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海外リテール銀行に見る若年層向けアプローチ-伝統的な銀行によるサブブランド構築-

2012年1月号

銀行ソリューション事業一部 上級システムコンサルタント 内山浩一

海外リテール銀行では、若年層の取り込みに向けて大胆なサブブランドを構築し、それに合う特徴的なチャネル・サービスを展開する例が見られる。この事例は莫大なリソースを使わずとも創意工夫次第で新しいアプローチが可能であることを示唆している。

活発化する若年層向けアプローチ

 これまで銀行における若年層向けの取り組みというと、一般的には新社会人・大学生等に向けて期間限定のキャンペーンなどが行われてきた。近年では、一部のメガバンクや地域金融機関において、若年層向けの専用サービスを提供する例が見られ、大学生向けに、手数料割引などの優遇サービスを提供している。また、ネットが当たり前の世代に向けては、従来のマスメディア広告だけではなく、専用ホームページを構築するといった例も出てきている。このようなホームページでは、銀行の使い方などに関する賢い・お得な情報の提供、さらには金融以外にも学生向けに就職情報を提供する例もある。
 少子高齢化が進む環境下において、銀行としても早くから若年層を取り込み、生涯にわたって関係を深めたいとの思惑があろう。ライフイベントの都度、生じる様々な金融ニーズに応えて、総合的な金融サービスをクロスセル・クロスチャネルにより提供し収益を上げていくモデルを志向する銀行にとっては、若年層の取り込みは重要になってくる。
 しかし、通常、若年層向けの取り組みから得られる収益は限定的であり、当面は先行投資という位置づけになろう。その結果、新しい取り組みを行うにしても、大々的な策をとるのが難しいのが現状ではないだろうか。 またネット専業銀行のような新しい銀行と違い、長い歴史と高い信用を積み重ねてきた伝統的な銀行にとって、そのブランド自身が若年層向けに適しているかどうか悩ましい点も挙げられる。海外の銀行では、銀行経営者の理解を得ながら、若年層の取り込みに向けて大胆なサブブランドを構築し、それに合う特徴的なチャネル・サービスを展開する例が見られる。

100年の歴史を誇る伝統的銀行の挑戦

 アジアを中心に100年の歴史を誇る総資産約15兆円の伝統的な銀行では、2011年春より若年層向けに新たな取り組みを開始した。同行では、収益性は年齢層の高い顧客に比べ劣るものの、若年層(大学生や若い勤労者層)の取り込み・メイン化はライフタイムバリューを高めるために重要と捉えていた。一方、これら若年層にとって銀行は縁遠い存在であり、アプローチの仕方を抜本的に見直す必要があるとも考えていた。
 そこで同行は、個人部門の1セクションでありながら、従来とはまったく異なる若年層向けの新たなサブブランドを立ち上げ、そのブランドに合った1)キャッシュカード、2)店舗、3)ネットサービスを提供し始めた。

チャネル・サービス面での特徴的な取り組み

1)“有償”のキャッシュカード
 同行では、若年層が好む斬新なデザインを印刷したキャッシュカードを有料で提供している。費用はデザインに応じて1000~3000円程度に設定されている。デザインは130種類と多岐にわたるが、そのデザインは必ずしも一流デザイナーのものではなく、地元のアーティストに依頼したものが多い。
2)ファッショナブルな店舗
 従来の店舗を流用するのではなく、新ブランドのもとに新店舗を開設した。店舗デザインは、若年層が好むアパレルなどの流通店舗を参考にファッショナブルな作りにしている。看板にはブランド名を大きく取り上げて、銀行名は小さく記載するにとどめ、新ブランドをアピールしている。顧客の中には、銀行店舗とは思わずにミュージックストアと間違えて来店するケースもあるそうだ。
3)新ブランドにマッチしたネットサービス
 ホームページも新ブランドに基づく専用のものを開設した。デザインも大幅に変え、若年層に絞った商品・サービスに限定し、平易な用語でわかりやすい説明にしている。インターネットバンキングでは、目的別預金とその管理ができる機能を提供した。というのも、事前に行った調査(後述)の結果から、若年層は予想以上に堅実志向であると捉えたためだ。また、Facebookを活用して随時、お金の管理のヒント、プロモーション、関連トピック(例えば就職面接の話題など)も掲載している。
 このように、いつも身につけるキャッシュカード、リアルな店舗、バーチャルなネットと、一貫性のあるコンセプトで統一感を出した対応を行っている。

発想の転換

 このような新しい取り組みの裏には、新しい企画立案プロセスの採用があった。従来のように銀行が顧客ニーズを想定し、サービスを開始した後に改善する、というステップはとらなかった。まずは徹底的に顧客調査を行った。アンケートやインタビュー調査だけでなく、時には何人かの若年層に密着して活動を共にすることまで行ったのである。調査の出発点は、金融のニーズを探ることではなく、むしろ生活全体を理解して、そこからどのように金融が関わってくるのかを捉えようとしている。また、新たなサービスは銀行だけで検討するのではない。企画の柔らかい段階から、ターゲットである若年層に参加してもらい、その場でフィードバックを受けながら、インタラクティブな取り組みを行っている。こうした結果が、例えば、自己表現を重視する若者に対しデザイン性の高いキャッシュカードを有料で提供するという、新しい発想へと結びついた。
 コストについては、詳細は明らかにされていないものの、必ずしも莫大なリソースを投入しているわけではなさそうだ。例えば、カードデザインも一流のデザイナーばかりではない。店舗もまずは大学内に2店舗を展開している。ネットはデザインや使い勝手を大幅に変えているが、高度なサービスを提供しているわけではない。

求められる創意工夫による新たなアプローチ

 今回の事例は、費用対効果の判断が難しい若年層ターゲットに対して、創意工夫次第で新たなアプローチが可能であることを示唆している。同行では、企画段階のプロセスを徹底的な顧客起点に変革することで、新しい発想を得ている。
 日本の銀行においても、必ずしも多大な投資をすることなく、創意工夫を凝らすことで、ターゲット顧客に対して新たな価値を提供することも可能なのではないだろうか。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

内山浩一

内山浩一Koichi Uchiyama

銀行ソリューション事業推進二部
部長
専門:金融ビジネスの企画・調査

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