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金融市場パネル報告 金融市場パネル第20回記念コンファレンス

2012年4月号

NRIアメリカ 片岡佳子

 野村総合研究所(NRI)は、2012年2月6日に「金融市場パネル:第20回記念コンファレンス」を開催した。「金融市場パネル」は、金融市場の動向と中央銀行の政策に関して考える場として2009年3月にスタートしたが、今般、20回目の会合を迎えることを記念してコンファレンスを開催した。当日は、従来から本パネルの活動を支援していただいた先を中心に金融機関、研究機関、金融メディアの幹部や専門家の方々をご招待し、124名の方々にご参加いただいた。
 コンファレンスにおける議論の詳細は、後日、NRIのホームページ等に開示する予定であるが、本稿では、本パネルの企画と運営を担当してきた立場から、その概要について簡単に報告したい。
 今回のテーマは「2012年の中央銀行の課題」とした。2007年から様々に形を変えつつ展開するグローバルな金融危機が先進諸国の金融市場や金融機能に与える影響を捉えた上で、中央銀行が、今後、経済の安定化と金融システムの安定化の双方の面でどのような役割を果たすべきかについて考えようとするものである。
 こうした目的に沿って、当日は、最初の基調講演で大きな問題を提起していただいた後、我が国を代表する専門家である研究者、実務家と政策当局のOBをお招きして開催した座談会と、常任メンバーによる公開版の「金融市場パネル」を通じて、金融ITイノベーション研究部長井上哲也による進行の下で、様々な角度から専門的で活発な議論が行われた。
 今回のコンファレンスには、海外の専門家の方々からも特別コメントを頂くことで、いわば間接的に議論にご参加いただいた。金融危機後の中央銀行のあり方を論じ、米欧で高い評価を得た『Banking on the future』 (Princeton University Press, 2010年)の共著者の一人であるデイビッド・グリーン氏(元UKFSA国際部門長)からは、本コンファレンスに特別コメント(「Some afterthoughts」)を頂戴した。因みに、前掲書は、弊社井上哲也の翻訳により『あすにかける―中央銀行の栄光と苦悩―』(金融財政事情調査会・2012年)という邦題で刊行されている。また、金融機能に関する世界的権威である米ウォートン・スクールのフランクリン・アレン教授からも、特別コメント(「Introductory comment for the bilateral discussion on “Evaluation and outlook of financial functions in Japan”」)を頂戴した。さらに、従来から「金融市場パネル」の運営にご指導をいただいている米イェール大の浜田宏一教授には、本コンファレンスに直接参加していただき、日本のデフレや日本銀行の金融政策について、公開版「金融市場パネル」への反論を中心として様々なご意見をいただいた。これらのコメントは、本コンファレンスの議論全体を通じて言及され、質的な充実に貢献することとなった。
 各セッションの概要は以下の通りである。

基調講演 2012年の中央銀行の課題

日本銀行 理事 雨宮 正佳氏

 基調講演では、日本銀行の雨宮理事(金融政策担当)に「LLR再考―2012年の中央銀行の課題―」と題してご講演いただいた。

雨宮 正佳氏

 雨宮理事は、中央銀行が金融システム安定のために活用しうる機能の一つである「Lender of Last Resort(LLR)」、すなわち「最後の貸し手」を巡る最近の動きについて、LLRの概念や中央銀行の政策対応に関する考え方の変遷と対比しながら説明した。その中では、LLRの拡張としてのMarket Maker o f L a s t R e s o r t(MMLR)、つまり中央銀行が市場機能を代替する役割について詳しく論じ、その効果と同時に今後の課題などを示した。
 その上で、先進諸国の中央銀行がこれから本格的に直面する課題として政府に対するLLRの問題を取り上げ、物価安定と金融システム安定のトレードオフという可能性などに言及しながら、今後に考えるべき課題を提起した。

座談会 金融危機後の中央銀行のありかた―『Banking on the future』に 示された主な論点をもとに―


稲葉 延雄氏


五味 廣文氏

リコー経済社会研究所 所長 稲葉 延雄氏
プライスウォーターハウスクーパース総合研究所
 理事長 五味 廣文氏

 続く座談会では、前述のデイビッド・グリーン氏の特別コメントのポイントも踏まえながら、以下の三つの論点に関してご議論いただいた。第一に実体経済の安定と中央銀行の役割について、第二に金融システムの安定と中央銀行の役割について、第三に中央銀行と政府の役割分担について、である。

 一点目について、稲葉氏は、金融危機後の金融政策運営を巡る中央銀行の考え方の変化を整理した上で、先進諸国でインフレ目標の見方が収斂している点や、「量的緩和」の波及メカニズムの把握の難しさを説明した。五味氏は、監督当局の観点から、実体経済と金融との不均衡を早期に把握する面を中心に中央銀行の役割を説明した。二点目について、五味氏は中央銀行のLLR機能を金融システム安定のための政策全体の中に適切に位置づけることの重要性を述べた。稲葉氏は、「非伝統的」金融政策に分類される対応の中で、市場機能の代替や回復を図る政策を金融システム安定のために活用する可能性を示した。最後の三点目については、稲葉氏は監督当局、財務当局、中央銀行の提携の大切さを指摘し、五味氏はその中における政治との適切な関係の維持という課題を提起した。
 その後、フロアからは、日本銀行に独立性を付与した後に不況が継続している点― 特に株安、円高、デフレという貨幣的側面に問題が集約している点―を指摘し、責任の明確化を伴いつつより積極的な金融緩和を行うべきとの指摘があった

金融市場パネル 2012年の日米欧の中央銀行における政策課題と政策運営

金融市場パネルメンバー

 公開版の「金融市場パネル」では、主な論点について予めお願いしたメンバーによるリードコメントを中心に議論していただいた。具体的な論点は、金融危機後における金融政策の波及メカニズム、市場の期待に働きかける政策の評価、中央銀行による新たなフロンティアでの政策のあり方、の三つである。
 一点目について福田氏は、「非伝統的」金融政策を「ゼロ金利政策」、「量的緩和」、「コミュニケーション政策」に整理し、「コミュニケーション政策」に関して政策意図の明確さなどの点での検討の余地を挙げた。加藤氏は、「量的緩和」について、先進諸国の間で狙いや効果についての考え方が異なる点や、結果的に金融システム安定に資する点を説明した。江川氏は、日本銀行の「信用緩和」のうち、社債やCPの買入れは趣旨に疑問がある一方、過小評価されている資産を買う点でETFやJ-REITの買入れの意義を指摘した。常任メンバーながら当日欠席された高田氏は、日本の金融政策はマクロ的に新たな資金不足部門である政府と海外に働きかけるものと理解できるというコメントを寄せた。
 二点目の市場の期待に働きかける政策の評価については、渡部氏が、日本銀行の「時間軸政策」に関する実証分析に言及しつつ、経済の期待に影響を与えた点を説明した。柳川氏は、中央銀行と市場との対話という観点から、「コミュニケーション政策」の課題としての柔軟性の確保や市場による納得感の獲得について説明した。翁氏は、FRBによる政策金利の予想パスの公表について、スウェーデンの例に言及しつつ、中央銀行と市場の理解の齟齬を中心とする課題を説明した。これらを受けて、福田氏は、コミットメントを時間依存型と状態依存型に分類した上で、後者に関する日本銀行の貢献と課題についてコメントした。
 最後の論点である中央銀行による新たなフロンティアでの政策のあり方については、根本氏が日銀の成長資金オペを取り上げ、規模の制約や貸出金利への影響を含む批判もあるものの、銀行の貸出姿勢を再考する契機として有用と指摘し、マクロ経済構造や銀行の産業構造を含む銀行貸出の課題を説明した。北村氏は、クロスボーダーの金融活動の拡大が中央銀行による国際金融システム安定における役割を増大しているとした上で、国際流動性支援を評価する一方、モニタリング機能強化の必要性を指摘した。最後に内田氏は、わが国経済のグローバル化の中での日本企業の海外進出をサポートするとともに、新興国の金融インフラに貢献する上で、中央銀行を含む公的当局による外貨流動性支援の整備が需要であると述べた。
 この後、米イェール大の浜田氏が、日本銀行の政策運営について包括的なコメントを行った。つまり、日本は前回の金融危機を中心にデフレに悩まされてきたが、貨幣的事象である点を否定する日銀の金融緩和―特に市場への資金供給量―が不十分であったため改善が進まず、名目為替の大幅な円高を招いて実体経済が大きく損なわれたと指摘した。その上で、必要な政策を実施させるためにインフレ目標の導入を提唱した。このほか、フロアからは、中央銀行が金融緩和を進めても金融規制等により資本コストが上昇することをどう考えれば良いかという質問も示された。

座談会 国内外の金融機能の現状評価とその課題

慶應義塾大学経済学部 教授 池尾 和人氏
ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員 徳島 勝幸氏

池尾 和人氏

 最後の座談会では、金融危機後の金融経済環境を踏まえながら、銀行を中心とする金融ビジネスが果たす役割や課題について議論していただいた。その際には、前述のフランクリン・アレン教授から頂戴したコメントも踏まえつつ、予め三つの大きな論点が提示された。第一に金融取引における金利メカニズムの復活をどう考えるか、第二に日本の銀行の国際競争力をどう評価するか、第三に金融危機後の金融環境の下で民間の金融ビジネスが担うべき機能は何か、ということである。
 一点目については、池尾氏が、中央銀行が「信用緩和」により資産価格に影響を与えている下で、金利メカニズムの副作用を説明するとともに、金融緩和の必要性とのバランスの難しさを指摘した。徳島氏は、金利自由化の完成が前回の金融危機に重なった結果、日本では価格機能である金利メカニズムの導入自体が不十分であった可能性に言及した。 第二の日本の銀行の国際競争力については、徳島氏が、日本の銀行の海外進出は復活したが現地化は進んでおらず、国際競争力の制約の一つが国内の収益基盤にあると指摘した。池尾氏は、先進国で「金余り」が生じる中で商業銀行のビジネスモデルが苦境に陥り、欧米で成功したかに見えたトレーディング・バンキングやクロスボーダーの金融仲介にも疑問が生じたと整理した。その上で、国際競争力にとっての基軸通貨の資金調達力や投資家ネットワークの重要性を指摘した。

徳島 勝幸氏

 第三の金融危機後の金融ビジネスの機能については、徳島氏が、日本における機能重複(公的金融と民間金融、民間金融の業態間など)の見直し、リスク移転市場の再活性化、監督当局及び中央銀行による金融企画機能の強化といった課題を指摘した。池尾氏は、大きな政府債務を抱えた日本を含む先進諸国は、「ドーマー条件」に象徴される国債管理政策の制約の下で民間金融の活性化を図るという難しい状況にあるとした。
 その後、フロアからは、金融機能の活性化には借り手企業の収益向上も重要とする指摘や、日本の対外純資産に基づく円の国際化への期待、超低金利政策が短期金融市場の機能を損なうとの考え方への批判などが提示された。

総括

東京大学大学院経済学研究科 教授 植田 和男氏

植田 和男氏

 植田氏は、バランスシートの調整圧力やデフレ圧力、さらにゼロ金利制約が金融危機後の先進諸国の政策運営に影響を与えているとした。その上で、金融政策と金融システムの安定策の協調のあり方は明らかではなく、当面は手探りでの運営が続くとの見方を示すとともに、「信用緩和」の限界に関する座談会の議論に共感を示した。最後に、先進国がこうした極端な政策を採ることの長い目で見たリスクとしてインフレを挙げるとともに、グローバルな市場が国債金利の上昇リスクを意識している点を摘し、今後の中央銀行にとって難しい問題となる点を確認した。

※ コンファレンスの議事要旨は、下記からダウンロードできます。
http://fis.nri.co.jp/policyproposal/discussion.html

金融市場パネル―第20回記念コンファレンス―
2012年2月6日(月)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融機関のデジタル化

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