1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. IT&オペレーション
  6. 企業評価に決算書フットノート情報を生かすXBRL化 -米国事…

企業評価に決算書フットノート情報を生かすXBRL化 -米国事例より-

2011年10月号

投資情報サービス事業部 データアナリスト 三井千絵

個別企業分析においては、フットノート(注記、事業別セグメント)の情報は欠かせない。しかしその記載は個別性が高く、分析の効率化にXBRLが期待される一方、作成する企業の負担も懸念される。米国では段階的導入によりフットノートのXBRL開示が始まっている。投資家の声を重視し、様々な企業支援が行われている。

決算書のXBRL対応、米国に抜かれる

 米国では2011年7月からすべての上場企業が、SECに提出する決算書をXBRL(※1)で作成する。XBRLとは、企業が発表する開示情報から、必要な値を即座にコンピューターで取り込むことができるよう、各情報に意味を示すタグ(※2)をつけた書式である。利用者は専用のソフトウエアで発表と同時に目的の数値を取り出すことができる。企業は従来より、提出書類作成でフォントの大小や罫線を工夫し見やすさの向上を図ってきたが、XBRLではデータの意味が分かりやすいタグをつけることで、“分析システムにとっての読みやすさ”を向上させることになる(※3)。
 日本では2008年3月末決算から、EDINET(※4)に登録しているすべての企業と投資信託に、有価証券報告書(以下、有報。四半期を含む)の主要財務諸表本表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本変動報告書。以下本表)をXBRLで提出することが義務付けられてきた。他国に先んじた全企業適用であったが、その後もXBRL化が適用されたのは本表のみであった。一方米国では、フットノート(※5)も含めた提出文書すべてのXBRL化が決まっており、日本は開示データの量としては米国に“追い抜かれる”形になる。

企業評価におけるフットノートの重要性

 フットノートには、通常、機関投資家やアナリストが投資判断に用いる重要な情報――事業別の業績を表すセグメント情報や、取引先、借入情報等、発行済み株式数に関わる情報、保有有価証券・デリバティブ等の状況、繰延税金資産、無形固定資産の内訳、リース債務、など――が記載されている。また、販管費の明細のように、本表で発表されている数値の内訳になっている場合が多い。XBRLでは各項目の親子関係も設定することができるため、企業にとって提出前の確認を自動的に行う可能性に繋がる。一方アナリストにとっては、詳細と合計との関係を正確に把握することで、企業ごとの強み・特徴を知ることが容易となる。
 このように重要なフットノートだが、これまでは収録コスト等の理由で情報サービス業者がデータとして一部しか提供できない場合もあった。フットノートのXBRL化は整合性のとれた数値を用いた企業評価に寄与するものと思われ、アナリストにXBRLに対する期待を尋ねても、フットノートの情報が挙げられることが多い(※6)。しかし、日本では主に企業側の負担を考慮し、本表のみをXBRLで提出する方式となった。

利用を意識したタグ付け――米国の取り組み

 XBRLファイルをフットノートまで含めて作成するのは、米国企業にとっても簡単ではない。勘定科目がほぼ全社決められた形式で並ぶ本表とは異なり、企業固有あるいはその年だけ開示する情報があったり、文章表現と図表が混在し、どこにどのようにタグをつけるのか、イメージが描きにくい。
 米国では、フットノートの段階的な導入が行われた。まずXBRL化1年目は、本表の各勘定科目に<Revenue>、<Netincome>といったタグをつけ、フットノートには、「事業セグメント及び地域別業績」等のように、各章の見出しを意味するタグのみをつける。2年目以降は、フットノートも<Retail;Netsales>(小売業;売上高)のように項目ごとに詳細タグをつけることが求められる。3年目になると、これらXBRL文書は法定開示書類(※7)としての責任が発生する。さらにこうしたXBRL義務化は、企業を時価総額に応じて3つのグループにわけて、大企業グループから1年ごとに順次適用された。全企業の完全XBRL化は足掛け5年の取り組みとなる。
 規模別の導入となったのは、全企業への全面XBRL化適用をスムーズに行うためである。XBRLで財務データを編集する際に、企業はFASB(※8)とSEC(日本では金融庁)があらかじめ用意したGAAP(※9)の定義に基づく標準的な勘定科目のタグを用いることができる。しかし、企業が独自の事業活動に応じた項目で発表する場合は、別途拡張タグを作成し、標準タグとの違いを明確化しなければならない。フットノートは科目が多いだけでなく記載内容も個別性が高い。フットノートの詳細タグ付けは見本のない新しい開示への取り組みであり、多くの投資家、アナリストと接している時価総額が大きいグループ(※10)から適用されることとなった。利用者からは、どこまで細かくタグをつけることになるのか、どの情報が取得できるのか注目された。FASBは、タグの決定に企業や業界団体だけでなくアナリスト・機関投資家にも参加を求め、利用しやすいXBRLとするよう改善を続ける姿勢を示しており(※11)、利用者がフィードバックを行えるサイト(※12)を設けるなど、意見を吸い上げようとしている。
 これからフットノートの詳細タグ付けが始まる第2企業グループは、これまでの対応やフィードバックを見ながら取り組むことができる。さらに全企業が取り組むころには、正確性の向上や作業負荷の軽減を支援するサービスも充実することが予想される。FASB、SECも、企業向けに作成方法のセミナーを頻繁に開催している。

グローバルな企業評価を視野に入れたXBRLと次世代EDINETへの期待

 日本でも2009年の秋より、金融庁でXBRLの対象範囲拡張や、EDINET機能向上の研究・実験の取り組みが行われており、次世代EDINETでは何らかの対応が行われる予定だ。本表以外の情報は、米国の事例と同様に、利用者も巻き込んだ議論が求められることが予想される。こうした議論は、企業にとって自社がどのように評価されるのかを考える機会となり、投資家とのコミュニケーションの一助となる。米国ではFASBが投資家やアナリストにも検討メンバーとして参加を求めているが、IFRS財団でも今年基本方針を見直し、利用のためのデータ構造を意識した作りにしていくと宣言しており、利用者との対話を重視した対応は主流になりつつある。
 日本企業は開示の質と量は世界的にも高くなったと言われているが、海外の機関投資家にとっては日本語という壁がある。XBRLは日本企業の情報を、グローバルに利用者に結び付けるインフラにもなりえる。次世代EDINETにおいて、日本企業が海外も含めた投資家に適切に評価されやすい対応が行われることを期待するとともに、利用を意識した支援サービスの充実も望まれる。

1) eXtensible Business Reporting Language:拡張可能な事業報告言語。
2) タグとは、HTML や、XML で、マークアップ(印つけ)をする文字列。XML系言語の一つであるXBRLでも、各勘定科目についてタグを設定し、その科目名の意味を伝えている。
3) 例えば、事業別セグメントの各々の売上高に、どの事業の売上高であるかを意味するタグを付与することによって、利用者は正確に各事業を比較することができる。
4) EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork):金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムの名称。
5) 日本ではフットノートという呼び方は一般的ではないが、ここでは説明の簡略化のため、有価証券報告書の本表以外をフットノートと呼ぶ。
6) 2011年に野村総合研究所が主に運用会社に行った、XBRLに期待することについてのヒアリング結果より。
7) http://www.sec.gov/rules/final/2009/33-9002.pdf P26参照。
8) Financial Accounting Standards Board:米国財務会計基準審議会。
9) Generally Accepted Accounting Principles:会計原則。
10) 1年目は時価総額50億ドル以上の米国企業約500社、2年目はそれに続く外国企業を含む約1200社がXBRLによる提出を行った。3年目からは残りのすべての企業にXBRLでの提出が義務付けられる。
11) 2011年5月、ブリュッセルで行われた第22回XBRL国際会議にて、FASB XBRL Project Manager C.Tan氏は、Summary of Activitiesの冒頭でWorking with analyst and investor groupsを紹介した。
12) FASBは、ホームページからアクセスでき、すべてのタグの定義等を閲覧したり、利用者が登録することでレビュワーとして貢献できるオンラインサイトを用意している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

三井千絵

三井千絵Chie Mitsui

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:企業開示

このページを見た人はこんなページも見ています