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金融機関のソーシャルメディア活用の動向

2012年3月号

イノベーション開発部 主任研究員 亀津敦

金融業界におけるソーシャルメディアの活用では、自主規制の存在を考慮する必要がある。今後、新たな顧客チャネルとして活用していく上では、コンプライアンス対応のため「リスニング・プラットフォーム」が不可欠である。

日本でも普及が進むソーシャルメディア

 ここ数カ月、ソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)への関心が高まっている。LinkedInやFacebookといったSNSの運営会社が相次いで上場を果たした(※1)ことで、これらに代表される「ソーシャルメディア」というサービスへの期待が改めて高まりつつある。
 ソーシャルメディアとは、インターネットの利用者同士がネットワーク上でプロフィールを公開し、会員間で交流する巨大なコミュニティサイトである。Facebookは全世界で8億人の利用者を獲得しており、先行して2010年に普及が始まったツイッターも1億人以上の利用者がいるという。
 日本でもスマートフォンの普及拡大とともに携帯事業者がTwitterやFacebookを活用したサービスを提供し始めた(※2)こともあり、これらを日常的に利用する消費者が増えている。そのため、企業にとっても従来のウェブサイトや電子メールを介したコミュニケーションと並ぶ新たな顧客チャネルとしてソーシャルメディアが有望視され、主に消費財メーカーや流通・飲食業界などから積極的にその活用が始まっている。

ソーシャルメディア活用に金融業界が消極的な背景

 これまでのところ、金融業界はこれらの業界と比べてソーシャルメディアをあまり積極的に活用してこなかった。その背景には、自主規制の存在がある。
 米国証券業界の自主規制機関FINRAは、2010年1月に証券会社がソーシャルメディアを活用する際の自主規制ガイドラインを発表した。そこでは、TwitterやFacebookを介して金融機関が消費者とコミュニケーションを取る場合でも、原則として従来からの自主規制が適用されるとの方針が示されている(図表1)。
 ソーシャルメディアは従来のウェブサイトのような静的なコンテンツと比較してインタラクティブ性が高く、これまでのような記録保存が難しい。また、特にTwitterに関しては1回の発言は140文字以内に収める必要があるため、金融商品に関する情報発信の際に必要となる免責条項(Disclaimer)の表示にも制約がある。
 そのため、米国の多くの企業でもFINRAの規制に適合しないリスクを回避するために、従業員のソーシャルメディア利用を禁止したり、発信内容をCM紹介やチャリティイベントの紹介などの“無難な”内容に絞ってきたりしたのが実情だ。

ソーシャルメディアの積極活用の扉を拓く“リスニング・プラットフォーム”サービスの登場

 しかし2011年夏ごろから、FINRAの自主規制ガイドラインを前提としながらも積極的にソーシャルメディアを活用する米国の金融機関が出てきた。Morgan Stanley Smith Barneyは、2011年6月からTwitter、LinkedInの利用を同社の1万8千人のアドバイザーに順次許可することを発表した。他にもLPL Financial、Commonwealth Financial Networkなどの金融機関が従業員のソーシャルメディア利用を開始している。
 これら先進企業がFINRAの規制を守りながら大規模なソーシャルメディアの活用に乗り出すことができたのは、米国で登場しはじめた「リスニング・プラットフォーム」と呼ばれるサービスの登場によるところが大きい。リスニング・プラットフォームとは、ソーシャルメディア上での会話を取り出して企業が蓄積・分析するサービスであり、米国では2010年ごろからテキスト・マイニング技術を持つ企業やソーシャルメディアの分析を手掛けるベンチャー企業などが製品を投入し始めた分野だ。
 リスニング・プラットフォームを利用することによって、金融機関は自社の社員の発言を公開される前に捉え、上長や監督部門の承認を経た上でソーシャルメディアに投稿させることができる。例えば、ある証券アドバイザーが市況についてのつぶやきを投稿するとその内容が上長に送られ、内容的に問題がなく「発信してよい」と承認されればTwitterやFacebookに投稿され、消費者とシェア(共有)される。その結果、金融機関は組織としての監督義務を果たしつつ社員のソーシャルメディアの利用を実現できるようになった。さらに、消費者からの返信や質問などもデータベースに蓄積し、会話の保存義務に対応しながら、キャンペーンの成果や顧客の満足度の推移などの効果測定も可能になる(図表2)。
 リスニング・プラットフォームは、ソーシャルメディアを活用しようとする金融機関にとって不可欠なものである。米国の先進企業はこれによって、顧客リレーションの付加価値向上や満足度向上を目指す方向に向かっている。この動きは、ソーシャルメディアの活用方法を模索する日本の金融機関にとっても参考になろう。

1) ビジネスSNS 最大手の「LinkedIn」は2011年5月19日にニューヨーク証券取引所に上場。世界最大のSNS「Facebook」は2012年2月1日に米証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)を申請した(上場先は未定)。
2) NTTドコモはTwitter社との戦略的提携を発表し、i-mode検索の対象にTwitterのつぶやきを含めるサービスを開始。KDDI(au)はFacebookとの協力関係構築を発表し、電話帳アプリケーションとFacebookとの連携機能などを公開。(いずれも2011年5月に発表)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

亀津淳

亀津敦Atsushi Kametsu

IT基盤イノベーション本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:情報系システム全般

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