1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. バンキング
  6. 米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)の施行を巡…

米国の外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)の施行を巡る問題点

2011年8月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 川橋仁美

最近、国内金融業界では、米国の外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act:FATCA)に対する関心が高まっている。FATCAの目的は、米国人富裕層による租税回避を防止することにあるが、外国金融機関には負担の大きい規則となっている。

 最近、国内金融業界では、米国の外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act:以下FATCA)の動向に対する関心が高まっている。2011年4月8日にFATCAの財務省規則案の第二次ガイダンス(Notice 2011-34)が公表されたことで、規則の詳細が明らかになり、規則施行の現実味が増したことがその理由だ。

FATCAとは

 FATCAは、米国人、なかでも富裕層による租税回避を防止するための法律である。外国金融機関に対して米国人が保有する口座について源泉徴収義務と報告義務を課す。2008年に生じたUBSの脱税幇ほう助じょ事件を受け、2010年3月に成立した。
 FATCA施行により、外国金融機関が自己勘定及び顧客勘定において米国投資を行う場合、2013年1月1日以降に受け取る利息・配当及び資産の売却や処分に伴う所得に対して30%の源泉徴収税が課される(※1)。
 外国金融機関は、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service:以下IRS)とFFI(Foreign Financial Institution)(※2)合意契約を結び、FATCAによる源泉徴収・報告義務に服することにより、30%の源泉徴収を回避することができる。具体的には、FFI合意契約を結んだ外国金融機関(以下、参加FFI)は、FATCAに規定された手順にもとづいて自らが保有する米国人口座(法人・個人共に)を特定し、特定した米国人口座について名前、住所、納税者識別番号、口座番号、残高、グロス入出金額などの情報をIRSに毎年報告をする義務が課される。もし顧客が口座情報の開示を拒んだ場合は、非協力顧客と見なされ、参加FFIには、当該顧客の口座に対して30%の源泉徴収を実施すると共に、口座を閉鎖することが求められる。なお、参加FFIとなり報告義務に服することで30%の源泉徴収を回避するという選択肢以外に、外国金融機関には、「米国投資を止める(そもそも源泉徴収の対象とならない)」、「米国人口座を保有しないこと等の条件を満たし、みなし遵守FFIとなる(※3)」、「非参加FFIとして30%の源泉徴収を受け、還付請求をする」などの選択肢がある。しかし、いずれの選択肢も、金融機関にとっては戦略面、あるいは事務手続き面での負担が伴うものである。
 このようにFATCAは、米国投資を行っている外国金融機関にとってコンプライアンス・コストの高い規則案である(※4)。FATCAの第二次ガイダンスを受け、わが国においても全国銀行協会、日本証券業協会などが、米国人口座特定の手順の簡素化など規則案のより一層の緩和を求める意見書を提出している。
 なお、2013年1月1日施行に向けて、2011年末には最終規制が公表される予定とのことだが、もう一つの柱である法人口座の特定手続きに関するガイダンスはまだ公表されておらず、規則自体の詳細が固まっていない状況にある。国内金融機関としては、施行期日に向けて事務面、システム面の検討を開始したいところではあるが、作業レベルへの落とし込みが難しい状況にある。

FATCAの背景

 外国金融機関にとって負担の大きな規則であるにもかかわらず、米国税当局がFATCAを強く推進する背景には、米国人富裕層の海外金融資産・所得把握に大きな困難が伴い、適切な課税が実施できていないという問題がある。この問題に対応するために米国では、既に2001年にIRSと契約を締結した適格仲介人(Qualified Intermediary:以下QI)に源泉徴収義務と報告義務を課すQI規則(※5)を導入している。FATCAは、このQI規則を強化し、富裕層の資産運用に直接かかわっている外国金融機関に対して広く源泉徴収義務を課し、直接金融機関から納税者である米国人口座の情報を報告させることにより、富裕層の租税回避行為を防止しようとするものである。なお、富裕層の租税回避行為は、米国のみならず、近年、広く世界的な問題となっている。富裕層の租税回避行為の防止という観点から、各国の国税当局は、広く外国金融機関を対象とし、納税者に関する情報を取得するというFATCAのスキームの成否に強い関心を持っているようだ(※6)。

FATCA施行に伴う問題点

 外国金融機関にとって米国人口座の確認、口座情報のIRSへの報告、源泉徴収などコンプライアンス・コストの高い規則であるというだけでなく、FATCAには、外国金融機関の母国の国内法令等に抵触する可能性が実施上の問題点として指摘されている。第二次ガイダンスに対する全国銀行協会の意見書では、守秘義務や個人情報保護を定めた国内プライバシー関連法令(含むガイドライン)に抵触する可能性や租税条約に違反する可能性が指摘されている。
 例えば、口座情報の開示を拒む顧客の口座(以下、非協力口座)については、当該口座から生じる利息・配当金等に30%の源泉徴収税が課される。課税対象額は、非協力口座を保有する参加FFIの総資産に占める米国資産の割合(以下、パススルー率)に基づいて算出する。例えば、参加FFIのパススルー率が20%ならば、利息等の20%が課税対象となり、30%の源泉徴収を受ける。しかし、参加FFIの保有する米国資産と非協力口座から生じる利息・配当金等には直接的な紐付けがない。このように第二次ガイダンスの定義によれば、米国源泉でない支払いが課税の対象となる可能性があるが、その正当性を裏付ける法的根拠が明らかでないという問題点が指摘されている(※7)。
 国内法令等への抵触の可能性を考えると、FATCAの施行を外国金融機関の善意と努力に依存することは現実的でなく、施行に向けて解決しなければならない課題は多い。FATCAの目的は、富裕層の租税回避行為の防止であり、この点は、各国の国税当局に共通の問題意識である。まず各国の国税当局が協調し、自らの法執行権限を最大限に果たして、国際税務調査に伴う負担を軽減することにより、金融機関のコンプライアンスに伴う負担を軽減し、実効性のある枠組みを構築することが求められる。各国及び国際的な税徴収スキームを最大限に活用した上で、情報提供を拒む国や情報取得に困難を要する国の金融機関に対して追加的な報告負担を求めるというアプローチもあるのではないか。

1) 生田ひろみ・前田幸作、「『外国口座財務コンプライアンス法』(FATCA)ガイダンスの概要」、『金融財政事情』2010年11月15日号。
2) Foreign Financial Institution(FFI)には、次の3つが含まれる。1)通常の銀行業または類似の事業の一環で預金を受入れている、2)他人名義の資産を保有することを主たる事業としている、3)投資、再投資、株式・パートナーシップ持ち分、商品等の売買に従事している。<
3) 今後、みなし遵守規定の要件の詳細がどうなるかによるが、国内中小金融機関は、米国人口座を保有しないというみなし遵守FFIという選択肢を選ぶ可能性が高い。
4) 全国銀行協会によれば、日本の全人口1.28億人に対して米国籍保有者は5.2万人。一方、邦銀の預金口座数は8億件であり、このなかから米国人口座を特定するために預金口座全体を対象としてFATCAの規定する手続きを行うことは多大な事務・コスト負担を強いるものとのことである。
5) 1986年内国歳入法1441、1442、1443条に関する財務省規則。
6) この点については、田中良「全世界所得課税確保のための海外金融資産・所得の把握手法」IMES DiscussionPaper Series No. 2011-J-10に詳しい。
7) 5月13日付けのニッキンによれば、「パススルー課税について、大手税理士法人は、「当該国の税収入にかかわる問題であり、実施されるかどうかは流動的」とみている」とのことである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:内外金融機関経営、ALM、リスク管理

このページを見た人はこんなページも見ています