区への居住需要にあわせて外縁部に払い下げを広げるといった、段階的開発を行っていることが特徴である。
 一方、複数の住宅地と市街地等を結ぶ生活交通サービスの提供は、“住生活全体を復興させる”という観点から早期に取り組まなければならない。人口が少なく、集落が広域に分散している被災自治体では、バス事業の採算性は極めて厳しい。そこで、一定の需要が見込まれるスクールバスの有効活用やデマンドバス(※3)を併用すること、住民の輸送だけでなく、住宅地間で発生する物資や宅配品の輸送や、図書の貸し出し等のサービスと併用すること等によって、サービスコストを抑えるとともに、民間事業者の参入を促していくような仕組みづくりが求められる。

今後重要となる“復興事業”のコーディネーター

 このような複数の事業を推進するにあたって今後より重要となるのは、街づくり、産業復興、インフラの整備・管理等に関わる膨大な事業を担う主体である。例えば1.5万人規模の自治体でみると、歳出額にして毎年およそ80億円、土木費では4~5億円の事業を執行する体制しかない。その自治体が一度に50億円前後の復興事業を発注・執行していかなければならない。
 そのため、行政のパートナーとして、新たな街づくりを提案し、多くの事業主体を調整しながら再生まで導いていく担い手が必要である。被災地域で特徴的なのは、人口減少や高齢化が進む中で一度整備した住宅や関連インフラが行政にとって過度な負担にならないよう、民間活力の導入を図りながら、産業活性化等の取り組みもあわせて推進していかなければならない点にある。そのため、地域の雇用を生み出す産業(漁業・農業)の復活・再生と、その受け皿となるインフラ整備とを連携させながら、街づくりに対するアイデアを引き出す力を有した主体、いわゆる“コーディネーター”をどう創るのかが重要な議論となろう。

復興事業の経験と知恵を共有する仕組みを

 現在、南海トラフ地震(※4)など国土の枢要を襲う次なる震災被害・経済被害の検討がなされている。被災地域では再び災害に強い街づくりの検討がなされると思われる。重要なのは、「東日本大震災の復興」と「次なる巨大地震への備え(いわゆる事前の復興)」を個別に考えるのではなく、復興まちづくりに向けた課題や悩みを、被災想定地域の自治体・関係者間で共有する仕組みを創ることである。弊社主催で開催した「社会資本研究会」では、被災自治体の復興の過程で生じる悩みやその解決に向けた想いを、他自治体の方が共有する機会を微力ながら提供することができたと感じている。このような仕組みを継続・強化していくことを強く求めていきたい。

1) 情報通信技術(Information CommunicationTechnology)。
2) 各部屋・台所・浴室等が独立して存在するが、共同の食堂、居間(サロン)を備えた集合住宅。
3) 利用者の需要に応じ、利用者が集まった段階で随時バスを運行するシステム。
4) 東海から西の南海トラフのプレート境界で発生する東海・東南海・南海大地震の総称。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神尾文彦

神尾文彦Fumihiko Kamio

社会システムコンサルティング部
部長
専門:都市・社会資本政策、公的部門の経営改革

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