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XBRLによる、議決権行使の効率化の可能性

2012年3月号

投資情報サービス事業部 データアナリスト 三井千絵

機関投資家による議決権行使は、企業のガバナンス監視、保有銘柄の企業価値向上における役割が期待されるが、行使に関わる時間やコストの制約を抱えている。企業情報開示の一層の電子化が進めば、議決権行使が効率化され、より重要な議案について判断することが容易になるのではないか。

 機関投資家の議決権行使が注目されている。その背景には2010年の資産運用会社等に向けたルール改正「議決権行使結果の開示の義務付け」や、企業のガバナンス監視といった機関投資家の社会的役割に対する期待、さらに長期保有銘柄の企業価値向上に資するという考え方の広がり、などが挙げられる。
 しかし現在、日本における議決権行使には様々な実務的課題が多く、コストや時間的制約の中で行使が行われている。そのため本来の効力が発揮されにくいのが現状だ。本稿では、機関投資家の議決権行使に関する実務上の課題を整理し、その解決方法について仮説を述べたい。

議決権行使の現状と課題

 議決権行使の実務的課題の主なものとしては、次の3点が挙げられる。①電子化が行き届いていないため、手間がかかり行使に使える時間が短い、②株主総会の開催日が集中するため、一社ごとに使える時間やリソースが限られる、③議案の数が多い上、企業の状況を十分に理解した判断が必要となる議案もある。
 まず、現在の議決権行使までの流れと、行使に必要な情報がどこで得られるかを整理しておきたい。現在企業は決算短信を取引所に提出したのち、株主総会に向けて、議案を付した招集通知を株主に送付する。これには報告事項(事業の概況、事業別の状況、設備投資、リスクの対処、重要な子会社の状況、従業員の状況、コーポレートガバナンスに関する事項、取締役及び監査役の状況、株式に関する状況、剰余金の配当、そして決算書と監査報告書)と議案が掲載されている。
 日本では、未だに多くの企業及び機関投資家が、電子的に情報のやりとりができる議決権プラットフォーム(※1)等を導入しておらず、議案や行使結果を郵送等でやり取りしている。機関投資家の場合、招集通知は信託銀行など名義株主を経由するため、招集通知の取り次ぎには時間を要する。海外で運用されるファンドの場合は、海外のカストディアンも経由し、片道10日程度かかることもある。最近は、議案が東京証券取引所の適時開示システムであるTDnetや、金融庁の運営する開示システムEDINETでPDF版を閲覧できるようになり改善されてきているが、議決権プラットフォーム等を導入していない場合は、行使結果の転送に依然、時間を要するため、機関投資家が招集通知に含まれる多くの情報をもとに、議案を検討する時間は限られている。しかしコストなどの問題もあり、議決権電子行使の普及には今しばらく時間がかかると見られている。これが一点目の課題である。
 株主総会開催に向けて上記のような招集通知のやりとりが行われるわけだが、日本では68%(※2)の企業が3月期決算で、その大半が6月末に株主総会を開催する。そのため、複数企業の議決権行使を同じ時期に同時に行わなければならず、運用会社の負担が大きいと言うのが二つ目の課題だ。
 更に、日本企業の株主総会の議案は米国等と比べて数が多く、内容も高度な判断を要するものが多い。剰余金の処分議案などは、「配当に支払うより長期投資に回したほうが長期的な企業価値向上につながるかもしれない」といった判断を、本来は過去のデータと議案の情報を合わせた上で行うべきであろう。しかしデータを入手し分析ソフト等を用いて定量的に判断を行おうとすると、当然時間もコストもかかることになる。これが三番目の課題である。
 コストをかけず限られた時間で議決権行使の最良の判断を行うにはどのような環境が必要だろうか。その一つとして、議案の内容や各企業の現状をデータとして取得し、「機械的に判断できるケース」と「内容に応じた個別判断が必要なケース」を予め選別し、検討が必要な議案のための時間を確保する、といったことが考えられる。
 多くの運用会社では、議決権行使に関わる考え方をそのホームページで発表している。直近数年の企業の業績や利益処分の方針、買収防止策、社外取締役の有無など、企業が一般に開示している情報をもとに判断可能なものが多い。これらの判断に必要な情報は現在EDINETやTDnetから取得することができる(※3)。それぞれ2008年より、決算書の部分をXBRL(※4)で作成し登録することが義務付けられ、売上高などの情報はデータとして直接入手することもできる。一方東証では上場企業がコーポレートガバナンス報告書を登録する際、自動的にXBRLデータが作成されるシステムを整備しており、買収防止策や、社外取締役の情報もデータとして取得可能だ。
 金融庁では、2013年に向けてEDINETの更改を予定しており、XBRLで編集する範囲が有価証券報告書(有報)の財務諸表以外にも拡張される。また大量保有報告書や自己株買い付け等の情報もXBRLによる提出の対象となることから、これらもデータとして取得可能となる予定である。
 招集通知、議案についてはPDFでの提出となっているが、コンテンツは有報とほぼ同じであるため、XBRLで編集することは技術的には可能である。仮に、将来これらもXBRL対象となると、招集通知や議案の段階から一貫したデータ体系で情報を取得でき、過去の議案や決算書から同一名のデータを自動的に比較し、賛成できる議案をスクリーニングすることができるのではないだろうか。それによって、注意を要する議案について、慎重に判断する時間の確保が容易になることも想定される。

議決権行使の効率化とそのメリット

 適切なインフラが揃うことによって、議決権行使を効果的に行う可能性も生まれる。
 例えば、パッシブ運用のケースである。千銘柄を超えて保有している場合、その約7割が同時期に招集通知を送り、それぞれ複数の議案が掲載されるとすると、すべてを十分に検討するには大変な時間やコストがかかる。長期に保有するため、本来は企業価値向上に向けた行使をしたくても、コストをかけずに運用することも重要というジレンマを抱えている。前述のようなインフラがあれば、リスクのある銘柄をスクリーニングし、その上でじっくり経営の状況や今後の方針をみて、反対票を入れるべきかどうか判断することもできる。
 開示に関連するインフラは、ここ数年整いつつある。これらを活かす議論が関係者で活発に行われ、企業評価、議決権行使がより効率的に行われるよう、社会的なインフラの充実、適切な理解の浸透を期待したい。

1) 議決権プラットフォーム:株式の名義上の保有者ではないが、実質的株主で議決権行使の指図を行う機関投資家がネットワーク経由で議案の取得、投票の指図を電子的に行う環境を提供するシステム。
2) 2012年2月現在、上場企業3724企業中、2540企業(68%)が3月本決算。
3) 通常株主総会が終わると、議案書に記載されていた報告事項は、殆どそのまま有価証券報告書として再編され、EDINETに監査報告書、株主総会の招集通知、決議通知とともに登録される。
4) XBRL:eXtensible Business Reporting Languageは各種財務報告用の情報を作成・流通・利用できるように標準化されたXMLベースの言語。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

三井千絵

三井千絵Chie Mitsui

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:企業開示

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