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アジアにおける外国人機関投資家に対する証券会社バックオフィス・システムの現状

2011年9月号

金融ITイノベーション研究部 上席コンサルタント 南博通

アジアでは外国人機関投資家からの注文は、香港・シンガポールをハブにして各市場へ発注されてきたが、アジア全体で売買高が拡大するとともに、ハブ拠点以外の市場でも本格的なシステムが導入される例が増えている。

投資家タイプで見るアジア各市場の違い

 東京証券取引所(東証)、大阪証券取引所(大証)の売買代金を2005年と2010年で比べると、どちらも微減である。その間に、アジアの各市場は大きく伸びている(図表)。上海証券取引所はいうまでもないが、香港証券取引所も東証の半分近くに迫っている。シンガポールやタイは大証を抜いた。その要因として、投資家の裾野拡大、投資信託やETFといった株式をベースにした投資商品の拡大などが挙げられる。
 このように存在感を強めているアジア市場も、それぞれに特徴がある。外国/国内、機関投資家/個人投資家という投資家タイプ別で売買シェアを見てみると、シンガポールと香港では、外国人機関投資家の割合がそれぞれ6~7割、4割強であるのに対し、国内個人投資家の割合は3割強、2割程度である。両市場とも金融インフラとしての自由度や透明性が相対的に高いことが背景にある。一方、韓国や台湾などでは外国人機関投資家が2割前後に下がるとともに国内個人投資家の比率が高くなり、中国になるとほとんど国内投資家で占められる。
 売買代金に占める外国人機関投資家の割合が大きい香港やシンガポールでは、注文を受けるのも外国の証券会社(投資銀行)のシェアが高くなる。香港では証券会社を3つに分類しているが、カテゴリーAと呼ばれる大手証券15社はすべて欧米日の大手証券会社である。そしてこの15社による執行金額が65%を占める。シンガポールは香港に比べて大手地場証券の規模が大きいものの、外国証券の活動の影響が大きい点では同じである。
 一方、国内個人投資家の売買シェアが高い韓国や台湾では、外国証券のオペレーションの規模は小さい。規制のために外国証券が入りにくいこともあるが、外国証券の主要な顧客である外国人機関投資家のニーズが大きくないため、現地法人や支店もそれに見合った規模にしているためである。

外国証券の母店として機能する香港・シンガポール

 では、外国人機関投資家が香港やシンガポール以外の(外国証券があまり展開していない)市場の株式を売買したいときにはどうするのか。グローバルに投資する機関投資家を顧客にしている外国証券では、アジア株に関する顧客の口座を、香港やシンガポールで管理していることが多い。そこで、アジア域内の株式の注文も、いったん顧客の口座が管理されているこれらの拠点で受ける。
 例えば、ロンドンの顧客のアジア株取引口座を香港で管理しているとする。その顧客からマレーシア株やインドネシア株を購入する注文が出た場合、香港拠点が注文を受ける(※1)。機関投資家の注文はインデックス構成銘柄によるバスケット注文が多いので、注文される銘柄は顧客間でほぼ共通している。香港拠点では、他の顧客からの同一銘柄についての注文をまとめて、香港拠点名義で、自社の現地法人か現地の証券会社へ注文を出す。現地は注文を受けると、香港拠点名義のまま取引所へ発注し、取引所から出来を受ける。発注した全株数について取引が成立するとは限らないので、成立した分の情報を香港拠点へ送り、香港拠点では、一定のルールに基づいて、出来た注文を顧客に配分する。現地では、約定照合後の取引所や決済機関との清算・決済を行う。
 すなわち、発注・執行・清算・決済までの業務は現地で行われ、顧客への取引残高報告や権利配当処理を含めた口座管理業務は香港やシンガポールで行われる。アジア地域においては、香港やシンガポールがハブとして機能する母店になっているのである。もちろん、母店の市場については、母店ですべての業務が行われる。

香港・シンガポール以外でも拡がるシステム化の波

 このように香港・シンガポールの母店では、発注、執行、清算、決済、口座管理などすべての業務を行うため、コンピューター・システムもこうした業務を処理できる機能を備えている必要がある。とくに清算・決済・口座管理などバックオフィス業務のシステムは重要な役割を担う。さらには現地の規制当局への報告(RegulatoryReport)や、証券集中保管機関(Central SecuritiesDepository)など現地決済機関との接続といった周辺機能を果たすシステムも必須である。
 外国証券(投資銀行)は、アジアの母店では、本国で開発された自社システムか、Broadridge、Sungard、Calypsoといったグローバルに実績のあるベンダーのバックオフィス・システムを利用している。ただ近年、価格と現地でのサポート体制を強みにしたオーストラリアやインドのベンダーが提供するシステムが、欧州系、日系などの証券会社で利用されるケースが見られる。当局報告のような「周辺機能」システムについても、自社開発とベンダーシステムの利用が混在している。
 一方、マレーシア、ベトナム、インドネシアなど母店以外の市場では、自社の現地法人で執行から清算・決済業務を行う場合でも、バックオフィス・システムに口座管理の機能は必要ない。清算・決済機能と比較して処理が複雑な口座管理機能が不要な分、システムは軽くて済む。以前は、注文件数も多くなかったために、EUC(エンド・ユーザー・コンピューティング)で開発したシステムを使って注文管理、約定照合、決済照合を行っていた。しかし、売買高が2倍、3倍に拡大し、手作業に近いオペレーションでは回らなくなったため、リージョナルなベンダーの(機能を絞った)システムが欧米系、日系の証券会社で活用されるようになった。さらにこの数年では、これまで自社で開発した簡便なシステムを利用していた現地の大手証券会社が、リージョナルベンダーのシステムに切り替える例が増えている。
 外国人機関投資家の投資対象として、アジアのエマージング市場が注目されるなか、こうした市場でバックオフィス業務の本格的なシステム化の波が広がっていくと思われる。

1) 証券会社によっては、口座管理を香港で行っていても、発注先の取引所と距離が近いシンガポール拠点へ注文を転送することもある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

南博通

南博通Hiromichi Minami

金融ITコンサルティング部
シニアコンサルタント

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