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進化するパフォーマンス要因分析業務

2012年2月号

NRIアメリカ シニアリサーチアナリスト 末吉英範

「パフォーマンス要因分析」という資産運用特有の業務について、米国を中心にインタビュー調査(※1)を実施した。金融危機以降、強く求められるようになった説明責任を果たすため、債券を中心に分析の方法論や頻度およびシステム装備の改善が喫緊の課題として浮上していることが明確となった。

パフォーマンス要因分析とは

 資産運用会社や年金ファンドは、投資家や加入者などの資産を運用するとともに、その運用の成果(パフォーマンス)を関係者へ適切に報告することも求められている。資産運用の世界には「パフォーマンス要因分析」というデータ分析業務が有るが、これは投資結果の良し悪しの理由を数値的に明らかにする分析方法であり、関係者に向けての定期報告を円滑に行う方法として、実務的に広く活用されている。
 図表1は、米国の大手公務員年金のひとつCalPERSが公表しているパフォーマンス要因分析の例である。ここでは、四半期の最終的な運用成果(トータルリターン)▲7.00%の内訳として、投資委員会が事前に決めた投資方針(戦略的配分)の影響がもっとも大きく▲7.16%であり、株式運用が市場よりも好調であったことが+0.57%の貢献となった一方、債券運用は▲0.23%の付加価値で、必ずしも上手くいかなかった状況が示されている。
 このような分析は、ミドル・バックオフィスと呼ばれるITシステム部隊が担当することが一般的で、運用結果を社内のフロントオフィス(社のファンドマネジャー)や顧客担当者経由で顧客(運用会社の顧客、年金ファンドのスポンサー・加入者)へ報告する際に活用される。

説明責任の高まりを背景に、詳細で頻度の高い報告が求められる要因分析

 要因分析の基本的な方法は、1980~90年代には既に確立している(※2)。また2000年代にかけてGIPS(※3)と呼ばれる収益率測定方法の国際ルールが普及するなど、業務の標準化を後押しする環境が整い、要因分析は変化の乏しい業務と考える向きもあった。
 しかし、2008年を境に風向きに変化が生じた。金融危機やヘッジファンドのスキャンダルを契機に、運用の報告として期待されるサービスに変化が求められるようになった。
 まず、報告頻度の増加である(図表2)。金融危機以降、運用状況やリスクを早急に把握するため、投資家(および運用会社社内のファンドマネージャー)は高い頻度の報告を求めるようになり、さらに質的にも細かい情報が要求されるようになっている、という声が複数の米国運用会社から聞かれる。要因分析の要素分けの細かさやレポート上の見せ方など、色々なカスタマイズの要求も増え、システム的な手当てを伴った対応が必要と考えているところもあった。

債券分析の機能改善も課題-運用会社独自の対応から、外部ベンダーツールを併用する時代へ

 また、債券については、別の課題も浮上している。株式では一般的に価格情報などの入手が容易であるが、一部の債券は日次等の頻度で精度の高い情報を収集することが困難な場合がある。また、債券ポートフォリオの時価の振れ幅は株式よりも小さく、収益率変動の分析には厳密かつ的確な説明が要求されるとともに、説明できない誤差を抑制するためにデータの一貫性を確保しなければならない。加えて、デリバティブ利用の普及や運用マネジャーごとの運用スタイルの多様性などから、単一の分析方法では必ずしも適切な説明ができなくなってきていることも、運用会社の課題となっている。すなわち、分析頻度を高める要求に付随して、分析手法やデータの品質を向上させる必要性も生じているのである(図表3)。
 大手運用会社を中心に、パフォーマンス要因分析業務は自社開発のシステムやツールで対応することが多い(※4)ようだが、顧客ニーズの複雑化に伴い、要因分析サービスを自社プラットフォームのみで対応することに限界を感じる運用会社もあるようだ。とある米国系大手運用会社では、過去の経緯で存在する株式・債券それぞれ別の要因分析システムを維持しつつも、分析モデルやデータ管理面で先進的なベンダー製品を追加導入し、新規商品に対する対応力を確保。一方、開示制度の異なる欧州籍ファンドについては、現地カストディアンへアウトソースするなどのプロジェクトを2011年に完了した。
 説明責任に対するプレッシャーを背景に、債券分析の方法論や頻度およびシステム装備の改善が課題として浮上するなかで、専門知識の蓄積・分析モデル開発の負担に鑑み、業務アウトソーシングや債券等の要因分析に特化したシステムを提供する外部ベンダーの併用が進むなど、運用会社のパフォーマンス要因分析業務は変革の時を迎えていることが実感された。

1) 2011年8 ~ 9月にかけて、野村総合研究所アメリカは、米国運用会社8社、年金プラン8社、ファンドサービサー2社、投資コンサルティング会社4社に対し、パフォーマンス要因分析業務に係るインタビューを実施。
2) Brinson-Fachler 法(1985)、Brinson-Hood-Beebower法(1986)、Karnosky-Singer法(1994)等は、株式ポートフォリオを中心に今日でも普及している代表的な分析手法。
3) グローバル投資パフォーマンス基準(GlobalInvestment Performance Standards)。
4) 顧客へ直接報告される情報であり、リソースを確保できる大手運用会社では、顧客リレーション向上の観点で他
社との差別化要素として品質向上に努める傾向にある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

末吉英範

末吉英範Hidenori Sueyoshi

リテールソリューション企画部長
専門:金融ビジネス調査

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