1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. バンキング
  6. 銀行における国際財務報告基準(IFRS)対応について

銀行における国際財務報告基準(IFRS)対応について

2011年9月号

銀行ソリューション事業二部 上級システムコンサルタント 野口明

6月末、金融庁は企業会計審議会においてIFRSを強制適用すべきかどうかの導入判断に関して、これまでの方向性を見直した。金融資産/負債の保有割合が大きい銀行にとって、IFRS対応はシステム/業務対応負荷が大きいといわれている。変動要素の多い中、今後の対応は、先送りすべきことと準備すべきことを見極めて、効率よく対応することが求められる。

ぶれるIFRS適用方針

 日本への国際財務報告基準(IFRS)導入については当初、2012年の適用判断時に2015年あるいは2016年からの強制適用実施を含めた判断が行われるとの見通しで、上場企業の多くはそのスケジュールを念頭に検討を進めてきた。しかし6月末の企業会計審議会では、2012年の適用判断から「5~7年の準備期間を置く事」とし、2016年3月期までとしていた米国会計基準の使用期限についてもその後の継続使用を容認する方向となった。
 一方米国は今年5月末、SEC1)のスタッフペーパーという形で、「米国会計基準の継続的適用とIFRS改訂への積極的関与、IFRS導入の場合でも移行期間(5~7年)を設ける」ことを公表していた。また、IASB2)の中ではFASB3)の影響が大きくなり、修正や延期等が頻繁に発表され、“世界標準づくり”にブレーキをかけている状況となってきた(図表)。
 日本では、こうした流れと震災に伴う企業負担軽減に鑑みて、当初予定よりも準備期間を延長し、適用範囲についても再検討する判断がなされたものと考えられる。

邦銀の対応状況

 邦銀の7月現在のIFRS対応状況は様々である。大手行は既に対応に着手しており、強制適用がいつになるかに関わらず任意適用で進めると思われるが、地銀においては会計基準の差異分析を終えたものの具体策はこれからの状況でもあり、様子見の状況となってしまっている。
 ちなみに、会計基準の差異分析だけでは、次のフェーズとして必要になるタスクの整理、業務課題の抽出には結び付かない場合が多い。この原因は、IFRS開示に必要な情報が何か分からない現状と、その情報に対する行内の管理主体部署が不明確なことにあると思われる。また難解な基準差異の説明が、実務/システム面での具体的な検討に落としにくい側面もあるように見える。

先送りと準備することの見極め

 このような環境で対応方針が決められない中、準備として何をいつから開始したらよいのだろうか。
 日本基準のIFRSへの移行は、時期が延期されるものの必ず実行されると想定すると、IFRSでの開示に必要な行内情報を明確にして整理し、管理部署を明らかにして情報の質を上げていく活動は、決して無駄にはならないと考えられる。特にIFRSによって、バーゼル対応で扱う情報が開示情報の「将来価値の見積」としての評価計算に活用されていくという大きな流れに対して、有効に機能するといえる。
 すべての要件が確定しない中では、本格対応はスタートせず、まず行内情報の整備を行い、調整を含め時間のかかりそうな作業を始めることが、効果的な準備作業になるのではないだろうか。「時間のかかる作業」で手戻りが発生しないものの具体例としては、「金融商品の分類および測定」など以下の作業が挙げられる。
 ① 業務プロセス・測定基準を変更しなければならないもの(例:貸付金等の償却原価計算、固定資産償却)
 ② データ整備と蓄積が必要なもの(例:PD/LGD、早期償還などのデータ)
 ③ 新たな業務を立ち上げる必要があるもの(例:有給休暇引当金算定)
 このような準備作業を地道に進めることが、本格対応スタートの際、全体コストに大きく影響してくることは海外の先行企業での成功事例からも読み取れる。豪州では、2005年にIFRS対応を行ったが、銀行は2000万~1億豪ドルのコストを費やしたという報告もある。実際にはIFRS対応そのものより行内の情報整備コストが多大だったらしい。一方、2010年に適用を開始したインドネシアのある銀行では、元々情報整備ができていたため、短期間かつコストを抑えた導入に成功している。
 いまだ制度改訂が協議中の「減損」および「ヘッジ会計」関連の基準差異対応は、深堀せずしばらく様子を見るべきであろう。前者については、バーゼルの考え方からは大きくはずれることはなく、後者については簡素化の方向性と想定される。
 IFRS対応を競争優位性が必要ない制度対応とみれば、コストは最小にして行うべきである。それには、「細く長く準備できるところをコストをかけずに実施しておく」、「既存の仕組みや情報を最大限活用する」、「変更される要件に効率よく対応していく」の3点がポイントとなる。

銀行業にとってのIFRSの意味合い

 銀行経営の視点ではどうだろうか。銀行は元来「財務会計」、「バーゼルの基準に基づいた管理」、「管理会計」の3つの基準で数字を管理してきたといえる。開示上は、この3つの整合性をとった形で経営のモニタリング、株主への情報開示がなされてきたと改めて考えると、IFRSはこれらの統合管理を目指した会計基準であり、それほど違和感のない流れとも捉えられる。IFRSを契機に行内情報の整備を進め、一層の可視化を推進し、リスク管理の強化、経営モニタリング、インセンティブ管理に活用していければ、IFRSは有効な銀行経営ツールになるのではないだろうか。

1) 米国証券取引委員会。
2) 国際会計基準審議会。
3) 米国会計基準審議会。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

野口明

野口明Akira Noguchi

金融デジタル企画二部
上級システムコンサルタント

注目ワード : IFRS

このページを見た人はこんなページも見ています