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利用が拡大する日本株の代替執行市場

2011年9月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

日本株式市場におけるPTSの取引シェアは3.7%に達した(2011年6月)。これにダークプールでの取引を含むToSTNeT単一銘柄取引を加えれば8.5%となる。日本でも代替執行市場の存在感が高まっている。

存在感を高める代替執行市場

 近年、各国の株式市場で、電子的な注文付け合わせの仕組みを取引所外で提供するATS(日本ではPTSと呼ぶ)と呼ばれる取引システムや証券会社の社内付け合わせシステムであるダークプールといった仕組みが、存在感を高めている。これらは、伝統的な取引所市場に代わるものという意味で、代替執行市場と呼ばれる。
 米国では、規制の変化などを背景に1990年代半ば以降、株式市場の構造が大きく変化し、ニューヨーク証券取引所やナスダックといったメイン市場の自市場上場銘柄取引におけるシェアは、30~40%に低下している。
 欧州では、2 0 0 7 年1 1 月の金融商品市場指令(MiFID)施行以後、EU域内各国の主要銘柄を一つのプラットフォームで取引できることを売り物にするATSが登場した。欧州全体を一つの市場とみて投資判断を行う機関投資家を中心に利用が急拡大し、各国の取引所市場がシェアを低下させている。
 日本でも、1998年12月に施行された「日本版ビッグバン」実施のための法改正で、それまでは違法な取引所類似施設にあたるとされていたPTSの開設が解禁された。その後、取引所市場との競争条件を整えるための制度改正も行われたが、株式取引における利用は伸び悩んできた。ところが、最近になって、PTSの取引高が急速に増加している。2010年半ばまで1%を下回っていたPTSの上場銘柄売買高に占めるシェアは、2011年6月には3.7%に達した。

PTS利用拡大の背景

 日本市場でもPTSの利用が増加しているのは、近年の環境整備が功を奏し始めたためと言えるだろう。
 2010年7月以降、複数のPTSにおける取引が、取引所市場での取引と同様に、日本証券クリアリング機構を通じた清算の対象となったことで、PTS取引の安全性に対する投資家の信認が高まった。また、情報ベンダーのサービスを通じて取引所市場とPTSの気配値がリアルタイムで比較できるようになり、呼び値の刻みの違いなどの要因でPTSに有利な気配がしばしば表示されているという認識も拡がってきた。
 既に2010年1月の東証の新取引システム「アローヘッド」の稼働で、日本の株式市場でもミリ秒単位の高速取引が可能となっている。高速で頻繁に売買を繰り返すHFT(高頻度取引)トレーダーは、PTSと取引所市場の間で裁定取引を行い、市場全体の流動性を向上させる機能を担う。日本の株式市場でも、HFTトレーダーが、欧米市場と同様に主要な市場参加者の一角を占めるようになりつつある。

ダークプールも拡大か

 実は、PTSだけでなく、証券会社が自社の顧客向けに提供する付け合わせシステムであるダークプールを通じた取引も拡大しつつあるように思われる。取引所市場と代替執行市場とが相まって、投資家の様々な取引ニーズに応え、市場全体の流動性が向上するという現象が、日本の株式市場でも現実化することが期待される。
 日本では2007年頃から外資系証券会社を中心にダークプールを開設する動きがみられたが、コンピュータ・システムを通じて注文を受け付けることから、法令上はPTSに該当し、金融庁による認可取得が必要ではないかとの見方もあった。この点について金融庁が、2010年3月の監督指針改正で、東証のToSTNeT市場など、「売買立会によらない取引を行う取引所金融商品市場」にマッチングされた顧客注文を取り次ぐシステムはPTSに該当しないという解釈を明示したのである。
 この解釈明確化を受けて、ダークプールでマッチングされた顧客の注文をToSTNeT市場で成立させるケースが急増したようである。その取引規模を正確に把握することはできないが、2010年4月以降、ToSTNeT単一銘柄取引の取引高は明らかに増加している(図表)。PTSの取引高にToSTNeT単一銘柄の取引高を単純に上乗せすると上場銘柄取引高全体の8.5%に達する(2011年6月)。
 もちろん、ToSTNeT市場の取引の中には、監督指針改正前から行われていた一般的な大口注文同士の付け合わせが含まれるので、この数字を直ちに日本の代替執行市場のシェアとみなすのは不適切だが、米国でダークプールの取引シェアが7%程度とされることを考えれば、日本の代替執行市場が一定の存在感を発揮する段階に入ったと言っても見当外れではないだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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