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東証・大証統合への期待と課題

2012年1月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

2013年1月、東証と大証が経営統合し、日本取引所グループが発足する。システム費用の削減などの統合効果が期待されるが、統合会社は企業規模では世界のトップクラスとは言えず、アジアにおける競争力回復という重い課題も負っている。

東証と大証が統合へ

 2011年11月22日、東京証券取引所(東証)と大阪証券取引所(大証)は、持株会社「日本取引所グループ」の下で両社の経営統合を実施すると発表した。
 発表によれば、2012年夏頃に東証が大証に対する株式公開買付(TOB)を実施して子会社化し、その後、2013年1月をメドに大証を存続会社とする合併を行って、持株会社「日本取引所グループ」の傘下に東証と大証が並立する形とする。更に、合併後1年程度をメドに、自主規制機関、清算機関、デリバティブ市場会社、現物市場会社の四つの子会社が持株会社傘下に並ぶ形へとグループ再編を行うという(図表)。
 現在の東証と大証は、ともに戦後の取引所再開に伴い1949年に設立されたが、その前身である東京株式取引所と大阪株式取引所は、いずれも1878年に開設された。130年以上にわたって東西二大市場の運営者としてライバル関係にあった取引所の統合は、正に画期的である。
 東証は現物株式のメインマーケットとしての地位を確立している。一方、大証は、日経225株価指数の先物・オプションが経営の大黒柱であり、デリバティブ市場の運営が強みだ。2008年12月には、ジャスダック証券取引所を買収し、国内では最大規模の新興企業向け市場も有する。
 この二社の統合によって生まれる新取引所は、現物とデリバティブの双方に強いバランスの取れたものとなるだろう。また、あえて「証券」を外した日本取引所という名称からは、商品先物等を取り込む総合取引所グループ化への当事者の意気込みもうかがえる。

期待される統合効果

 東証と大証が統合することで、取引システムの統合によるシステム費用削減のほか、デリバティブ取引における清算の共通化、自主規制機能の共通化などによる効率性向上が期待できる。
 もっとも、日本の株式市場は、既に取引手数料が国際的にみても低い水準にまで下がっていることもあり、一般投資家や上場会社が直ちに実感できるような統合効果が表れる可能性は高くない。しかし、中長期的にみれば、取引所の経営が規模の拡大と取扱い分野の拡大によって安定することは、使い勝手の良い優れた市場の提供が持続することを意味し、投資家や上場会社にとっても大きなメリットがあると言えるだろう。
 しかしながら、東証と大証の統合にあたっては、懸念される点もないわけではない。
 その一つは、ライバルの消滅による経営規律の弛緩である。新しい日本取引所グループは、少なくとも国内においては、現物株式取引、デリバティブ取引、株式新規公開のいずれにおいても、100%に近いような高いシェアを占めることになる。そもそも、統合の最初のステップである東証によるTOBが半年以上も先に想定されているのも、こうした独占に近い状態が生まれることからすれば、公正取引委員会による独占禁止法の観点からの事前審査が不可欠だからなのである。
 実は、オーストラリア、韓国、香港、シンガポールなど、一つの国(地域)内の取引所が一つに統合されている例は珍しくない。日本取引所グループが独占的地位を占めても、それ自体は問題視すべきでないだろう。

競争力回復という課題

 と言うのも、近年、世界の取引所は、新興の電子取引システムの台頭を背景に、グローバルな規模で競争を繰り広げており、国内で少々高いシェアを獲得していたとしても、新規参入の脅威や国際的な競争から逃れることができないのである。
 例えば、市場の多様化が最も進んでいる米国では、新興の電子取引システムが、一部は取引所化するなどしてシェアを高め、ニューヨーク証券取引所(NYSE)ですら、自市場上場銘柄の取引シェアは3割から4割程度に過ぎない。
 日本国内に限ってみても、2010年の東証の株式新取引システム「アローヘッド」稼働後、株式取引の分野でも、機関投資家による私設電子取引システム(PTS)の利用が拡大している。PTSの利用拡大を阻む規制の存在などもあり、直ちに東証のシェアが急低下する可能性は小さいが、独占的な地位が長く保障されているわけでもない。
 また、国際的な競争という観点では、NYSEユーロネクスト、ナスダックOMXなど取引所運営会社は国境を越えて巨大化しており、東証と大証が統合しても、企業規模という尺度で見ると、世界のトップクラスと肩を並べることは難しいと言わざるを得ないのである。
 アジア地域においても、上海証券取引所の売買金額が東証を上回るなど、日本市場の相対的な地位はかつてに比べて低下している。欧米企業がアジアでの株式上場を考える際の第一候補は、香港市場となることが多い。統合後の日本取引所グループは、日本市場の競争力回復という重い課題を負っているのである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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