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LEI標準化が拓く金融機関のリスク管理高度化

2012年4月号

ERM事業企画部 上級研究員 井上和久

金融取引関係者を一意に特定するLEI(※1)の標準化実現にむけて、金融業界と金融監督機関が協力して整備を進めており、急速に具体化している。LEIの標準化は金融機関のリスク管理高度化と規制対応等コスト低減に資するが、社内データとの紐付け管理がその有効活用のポイントとなろう。

重要性が高まる金融機関のエンティティデータ管理

 2008年の金融危機時に、破綻した企業に関連する各金融機関のポジションを金融監督機関が迅速かつ正確に把握することができなかったことが、昨今の金融規制強化の一つの要因だと言われている(※2)。では、なぜ金融危機時に金融機関は監督機関に対して十分な情報提供をすることができなかったのだろうか。
 金融機関では通常、銘柄マスターデータが整備されており、金融取引にかかる保有ポジションを構成する銘柄を識別し、銘柄別のリスクエクスポージャーを把握することが可能となっている。一方、各銘柄の発行体や取引相手となる企業等(今後「エンティティ」と記す)に対するリスクエクスポージャーまで把握しようとすると、エンティティ自体を正確に識別・管理する必要がある。金融危機発生時には、各金融機関はこのエンティティレベルの情報管理が不十分であったと考えられる。
 特定エンティティに何か特別な事象が発生した場合、その事象のポジションへの影響を把握するためにはエンティティレベルでのデータ集計が必要となる。例えば、リーマンブラザーズが破綻した際、各金融機関は、リーマンブラザーズが発行する種々の証券や同社との金融取引をすべて洗い出す必要があった。さらに、同社だけではなく同社の子会社や系列会社も含めた同一グループ企業に対しても同様の情報把握が必要であった。すなわち、リーマンブラザーズというエンティティに関連するエンティティを特定し、それらに関連するすべてのポジションデータを集計する必要があったということである。
 現在、エンティティレベルの標準的なID体系は存在しないため、エンティティレベルの情報管理を行うには、名称や住所などの情報をもとにエンティティの一意性を確保の上、IDを付与して付加情報とともに管理することになる。しかし、そのためにはエンティティ単位での名寄せ作業、さらに資本関係のようなエンティティ間の関係性も考慮した企業グループ単位での名寄せ作業が必要となる。グループ全体となると対象企業の名称だけでは関係性の判別ができず、資本関係の情報も把握が難しいため、この作業を正確かつ迅速に行おうとすると膨大なコストがかかってしまう。

進むLEIの標準化

 この課題を巡り、金融業界のみならず金融監督機関からもエンティティレベルの国際的な共通IDを整備すべきとの声が次第に高まり、2011年のG20で、金融取引参加者を一意に特定する国際的な標準LEI(LegalEntity Identifier)の構築を具体的に支持する声明が出された。
 一方、アメリカ国内ではドッド・フランク法に基づいてFSOC(※3)とその調査機関であるOFR(※4)が設立され、OFRが米国内の標準LEIの具体化を推進し始めた。OFRの提唱したスキームは、マーケット参加者も監督機関も同一の標準IDを利用するという画期的なもので、さらに情報提供を無償とすることで広く普及させる方針となっている。LEIの国際的な標準化については、その後このOFRの動きに各国の金融業界を代表する団体や監督機関が賛同する形で活発な議論が行われ、次第に国際的なコンセンサスが得られていき、現在に至っている。
 LEIの実運営は、DTCC、SWIFT、ならびにDTCCの100%子会社であるAvoxが行うことになっており、具体的には、データ収集、メンテナンス、コード発番、データ品質管理等の業務を担当する。さらに、ISIN(※5)の管理団体であるANNA(※6)も、そのネットワークを活かし、各国での登録業務や情報収集を支援する立場で参加している。
 収集・整備されたLEIデータは、その利用に関しては無償となっており、インターネット上のWebポータルから誰でも自由にデータを取得することが可能となる見込みである。
 LEI自体は英文字と数字から成る20ケタの識別IDであり、付随するデータ項目は、正式名称、住所、設立国、最終親会社等が予定されている。LEIの導入は、重要度の高い順に3段階にフェーズ分けがされており、2012年6月をターゲットとする最初のフェーズでは、まず各国監督機関が最も関心を持っているCDS・金利スワップ等のOTCデリバティブのカウンターパーティ約5万件が整備対象となっている。最終フェーズは2013年以降となるが、その段階ではLEIのデータベースには最終的に約150万件のエンティティが収録される予定である。

LEIの有効活用に向けて

 金融機関にとって、LEIの標準化は2つのメリットがあると考えられる。一つは、リスク管理高度化による経営意思決定の迅速化である。金融機関にとっては、グループ単位での名寄せも含むエンティティデータの整備が容易になることによって、様々な切り口での情報把握が可能になり、データ集計や分析の速度を速めることができる。またその結果、経営層に対して迅速な情報提供がなされ、危機発生時においても、投資や事業売却・撤退といった重要な意思決定を迅速に行うことができるようになる。
 もう一つのメリットは、規制対応コストを含む種々のコストを低減できることである。標準LEIによってエンティティの同一性が担保されているため、LEIを共通言語として個別金融機関と監督機関が認識齟齬なく対話でき、LEIに基づいて情報を整理すれば比較的容易に報告資料が作成できることが想定される。金融監督機関にとっても、各金融機関から報告されたデータを集計することが容易になるためコスト低減メリットがある。また、他国の監督機関との情報交換が容易になることに加え、複数の監督機関間のデータ集計・分析や、複数国による協調政策もより機動的に行うことが可能となろう。
 このように、LEIの標準化は個別の金融機関や監督機関のみならず、業界全体が大きなメリットを享受できる可能性がある。LEIの標準化を契機に、各金融機関には、リスク管理高度化の実現とともに、規制対応を含む各種業務の対応コストの低減も同時に実現していくことが望まれよう。その実現のためには、各社が自社内で蓄積・管理している情報と外部の金融情報ベンダー等から取得する各種情報を標準LEIと紐付けて整理していく必要がある。

1) Legal Entity Identifier (リーガルエンティティ識別子)。
2) 金融ITフォーカス2012年2月号「本格化するマクロ・ミクロ健全性監督~増大する規制要件への対応」参照。
3) Financial Stability Oversight Council(金融安定化監視評議会)。
4) Office of Financial Research(金融調査局)。
5) International Securities Identification Number ISO6166国際証券コード仕様によって定められた12ケタの銘柄コード体系。
6) The Association of National Numbering Agency

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

井上和久

井上和久Kazuhisa Inoue

リテールプロジェクト推進室
上級研究員
専門:データマネジメント

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