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リテール業績を支える顧客満足度向上とコスト抑制の両立

2011年11月号

銀行ソリューション事業一部 上級システムコンサルタント 大浦眞一郎

リテール部門で堅調な業績を残している欧州のある銀行では、顧客満足度を重要視したリテール戦略を実施している。しかし、その中には、単に顧客満足度の向上を狙うだけでなく、限られた経営資源の中で、いかにコストを抑制していくかといった施策も埋め込まれている。

リテール業績を支える顧客満足度

 英国のバークレイズでは、グローバル・リテール・バンキング部門担当のチーフ・エグゼクティブAntony Jenkinsが「我々の戦略的ゴールは“Happy customers, strong profit growth, good returns”である」と明言していることからもわかるように、リテール分野において収益をあげる指標として、顧客の満足度を重要視しているのが見て取れる。
 リニューアルした店舗をきめ細かく配置することによるコンタクトポイントを強化し、様々な施策により顧客満足度の向上を狙うというのが、バークレイズの基本的な考えのようだ。しかし、単に顧客満足度の向上を狙うだけでなく、その施策には、拡大傾向にあるコストを抑制するような工夫も埋め込まれている。以下では、そういった施策を紹介していきたい。

きめ細かい顧客対応とそれを支える業務分担

 一般に銀行では、顧客情報などを管理するCRMシステム(※1)を使い店舗アドバイザーが顧客対応を行うが、バークレイズではそれだけでなく顧客の取引状況全体の動きを捉えきめ細かい対応をしている。例えば、顧客のトランザクションをモニターして、デビットカード利用のパターンが変わると即時に利用を停止する。不正利用の危険性を低減するとともに顧客の安心感を高めているのである。
 ただ、こうした事態の顧客対応は、複雑な商品の説明と同様、商品説明や顧客リレーションマネジメント業務を中心としている店舗のアドバイザーでは対応が難しい。店舗ごとにそういった業務に精通した人材を配置することも考えられるが、バークレイズの場合は、店舗のアドバイザーは本人確認と問題の一時受けを担当し、あとは専門部署へその場で連絡するといった方法がとられる。そして専門部署では、彼らだけが参照できる情報で直接顧客と会話しながら状況を把握して対応する。このように、専門業務は集約してコスト削減をしつつ、顧客には不安感を持たれないような業務フローにしている。

店舗におけるセルフ系チャネル誘導

 バークレイズは、英国内で1,160万口座に対して1658のリテール店舗(※2)を展開している。これだけきめ細かく店舗を配置するとコスト上昇圧力につながるが、これら店舗を本来の目的である新規口座獲得やモーゲージなど複雑な商品を販売する拠点として効率よく運営するために、なるべくハイカウンター(※3)に来る顧客が減るような工夫をして、コストをコントロールする努力をしている。
 リニューアルした店舗では、入店すると両脇にATMが配置してある。ATMは、わかりやすく目的別に「引出し専用ATM」、「小切手などの入金が可能なATM」といったように並んでおり、顧客が店舗の奥に設置されているハイカウンターに行く前にATMを使うように誘導される。また、ATMのなかには、アドバイザーと名付けられたATMが設置されており、口座ステートメントのプリントなどが可能だ。また、このATMでは、キャッシュカードによる認証後、E-Mailアドレス等の簡単な入力だけでインターネットバンキングの申込みが完了し、顧客は次回からはインターネットバンキングを利用するように誘導される。こういった工夫をすることにより、バークレイズでは着実にハイカウンターに並ぶ顧客が減少してきているようだ。

インターネットバンキングを活用してもらう工夫

 インターネットバンキングの利用は、上記のように店舗でも誘導され、これまでインターネットバンキングを利用してこなかったITリテラシーの低い層にも広まる。
これらの層に対しても、インターネットバンキングを利用してもらい、利便性を実感してもらうことが重要だ。
 邦銀のインターネットバンキングでは、パスワードと乱数カード(※4)を利用して認証するケースが多い。しかし、あまりインターネットバンキングを利用してこなかった層にまで利用層が拡大すると、乱数カードの紛失などにより、ログインさえもできない状態に陥るケースが散見されるようになる。これでは、インターネットバンキング利用によるコスト削減効果は見込まれず、利便性を実感して顧客満足度を向上することもままならない。
 一方、バークレイズのインターネットバンキングの認証方法では、通常レベルの認証とワンタイムパスワードによる認証方法の2つが用意されているが、いずれの方法を選択しても、第二認証として乱数表は発行されない。
 通常レベルの認証の場合、第二認証として利用するのは利用顧客が初期登録時に自ら設定する6桁から8桁の任意のワードだ。送金など第二認証が必要な時に、そのワードの指定した桁数の文字を入力させることによって認証する。乱数カードの代わりに、利用者の記憶を活用するやりかただ。しかも、これら認証情報は個人情報とキャッシュカードの情報の組合せで銀行のHPから参照したり初期化することができる。つまり、キャッシュカードさえもっていれば、たとえパスワード忘れがあったとしても、コールセンターに問い合わせることなく、自分で対応可能な作りとなっている。
 こういったことは、邦銀でも一部ネット専業銀行などが同様の工夫を施しているところがあるが、利便性と安全性の両立という点でより参考となるのは、バークレイズのワンタイムパスワードによる認証方法だ。
 具体的には、ワンタイムパスワード発行用のディバイス(※5)にキャッシュカードを挿入し、ATMで使うのと同じPINコードを入力することにより認証する方式を採用している。この方法であれば不慣れな利用顧客であってもATMを利用するようにインターネットバンキングが使える。 この認証方式を2007年7月に導入した当時のデジタル・バンキング・ディレクターは「導入の目的は、使いやすく、かつ安全性の高いサービスを提供すること」とコメントしているが、筆者も使用してみたところ、「新たなパスワードを覚える必要がない」など、使いやすさという点ではその目的は達成されているようだ。
 また、安全性が増したことにより、送金可能額の大幅な引上げ、ローンの当日実行など、インターネットバンキングの機能が強化されている。このような施策を打つことにより、今まで利用してこなかった層も、一度利用することで利便性を認識し、継続的な利用顧客に変わっていくという、コスト抑制効果も見込まれる。

1) CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムとは、顧客関係を総合的に管理するシステムを指し、顧客の行動や状態を管理し、それを商品やサービスにつなげることを目的に導入されたシステム。
2) 2010年12月末時点の数値。口座数は決済口座の口座数。
3) ハイカウンターとは、通常銀行の店舗の一階にあり、おもに預金の入出金、振込業務等を行う窓口。
4) 乱数カードとは、よくインターネットバンキングの第二認証として利用するカードで、利用者個人に紐づけられる形で金融機関より発行される。
5) このディバイスは、EMV標準チップを搭載したICキャッシュカードに対しPINを入力することによってワンタイムパスワードを発行する。機能は、「ワンタイムパスワード認証」、「チャレンジ&レスポンス」、「トランザクション署名」の3つを提供。認証方式はEMV CAPというペイメントの認証の仕組みと同様の方式を採用。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大浦眞一郎

大浦眞一郎Shinichiro Oura

金融イノベーション研究部
金融ナビゲーショングループ GM