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拡大する地方銀行における投信のインターネット販売

2011年12月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 金子久

地銀ではネットチャネルを通じた投信販売の割合がメガバンクや証券会社よりもはるかに高い。多くの地銀がネットで購入する場合に手数料を優遇しているが、将来的にはネットと人によるサービスの融合による差別化が勝負の決め手になる可能性があり、対面販売システムとネット販売システムの柔軟な連携を今のうちから意識しておく必要がある。

 ここ1、2年、投信の販売チャネルとしてインターネットを重要視する販売会社が増えてきた。それまでもインターネットで投信を売買する環境を提供する販社はあったが、ネットによる販売額の拡大を目指した積極的な策を展開してこなかった。だが、リーマンショック以降、特に地方銀行がインターネットによる投信販売を意欲的に進めようとしている。

ネット化が進む地銀の投信販売

 地方銀行のネット販売比率(全チャネルの投信販売額に占めるインターネット経由の販売額)は高い。日証協などの各団体の公表データを付き合わせると、投信のネット販売比率は全販社平均で2010年度下期現在5%程度と推測される(図表)。業態別に見るとネット専業も含む証券会社の平均が4%である。メガバンクや信託銀行等の大手銀行では6%と推測される。これに対して地銀のネット販売比率は以前から高い。特に2010年度に入ってネット販売比率が上昇し、今では全地銀の投信販売額のおよそ9%がインターネット経由である。しかも、地銀の場合、インターネットによる投信販売を実施しているところは38行(2010年3月現在)に過ぎず、実際に実施している銀行だけに絞ってネット販売比率を推計すると、既に12%に達している。
 個別に見ると、ネット経由の販売額が投信販売全体の2割以上を占める地銀も数行存在している。中でもインターネットでの投信販売額の多い上位2行は4割以上をインターネット経由で販売しているなど、ネットは渉外や店頭と並ぶ主要な販売チャネルとなっている。
 そして、今までインターネット・バンキングで投信を取り扱ってこなかった地銀もネットでの投信販売に乗り出し始めている。今年度に入って上期だけでも3行が新たにネットでの投信販売を開始した。下期に開始すると見られる地銀も数行あり、今年度中には50行近くの地銀でインターネット・バンキングによる投信の取扱いが行われることになりそうだ。

ネット化を進める地銀の狙い

 メガバンクや証券会社などの他業態に先駆けて、地銀が投信販売のネット化を押し進める狙いは何だろうか。まず挙げられるのが、インターネット・バンキングの拡充である。店舗や職員の削減を計画している地銀もあり、サービス・レベルを維持する観点からもインターネット・バンキングの機能強化を目指す地銀は多い。
 新規の投信顧客の獲得や投信への資金導入も狙いの一つだ。2008年度以降多くの地銀では投信口座数がほとんど伸びていない。また、投信販売額が増加してもそれにつれて解約も増加し、結局預かり残は増えていない。このような状況を打開するため、顧客の購入機会を多様化する観点から投信のネット販売を検討する地銀もある。
 また、販売時の事務コストの軽減も投信販売のネット化の目的だ。勧誘時に顧客に説明すべき事項は年々厳密化し、特に対面販売において銀行側の負担も増えてきている。ネット化により販売時の事務コストの軽減を見込む地銀もある(※1)。さらに、ここへ来て当局が販売後の丁寧な顧客管理を求め始めている(※2)。多くの顧客に対して効率的なアフターケアを行うために、ネットに注目する地銀も出てくると思われる。

広がる販売手数料の割引

 大手銀行や証券会社ではあまり見られないのだが、ネットで購入する顧客に対して手数料を優遇する地銀は多い(※3)。顧客が店頭や渉外を通じて投信を購入する場合に比べ、インターネットで購入すると販売手数料が何割か安くなる。当初は数行が一時的キャンペーンとして始めたが、今では多くの地銀が実施している。今年9月の段階では、投信のネット販売を実施している地銀の9割が手数料の割引を実施しており、割引率は平均で2割から3割である。中には5割も割り引く地銀も8行存在している。割引率が近隣行と同じ水準となっているケースが多く見られ、競合関係の中で割引率が設定される様子がうかがえる。
 ネットにおける販売手数料の割引率と投信のネット販売比率を見ると、5割も割り引く銀行では投信のネット販売比率が地銀全体の平均値の2倍近い。ネットでの販売手数料の割引が販売額の増大にある程度効果があると考えられる。
 もっとも、地銀自身も販売手数料の割引がいつまでも有効だとは思っていないはずだ。ネット販売比率が高くなっても割引を続ける場合、収益の悪化をもたらす。既述の通りネットにおける販売手数料の割引率の高い銀行ではネットを通じた販売額が増えるのだが、その分店頭の販売額が減少している。しかも、新規資金をもとに投信を購入するケースは少ないようで、残高の積み増しにはつながっていない。結局、販売手数料も代行報酬(信託報酬の販社取り分)も減少している。また手数料水準だけの競争ならネット銀行やネット証券に太刀打ちできないのは明らかである。
 このため、地銀はネットにおける手数料の割引競争を早晩に止め、サービス・レベルの向上による差別化に戦略を切り替えるはずだ。具体的には残高の積み増しに効果的と考えられるアドバイスなど人によるサポートをネットサービスに付加するのではないだろうか。アンケートによると顧客の中にはネットで投信を購入する場合でもアドバイスを受けたいと望む人は多く(※4)、顧客によるサービス選別のポイントになる可能性は高い。ネットと人によるサポートを実際に融合させる段階では、進歩の早いネット技術を有効に取り入れる必要があり、あらかじめ準備することは難しい。しかし、対面販売システムとネット販売システムの密な連携が重要になるはずで、今のうちから意識しておくべきであろう。

1) 事務コスト削減のために帳票類の電子化に取り組む例が増えている。
2)「 平成23事務年度 金融商品取引業者等向け監督指針」(金融庁 2011年8月26日公表)でも商品販売後のアフターケアが不可欠と指摘されている。
3) 大手銀行が手数料割引を行っている例としては三菱東京UFJ銀行のケースが有名である。
4)「 地銀ネット投信投資家に関するアンケート」(MaDo2011年10月)によれば「地銀のネットで投信を購入する場合でも、対面でアドバイスを受けたいと思う」と回答したひとは49%である。特に現役世代に限るとこの比率はさらに高い。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
金融制度イノベーション研究室長
専門:個人金融マーケット調査

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