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実施段階で顕在化した清算集中の課題

2011年9月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

店頭デリバティブ取引の清算集中を図る規制は実施段階において、国境を越える取引の扱いやバイサイドの間接参加に伴う課題などが顕在化している。日本においても外国との取引など、受けうる影響の検討が求められよう。

先延ばしされる清算集中

 欧米では店頭デリバティブ取引の清算集中(※1)を図る新規制の導入が相次いで先延ばしされている。清算集中は、G20が2012年末迄に実現を求めた金融危機対策の大きな柱であるが、米国ではドッド=フランク法に定められた規制の一部が有効となる直前の2011年7月14日に、非証券デリバティブを管轄するCFTCが最終規則の発効あるいは11年末まで一部条項を適用猶予すると発表した(※2)。また、証券デリバティブを管轄するSECも7月1日に一部条項の適用猶予を発表している。欧州でも、2010年9月に提出された店頭デリバティブの規制改革案について、欧州議会での採決は早くとも今年9月になり、具体的なルール作りは2012年にもつれ込む可能性が高まっていると報道されている。
 先延ばしの理由には様々な見方があるが、店頭デリバティブ取引に係る極めて大規模な規制改革であるため、かねて指摘されていた実施段階での様々な課題が顕在化してきたことが考えられる。例えば、米国では上記のように非証券デリバティブおよび証券デリバティブの監督官庁が異なるが、両デリバティブの定義についていまだ議論が続いているとされる。
 さらに、店頭デリバティブの性質として国境を越える取引が多いため清算集中の対象商品や参加者は国際的となり新たな規制が域外の取引相手にも適用され得ること、また、機関投資家や事業会社などいわゆる「バイサイド」の資産保護を目的として清算機関を間接的に利用させるよう制度化することについては大きな議論となっている。以下ではこの2点(※3)について詳しく見ていく。

国境を超える取引

 上場取引では一つの国の取引所や清算・決済インフラが中心となるため、外国の投資家等は当該国に代理人を立てて間接的に参加することが一般的である。一方、店頭デリバティブ取引では市場参加者が国境を越えて直接取引関係を結ぶことが珍しくない。そのため、清算集中では取引相手のどちらか一方が存在する国、あるいは第三国にある清算機関を使う可能性が高い。さらに、同一国内の取引であっても、その国に清算機関がなければ、第三国にある清算機関を利用せざるを得ない。
 従って、清算集中の実施においては外国の清算機関の活用を念頭に置いた検討が課題となるが、規制導入を巡って米国と欧州で規制アプローチが違うことが問題視されている。例えば、清算集中の対象者に関する定義が異なる。米国では金融事業者および主要デリバティブ参加者が対象とされるが、金融事業者でも総資産100億ドル以下であればCFTCやSECが適用除外を検討しなければならないとされる。一方、欧州の規制案では金融機関として銀行等(※4)に加え、ポートフォリオ管理や投資助言など幅広い投資サービスに関連している法人が対象とされ、また、適用除外を検討すべき規模も示されていない(※5)。
 上記以外にも欧米間で数多くの相違点や、二重規制、規制内容の相反の可能性などが懸念されており、ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)やIMA(英国の資産運用業界団体)など金融8団体は2011年7月5日、欧米それぞれの規制当局に対して、清算集中の課題を含めて、店頭デリバティブ取引にかかる規制の域外適用に対する懸念を列記した書簡を送付した。

バイサイドの間接参加と証拠金負担

 清算集中においては、バイサイドが間接的に清算機関を利用することが検討されている。金融機関(清算会員)がバイサイド(顧客)から預かった証拠金を分別管理のうえ、清算機関に設けた「顧客口」に差し入れる。金融機関の破綻あるいは破綻の可能性が高まった場合にバイサイドの資産を保護するためである。
 金融危機以前は、機関投資家とりわけヘッジファンドが取引先の金融機関に差し入れた担保について、金融機関が自己資金と合わせて他の取引の担保として再活用するという、いわゆる再担保を認める契約が少なくなかったとされる。ヘッジファンドは、金融機関に対して再担保をあらかじめ認める代わりに、より低い取引費用などのメリットを受けていた。しかし、金融危機において再担保が主な原因となって資産返還手続きが複雑となり返還にきわめて長い期間を要したことから、バイサイドや当局が再担保に厳しい目を向けるようになった。そして、新たな規制では清算集中の対象取引について、バイサイドと金融機関が相対で担保を差し入れる形から、金融機関を通して間接的に清算機関に証拠金を差し入れる形へ移行されるところとなった。
 清算機関への間接参加については、バイサイドのカウンターパーティ・リスクを大幅に低減する一方で、デリバティブ契約の維持に必要な資金負担が大きく増大することが懸念されている。金融機関との相対管理では、担保は金融機関との取引関係全体に基づいて決定されていた。これが、店頭デリバティブ商品ごとに異なる清算機関に、規定に基づいて計算される証拠金を差し入れるとなると、資金効率が大幅に低下しかねない。実際、欧州の年金基金は、清算集中が年金運用にも適用されると、店頭デリバティブを用いたリスクヘッジ取引のコストが高くなり、年金の運用効率が大幅に低下することを懸念している(※6)。大手の事業会社側も同様である。欧州の産業団体(※7)は清算集中を含む新たなデリバティブ規制が、ビジネス・リスクをヘッジするための取引までも事実上不可能になるほどのコスト増を招くと、規制案の再考を求める声明を発表した。
 清算集中は、G20が議論した金融危機対策の大きな柱として、大手市場参加者の破綻が他に連鎖することを防ぐという、いわゆるシステミック・リスクの顕在化防止を主眼に法制度化され、実施が検討されている。一方、上記で見てきたように、市場参加者の立場からは清算集中に伴う規制がどの国の法律に基づくものになるのか、また、リスク低減にかかるコストが取引自体を阻むほどの負担に繋がりかねないのではと懸念が表明されている。わが国においても、例えば日本のバイサイドが外国の金融機関と店頭デリバティブ取引を行う場合に、清算集中の対象判定をどちらの国の法規制に基づいて行うのか、双方で対象となる場合にどちらの清算機関を使うのか、参加の手順や証拠金はどうなるのかなど、市場参加者が受けうる影響についての検討が求められよう。

 

1) 店頭デリバティブ取引の清算集中とは、取引当事者間で成立した契約の債権債務関係を、清算機関と呼ばれる準公的な機関に引き受けさせ、リスクを集中的に管理する施策。詳しくは「金融ITフォーカス」2011年2月号『店頭デリバティブ清算機関の利用義務づけ』を参照。
2) 金融規制改革法はSEC(証券取引委員会)に証券ベースのスワップ取引の管轄権限を、CFTC(商品先物取引委員会)にスワップ取引の管轄権限を付与した。
3) この2点については、金融インフラに係る国際組織の支払・決済システム委員会(CPSS)と証券監督者国際機構(IOSCO)が2010年5月に公表した「『清算機関のための勧告』を店頭デリバティブ清算機関に適用する際のガイダンス」の中で留意点として指摘していた。
4) 信用機関(Credit Institutions)
5) 背景には、欧州の各国で金融業界の構成が異なることが推察される。
6) 欧州の大手年金基金は、年金を清算集中の対象外とするという欧州財務相会合の方針が、欧州議会との調整を経てしっかり実現されることを注視していると報道されている。7) EACT: European Association of Corporate Treasurers

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙

片山謙Ken Katayama

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