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アジア新興国の個人金融資産の展望を探るための論点整理

2012年4月号

金融ITイノベーション研究部 研究員 大栗竜治

経済規模の拡大に伴いアジア各国の個人金融資産は資産運用業界の注目を浴び続けている。その展望を見極めるためには各国の経済発展、人口動態だけではなく、家族間扶助の減少や高齢化に伴う社会保障制度への影響などにも注目する必要がある。

 既知の通り、近年アジア新興各国の経済成長は世界的に見ても高い水準にある。この高い経済成長性などを背景に、欧米の資産運用会社は早くからアジア新興国の個人金融資産市場へ進出してきたが、この動きは近年になり、日系資産運用会社にも広まりつつある。
 海外個人金融資産市場への進出戦略立案の際にまず把握したいのは、各国の個人金融資産全体の展望であろう。本稿では、個人金融資産の展望を予測する上で重要となる要素について整理する。

個人金融資産額に影響する要素の整理と各国の動向

 まず、一国の個人金融資産額全体を、それに影響する要素に分解することを考える。図表1に示した式①の通り、一国の個人金融資産額全体は一人当たりの個人金融資産額の人口分の総和であると考えることができる。このうち、一人当たりの個人金融資産額は、毎年の収入と支出の差を勤労年数分積み上げたものと言えるため、これらを変数とする関数の形で表すことができる(②)。
 通常、収入は一人当たりで測った経済の規模に連動する。収入の増加と共に支出も増加するが、収入ほどには支出は増えていかず、「収入-支出」の余剰分は増加していくはずである。これが金融資産として蓄えられることになる。それに加えて、収入がある程度の水準に達し生活に余裕ができてくると、万一の時や老後に対して備えることを考え始める。そのため、支出を抑えて蓄えに回そうという行動が出始め、金融資産の形成をさらに促進させるものと思われる。このように支出を抑制し将来に対して備えようとする行動は、社会環境や制度に強い影響を受けると考えられる。そうした環境や制度の代表的な例として、ここでは家族間扶助の減少と社会保障制度に対する不安を採り上げた。産業が農業中心の社会では、家族や地域社会が高齢者を支える慣習が根強く、個人による金融資産形成の必要性が少ないが、工業化による核家族化の進展に伴い、この様な慣習が薄れていくと考えられる。また、社会保障制度が成熟している国では老後の生活資金を制度に頼ることができるが、一方で高齢化等により社会保障制度の将来が危ぶまれるようになると、個人が自ら資産を形成し、万一の時や老後に備える必要性が出てくると推測される。もちろん、これらの他にも個人に支出を抑制させ、金融資産形成を迫る要素はあるだろうが、ここでは、支出を抑える代表的な要素としてこれら2つを考え、一国の個人金融資産は図表1の式③で表されるとした。
 では、以上の整理にしたがって各国の魅力度を測る場合、具体的にどのようなデータを用いればよいだろうか。
 まず、人口は国別の人口動態データによる(※1)。一人当たり経済規模については一人当たりGDP(※2)を用いる。資産の積み上げ期間に当たる平均的な勤労年数は、その国の高齢化度合いと相関を持つと思われるので、ここでは総人口に占める65歳以上の割合で代替する。以上の要素については、それぞれの値が大きいほど個人金融資産額が大きくなると考えられるため、魅力度の評価基準としては成長性より規模の大きさを重視すべきと考える。一方、家族間扶助の程度と社会保障制度に対する不安を直接的に捉えた定量データは存在しないと思われる。しかし、家族間扶助の減少は都市人口の増加と強い関係があると考えられるため、都市人口(※3)比率で代替することとした。社会保障制度に対する不安は、制度の財政面での悪化を招く主な原因である高齢化の度合いと、制度への不安が影響する範囲を示す制度の普及率により表せると考えた。具体的には、総人口に占める65歳以上の割合と社会保障制度の中でも所得保障の性格が強い強制年金制度の普及率(※4)を採用した。
 国別に、上述した要素を評価してみた結果を図表2にまとめた。人口の多さから、中国とインドのポテンシャルに着目する資産運用会社は多いだろう。しかし、図表2からは、これら二国の市場ポテンシャルが必ずしも同等であるとはいえないことが見て取れる。例えばインドは、2020年においても一人当たり経済規模が中国に比べて小さい。さらに家族間扶助が比較的多いことや、社会保障制度に対する不安が小さいため、インドは中国よりも個人金融資産が蓄積しにくい状況にあると思われる。
 一方、韓国や台湾のように、すでに市場規模がある程度大きく、将来の成長性が小さいと思われている国でも、2020年でみれば一人当たりGDPや平均年齢が高いことに加え、金融資産の蓄積に向かわせる社会環境にあるという観点で、まだ魅力が持続するように見える。

各国の魅力度を測る上で重要なターゲット層

 以上、簡単ではあるが各国の魅力度を概観した。だが、これまでの整理はあくまでも平均像を示すもので、金融資産を多く保有している層の動向を見ることはできない。実際のマーケティングにおいては、ターゲットとなる層の目星をつけておくことは重要だろう。年齢を例に取ると、一部の超富裕層を除けば主なターゲットは高齢層と思われがちかもしれない。しかし、日本のように退職一時金制度が十分でない国ではそうとも言い切れない。むしろ、教育費等の大きな支出が一服する現役時代後半が資産形成層となりうる。そのため、現役時代後半の人口動態を見ることも重要となりうるだろう。
 アジアの国の中には依然として発展段階にある国も多く、先進国と事情が異なることも多々ある。公表データは少ないものの、各国の事情を鑑みた分析が必要となろう。各国の魅力度を総合的に判断するには深い考察が必要だが、人口や経済規模だけでなく、上述のような要素を見ておくことは有効ではないだろうか。

1) 人口動態推計は、台湾のみC O U N C I L F O R E C O N O M I C P L A N N I N G A N D DEVELOPMENT その他はUnited Nations World Population Prospects, The 2010 Revision のデータを参照した。
2) 一人当たりのGDP はIMF, WorldEconomicOutlook Database, September 2011を参照した。
3) 都市人口のデータは世銀のWORLD DEVELOPMENT INDICATORS, 2009を参照した。
4) 強制年金の普及率に関してはOECD Pension at a Glance Asia/Pacific 2011を参照した。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大栗竜治

大栗竜治Tatsuji Ohguri

金融デジタル企画二部
研究員
専門:個人金融資産、社会保障制度

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