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米国金融機関におけるスマートデバイス活用

2012年2月号

イノベーション開発部 上級研究員 藤吉栄二

米国ではスマートデバイスをマーケティングに活用する金融機関が増加しており、スマートデバイスのセンサーを活用し、顧客獲得やサービス向上に貢献している。日本の金融機関がスマートデバイス・サービスを考える際は、活用シナリオの検討と顧客プライバシーへの配慮が必要となろう。

急拡大するスマートデバイス市場

 スマートフォン、タブレット端末などスマートデバイスへの関心が集まっている。野村総合研究所の調査によれば、日本におけるスマートデバイス市場は2010年度から2011年度に急拡大しており、2011年度のスマートフォン出荷台数は1697万台(2010年度は776万台)、タブレット端末は210万台(2010年度は0.8万台)と予測される(※1)。
 スマートデバイスの特徴は、持ち運びのしやすさ、各種センサー(GPS(※2)、受信機やカメラなど)を利用したアプリケーションを自由に開発できる点、それらアプリケーションを簡単にダウンロードして利用できる点、マルチタッチインタフェースなどである。こうした特徴が受け入れられ、スマートフォンの場合、米国では、18~24歳の所有者割合は49%、25~34歳では58%に達している(※3)。
 そのような中、米国ではスマートデバイスを顧客チャネルとして積極的に活用する金融機関が登場している。日本の金融機関でも、携帯電話のGPS受信機で取得した位置情報を用いた店舗検索などのサービスが提供されている。しかしながら、以下に紹介する米国の先進企業の場合は、GPSのみならずスマートデバイスで利用可能な様々なセンサー機能や関連サービスを活用し、顧客の新規獲得や顧客との関係構築に努めている。

スマートデバイスのカメラを利用して、手軽に入金

 USAA(※4)は、フォーチュン500に属する中堅銀行で、現役軍人と退役軍人、そしてその家族を対象に、銀行サービス、生命保険/損害保険や自動車ローン等のサービスを提供している。
 同行が提供するスマートデバイス向けアプリケーション「Deposit@Mobile」を利用すれば、顧客はカメラで小切手の写真を撮影し送信することで、自宅にいながら入金や送金処理を行うことができる。このアプリケーションは、撮影した画像がぼやけていれば顧客に撮り直しを指示し、振り込み金額の画像認識結果が不良の場合や、存在しない支店コードが記載されているなどの不審な点があれば、小切手の郵送を指示する。
 2009年8月の「Deposit@Mobile」サービス提供開始以来、このサービスは口座保有者の約4分の1に相当する200万人にダウンロードされており、総額39億ドルがこのサービスを経由して入金され、トランザクションは1分あたり8000ドル以上に達している(2011年7月プレスリリース)。このようにスマートデバイスへの対応を強化した結果、USAAは顧客満足度97%、リテンション(既存顧客維持)98%を獲得し、モバイルでの取引額は前年比175%の増加となった(※5)。

顧客のリアルな行動分析に取り組むカード会社

 リアル(実)コマースは、今後金融機関の参入拡大が予想される分野である。既に流通小売業では位置情報サービスと連動したモバイルクーポンサービスを集客に活用しているが、2011年、アメリカンエクスプレスとVISAカードが、それぞれ位置情報会員サービスのフォースクエア、ショップキック(Shopkick)と提携した。これにより、各カード会社は顧客が訪れた店舗の情報を用い、販促から来店までの顧客の動線分析を行うことができるようになった。
 VISAカードと提携したショップキックの場合、顧客が訪れた店舗の情報に加え、GPS受信機や音声マイク、カメラなど、顧客保有のスマートフォンの様々な機能を利用し「どの商品に関心をもったか」まで把握することができる。具体的には、屋外ではスマートフォンのGPS受信機の位置情報を用いて顧客がいる場所を把握し、近隣の提携店舗をメールで紹介する。アプリケーションを起動して店舗に入ると、店舗内に設置された発信機から送信された音波をスマートフォンのマイクが検知し、来店ポイントが提供される。商品棚付近ではスマートフォンの画面上にお薦め商品情報がポップアップ表示され、関心を持った商品のバーコードをカメラで読みとれば、顧客はポイントを入手できる。さらに精算時にVISAカードを利用すれば、ポイントが提供される。このサービスにより、カード会社は自社カードの利用を増加させることができるとともに、顧客が訪れた店舗と関心をもった商品の情報を入手して、顧客の趣味嗜好や購買の傾向をより正確に把握できるようになる。また、小売店は顧客の来店を促すことができ、顧客は欲しい商品をお薦めしてもらえる。
 顧客が獲得したポイントは、ギフト券や家電、フェイスブックで利用可能な仮想通貨などに交換される。ゲーム感覚で利用できるメリットが受け入れられ、ショップキックは、メイシーズやベストバイなどの大手小売店舗で採用され、会員数は200万人を突破している。

顧客視点のサービス提供にむけて

 今後、日本におけるスマートデバイス市場拡大に伴い、日本の金融機関でも顧客チャネルとしての活用にどう取り組むべきか検討が必要になる。そこで、今後重視すべき視点を2点紹介したい。
 1点目は、顧客の動線を考慮したスマートデバイス活用シナリオの検討である。具体的には、顧客の日常の活動の中で、金融サービスが関わる場面を検討し、課題解決の手段としてスマートデバイスの利用を検討する。USAAは顧客の『いつでも、どこへでも、世界中のどこからでも送金したい』というニーズに応えるべく、ATMに行かずとも送金可能な機能をスマートデバイスで提供した。
 2点目は、利便性と顧客プライバシーのバランスの確保である。過剰なレコメンデーションは顧客の不満につながる。そのため、顧客がどのようなニーズを抱いているか、どのタイミングでお薦めすべきか、顧客が置かれた状況に対して最適な提案を誰がすべきかなど、顧客のプライバシーを考慮したより高度な配慮が必要となる。また、位置情報サービスやモバイルクーポンの提供に際しては、その利用の有無を利用者に判断させることも必要となるだろう。

1) 「ITナビゲーター 2012年版」(野村総合研究所著 東洋経済新報社刊)。
2) 全地球測位システムの略。
3) 米PewResearch調査結果(2011年7月11日発表)。
4) 正式名称はUnited Service Automobile Association
5) USAA 2010年アニュアルレポートによる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

藤吉栄二

藤吉栄二Eiji Fujiyoshi

IT基盤イノベーション本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:モバイル技術、サービス

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