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成長するアジア富裕層向け金融サービス

2011年8月号

金融ITイノベーション研究部 副主任コンサルタント 片岡佳子

アジア地域における富裕層の資産規模は年々拡大し、投資家としてのプレゼンスは確実に高まっている。こうした中、欧米金融機関はアジア富裕層に向けた金融サービスの提供を積極化させている。

 近年、アジア地域における富裕層(※1)が大手金融機関の重要な顧客として注目されている。これはアジア富裕層の資産規模が年々拡大しており、それに応じて投資家としての彼等のプレゼンスが確実に高まっているためだ。
 欧米金融機関ではこうしたアジア富裕層を取り込むため、投資ニーズに合ったサービスを提供する動きを積極化している。本稿では、アジアにおける富裕層の最近の動向と、そこへ向けた代表的なサービスについて簡単に整理する。

アジアにおける富裕層の概要

 アジアにおける富裕層の資産規模は、経済や金融市場の発展を背景に年々拡大している。例えば、2010年には富裕層人口は前年比9.7%増の330万人、投資可能資産規模は同12.1%増の10.8兆ドルと、欧州のそれぞれ310万人、10.2兆ドルを上回るまでに至っている(※2)。域内の資産分布をみると、日本が約40%と大きな部分を占めるが、最近の成長を牽引しているのはそれ以外のアジア諸国、特にアジアにおける中心的なエマージング国である中国、インド等と、オフショア・センターの香港、シンガポールである(※3)。
 これら日本を除くアジア地域では、富裕層の資産運用の特徴として主に次の二点が指摘される。一点目は、不動産に対する投資比率の高さである。ポートフォリオ全体に占める不動産の比率は、グローバルでは2割程度なのに対し、アジアでは地域によるばらつきは見られるものの、平均約3割と高い水準にある(※4)。例えば2009年のシンガポールにおける不動産投資比率は34%に達している(※5)。
 二点目は、アジア投資家は自己判断型の投資を好む傾向が強いという点である。一任勘定(discretionary mandate)(※6)が全運用資産に占める割合は欧州では20%程度であるのに対し、アジア地域では10%にも満たない水準との調査結果もある(※7)。
 こうした特徴の背景には、富裕層第一世代である若い起業家層の富裕層全体に占める割合が、欧米に比べアジア地域では高い事が挙げられる(※8)。若手起業家層は、相続・資産継承といった長期の資産管理への意識が低いため、ポートフォリオの分散化等による安定的な資産運用よりも、積極的にリスクをとることで短期的な絶対収益を重視する傾向が強い。また、アジア起業家がコストに対して特にシビアな事も、ポートフォリオの自己管理を好む要因の一つとして指摘されている。このため、必要とされる金融機関のサービスとして、ポートフォリオ・マネジメント能力等を重視する欧米富裕層とは異なり、アジア富裕層は期待リターンの高い商品や、魅力的な投資戦略アイデアの提供等を特に重視するといわれている。

アジア富裕層向けの金融サービス

 こうした中、欧米金融機関では、アジアでの富裕層ニーズに合致したサービス提供を強化する取組みが見られている。その一つが、グローバル展開する金融機関における、顧客ニーズに合った商品を提供するための国境・部門の枠組みを越えた仕組みづくりである。
 例えばUBSでは、2010年に富裕層顧客に部門や国境を超えて投資アイデアや商品を提供するビジネス・ユニット(※9)をヨーロッパのみならずアジア諸国をも対象として設立した。このチームを経由して、アジア富裕層はUBSがグローバルで展開するあらゆる商品と、それらを活用した投資アイデアに直接アクセスできるようになる。これにより、UBSは①グローバルでの自社商品の強みを生かし、②グローバルでの商品提供力に乏しい現地金融機関と差別化を図るという利点を発揮できるようになる。またゴールドマン・サックスも類似の機能を持つPrivate Investor Product Groupを2010年7月にアジアに設立、欧州の商品企画チーム等と連携し、期待リターンの高いオルタナ商品等を含む多様な商品を、アジア富裕層顧客向けに提供している。
 富裕層投資家向けの専用トレーディング・デスク設置の取組みも見られている。欧米金融機関は、香港やシンガポールの機関投資家向けトレーディング・フロア内に、富裕層投資家専用のトレーディング・デスクを設置、取引意欲が特に旺盛な富裕層顧客に対して、執行機能や付随するサービスの提供を開始した。専用トレーディング・デスクの代表的なユーザーは、自己資産運用のためのプライベート・トレーディング・チームを抱えるような超富裕層(Ultra High New Worth)(※10)であるが、その売買頻度や取引規模、運用知識は機関投資家並みとも言われている。こうした中、専用デスクを有する金融機関は、システム・トレード等の高度な執行機能に加え、執行アドバイス、リサーチ提供、さらに、アジア投資家の間で最も重視される戦略的トレード・アイデアの充実など、機関投資家と同水準の包括的なサービスを提供する事でアジア富裕層からのオーダー獲得を図っている。

おわりに

 本稿では、アジアにおける富裕層の拡大と、そこへ向けた代表的なサービスについて整理した。同分野での顧客獲得競争が本格化する中、欧米金融機関では、現在のアジア富裕層の中心である若手起業家層だけでなく、次世代富裕層顧客の獲得を見据えた次の一手を打つ動きも見られ始めている。例えば、これまでは必ずしも優先度が高くないと考えられてきた信託や遺産管理サービスの充実と、それらサービスの提供を通じた次世代富裕層とのリレーション強化に向けた取組み等である。今後15年以内に、アジアでは富裕層資産の80%以上が次世代に継承されるとの予測もある。アジア富裕層向けビジネスの益々の拡大が見込まれる中、今後はその内容の多様化についても注視していく必要があるだろう。

1) 本稿では、多くのデータの引用元である2011 WorldWealth Report(Capgemini/Merrill Lynch)に準じ、投資可能資産が100万ドル以上の資産家を富裕層とした。
2) 出所:2011 World Wealth Report(Capgemini/Merrill Lynch)。アジア太平洋(APAC)地域のデータを参照。
3) 出所:2010 Asia Pacific Wealth Report(Capgemini/Merrill Lynch)
4) このほか、投資先の地域分布を見たとき、エマージング諸国への投資比率が7割以上を占める点も特徴とされる。これも、リスクを取る事で短期的な絶対収益を重視する傾向の表れと言えよう。
5) 脚注3)を参照。
6) 顧客の委任を受けて、プライベート・バンク等がその裁量により運用を行う口座、勘定のこと。
7) 出所:Global Wealth 2011(The Boston Consulting Group)
8) 日本を除くアジア太平洋地域では、企業所有と所得由来の資産が富裕層資産の7割程度を占めるとされる。富裕層人口を年齢別に見ると、日本を除くアジア地域では、45歳以下の富裕層が全体の4割以上、55歳以下が7割を占める。一方、欧州、米国では、45歳以下の富裕層は全体の2割にも満たない(2011 WorldWealth Report)。
9) ユニット名はInvestment Products and Services。
10) 特に資産規模の大きい富裕層の事。ここでは投資可能資産3,000万ドル以上の資産家を指す。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融機関のデジタル化

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