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国債決済期間短縮化は進むのか?

2012年2月号

グローバルソリューション事業部 営業担当課長 木綿芳行

国債の決済期間短縮化に関して、アウトライト取引T+2の実現時期が決まり、さらにT+1化という最終目標も設定された。ただ、T+1実現に向けて残された課題は山積しており、議論と啓蒙活動の継続が求められる。

国債の決済リスク削減に向けた業界としての取組み

 2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券破綻を機に日本の国債決済リスク削減に向けた取り組みが大きく進展している。日本銀行(決済機構局)によれば、リーマン証券の破綻により9月分だけで7兆円のデフォルト(債務不履行)が生じ、取引相手はポジションの再構築(リーマンから受取予定であった国債の再調達や、引き渡し予定であった国債の売却)を余儀なくされ、再調達がすぐに行えなかったことからフェイル(受け渡しの遅延)が連鎖的に発生、9月に累計6兆円規模に上ったという。
 上記の事態を受け、金融庁は「金融・資本市場に係る制度整備について」を2010年1月22日に公表し、決済リスク削減策の一環として、国債の決済期間の短縮や、フェイル発生時の取り扱いルールの確立・普及を図ることを求めた(※1)。一般的に、決済期間を現在の日本国債の売買(アウトライト)取引(※2)で標準な約定日の3日後(T+3)からT+1へ短縮すると、未決済残高(つまりリスク量)は、3分の1に縮減されるといわれている(図表1)。
 ちなみに、欧米の主要国ではアウトライト取引において約定日の翌日( T+1)ないし翌々日(T+2)が主流となっている。これと比較して日本は決済期間がより長い状態にある(図表2)。なお、アウトライト取引のファイナンス手段としても活用されるGC(General Collateral)レポ取引(※3)は、当該市場のアウトライト決済取引よりも1日短い決済期間が必要とされる。

 国債の決済期間短縮の実現には、市場参加者と市場インフラ機関で横断的に検討する必要がある。そこで日本証券業協会は「国債の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループ(以下、WG)」を2009年9月に設置し、2011年11月30日に国債決済短縮化に向けた最終報告書を公表した。
 報告書は、国債の決済期間短縮化を2段階で実施する方針を示している。第1段階はアウトライト取引のT+2 化(GCレポのT+1 化)であり、2012年4月23日約定分から実施することとなった。そして第2段階であるアウトライト取引のT+1 化(GCレポのT+0 化)については、2012年度下期に検討を再開し、2017年以降速やかに実現させることを目標としている。

アウトライトT+2 化は、現行の延長で対応可能

 第1段階のアウトライトT+2 化については、約定照合および相対ネッティング照合の電子化(迅速化)が必要となるものの、現行の枠組みを基本的に維持しつつ、STP化を推進することで、市場参加者や市場インフラ機関の負担がさほどなく実現できるメドが立っている。
 取引量の少ないリテール取引や、決済期間短縮の実現が困難な非居住者取引を決済期間短縮の対象外とすることに関して、資金や国債のポジション管理に支障がないことがWGで確認されたことで具体化が進んだ。

アウトライトT+1化の実現に向けた高いハードル

 ところが、第2段階のアウトライトT+1 化の課題は、次の2点においてT+2 化と決定的に異なる。
①既存事務フロー・市場基盤での事務の限界
 アウトライトT+2 までであれば、約定日と決済日の間に少なくとも1営業日あり、市場参加者や市場インフラ機関の現行の事務プロセスやシステム(たとえば夜間バッチ処理で行うシステム)であっても対応可能である。しかし、T+1では取引約定日にポスト・トレード処理事務の多くを行う必要が出るため、リアルタイム処理システムへの変更など、相当の期間とコストを要することとなる。
②市場参加者の取引動機の相違
 証券会社等は、アウトライト取引により買い付ける国債のファンディングをGCレポ等で行うことが多い。そのため、アウトライトをT+1 化するには、GCレポの標準決済期間をT+0化するニーズが高くなる。
 他方、GCレポの相手方となる投資家は短期資金運用が目的であり、GCレポのT+0 化に伴う事務インフラ投資負担やフェイル発生リスクの高まりを好まない。そのため、証券会社と投資家双方のニーズを満たす制度設計および市場基盤の整備が必要となる。
 上記のような課題の解決には、現行の延長ではなく、GCレポの担保を管理するサービスの創設・運営主体の検討や取引慣行の見直し、レポ取引における基本契約書等リーガル面の検討、非居住者取引の取扱など、より多くの議論が必要とされている。
 2000年から2009年株券電子化までの証券決済制度改革は、無券面化など、ある意味国家プロジェクトとしてメリットがわかりやすい改革であった。一方、今回の改革は事務・システム変更のコストを直接的に負担する個々の金融機関では「決済リスク削減」や「国際標準化」によるメリットが目にみえにくいという声も聞く。
 しかしながら、未決済残高の縮減という日本市場全体のリスク低減効果は前述のとおりである。アウトライト取引T+1 化を低リスク・高効率な市場インフラ・慣行を構築するラストチャンスと捉え、当局や市場インフラ関係者は、今回の制度改革の意義について、幅広く市場参加者との議論や啓蒙活動を行い、最終投資家に対してリスク削減に対する間接的なコスト負担の説明責任を果たせるように努力を続けることが求められよう。

1) これによりフェイルチャージが2010年11月から導入された。フェイルチャージとは、国債の受け方が、予定されていた決済日が経過したにもかかわらず渡し方から対象債券を受け渡されていない場合に、渡し方に対して金銭負担として賦課されるもの。
2) 買切り(単純買付)、売切り(単純売付)取引のこと。
3) GCレポ取引は、取引対象の債券が特定の銘柄でなくてよく、途中で対象債券を差し替えることができる資金貸借的な性格をもつ取引。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

木綿芳行

木綿芳行Yoshiyuki Kiwata

証券ホールセール事業一部
部長
専門:証券決済サービス