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変遷する豪州サードパーティ・クリアリングの担い手

2012年4月号

金融ITイノベーション研究部 上級コンサルタント エリック・ファンドリッチ

金融危機後に豪州サードパーティ・クリアリング市場に参入したPenson社は、わずか3年でマーケット・リーダーとなった。クリアリング事業の主な担い手が証券系から独立系、そして資本力の強い商業銀
行系へと変遷した。

サードパーティ・クリアリングとは

 サードパーティ・クリアリング( T h i r d P a r t y Clearing、以下、「TPC」)とは、取引所の会員や取引参加者(証券会社等)が約定した取引の清算決済を第三者が代行するビジネスである。取引に伴う債権債務関係をすべて第三者(TPCプロバイダ)に移転する。そのため、プロバイダは決済リスクを引き受けるほか、システムおよび人材の能力を提供する。TPCは先進国の多くで普及しており、エマージング・アジア諸国で整備途上である。
 TPCにより、利用企業はコスト低減や固定費の変動費化、そして自社の規制資本の引き下げというメリットを享受する。取引所は資本規模のより小さな証券会社の会員参加を認可できることで裾野の拡大、ひいては流動性の向上を期待する。清算機関は、より少数の、安定して人的資本も充実した清算会員に絞った業務ができるようになると推察される。
 豪州ではこのTPCを巡って大きな変化が起きている。

Penson社と豪州TPC市場

 Penson社は、米国および英国で第二位の座を占める独立系TPCプロバイダである。同社は金融危機後の2009年に豪州に参入を発表、同年に第一号顧客を獲得し、わずか3年後には豪州でリーダー的存在となった。顧客は20社を超え(※1)、年間決済高は650億豪ドル(約5.7兆円)に上る。収益は10年第4四半期に黒字化し着実に拡大した。いったいどのように成功したのであろうか。
 豪州のTPC市場が伸び盛りだったからか。しかし、99年に豪州証券取引所(以下「ASX」)がTPCを認可して以降、利用者は00年の4社から08年の56社に増加したものの、金融危機以降は明らかに頭打ちであり、Penson社参入後も市場全体の規模は殆ど伸びていない。
 強い競合が居なかったからか。しかし、豪州のTPC市場は2008年までにBerndale社とFortis社という2つの有力会社が寡占状態を形成する状況となっていた。

資本規制強化とBerndale社の戦略転換

 では何がPenson社の急成長をもたらしたのか。大きな要因は有力会社の1つBerndale社の撤退である。
 Berndale社は、メリルリンチ(豪州)の子会社であり、メリル向け清算決済機能の余力を活用してTPCサービスを展開してきた。05年までCEOを務めたCraig Mason氏は、豪州事業を軸に、アジア展開まで目指していたと言われる。
 しかし、米国発の金融危機に先立つ08年の早期に豪州の証券会社2社で決済リスクが顕在化、豪州全体を揺るがす事件に発展した。両社ともBerndale社の顧客であったためメリルも対処に時間を割かれた。
 また、同事件を受け、ASXが会員証券会社の資本規制強化策を08年7月に発表した。清算・決済機構に参加する証券会社の最低コア流動性資本を当時の10万豪ドルから08年末までに200万豪ドル(20倍)、09年末までに1000万豪ドル(100倍)にするという、極めて大幅な引き上げである。ASXの意図が地元の小規模証券を清算・決済機構に参加する会員から外すことであったならば、それは達成された。ASXの清算会員は2007年に67社で、うち豪州資本の独立系証券会社は36社あったが、これが2011年には18社にまで半減したのである。
 10年12月、メリルはBerndale社がTPC事業から撤退することを発表した。米国の金融危機を受け、メリルが貴重な資本をTPC事業に使うことから身を退く判断をしたことは想像に難くない。Berndale社が市場から抜けると表明したことで、その顧客は次々とPenson社に乗り換えていった。もっとも、Penson社は棚ぼたで成功した訳ではない。他に3つの成功要素があったと考えられる。
 第一に、業界の重鎮であるCraig Mason氏をCEOとして迎えることができたということ。Mason氏はBerndale社の成長を10年間率いてきた。第二に、Penson社は豪州市場で幅広く普及しているGBST社のSharesというシステムを採用した。自社開発するより参入が素早くでき、かつ、同システムを使っていたBerndale社の顧客がペンソンに乗り換えることを容易とした。第三に、株取引の清算決済に強いBerndale社と先物取引に強いFortis銀行(現ABN AMRO銀行)は顧客層を分け合っており正面から競合していなかった。

金融危機をうけたTPCプロバイダのシフト

 Penson社は豪州でメリルがTPCから撤退した間隙を突くことに成功した。しかし皮肉なことに、米国事業において市場がPenson社の資本の質に疑問を持つようになり、資本増強の必要に迫られたために、収益の上がる豪州事業を売却せざるを得なくなった。買い手は米国系で資産管理業務に強い商業銀行大手BNYメロンの傘下にあるPershing社で、2011年11月、3300万豪ドルで買収すると発表した。振り返ってみると、豪州ではメリルの自社向け清算・決済機能の余力が他社向けに提供されてきた時代から、金融危機を経て、米国の独立系TPCに主役が移り、そしてその主役が米国の資産管理大手傘下に入った。結果的に、世界的な金融危機は、豪州TPC事業の有力なプロバイダを証券系から大手商業銀行系にシフトさせたといえよう。
 豪州TPC市場の変遷については別の見方もできる。上記3社とも全て米国系であり、第二位のFortis/ABN AMRO銀行も欧州系である。世界のTPCプロバイダにとって、豪州は比較的オープンな市場であるといえる。前述のCraig Mason氏の言葉とおり、豪州でTPC事業の経験を積み、他のアジア・パシフィック諸国に進出する際の橋頭堡とするのか、今後の展開が注目される。

1) ASXに会員権を持つ顧客の数。他に同社に取引の執行機能を含めて委託する顧客が50社ある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

エリック・ファンドリッチ

エリック・ファンドリッチEric Fandrich

金融システムリスク管理部
上級コンサルタント
専門:金融市場と金融機関のグローバル化研究

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