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環境変化に頑健性のある新たな運用手法、全天候型運用の現状

2011年8月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

どのような投資環境の下でも安定的なリターンを獲得することを目指した「全天候型」の運用方法が注目を集めている。「リスク・パリティ」と「リスク要因」アプローチに大別でき、年金ファンドや運用会社で実際の運用が行われている。実施上の課題を克服することが発展への鍵となる。

 2008年に起こった金融危機で、大幅なリターンの悪化を経験した年金ファンドや運用会社を中心に、どのような環境下でも一定の安定したリターンを獲得できる運用手法の研究が進んでいる。その運用手法の一つが、「全天候型」運用である。今回の金融危機では多くの資産が同時に下落し、不動産、プライベート株式、ヘッジファンドといった株式や債券と異なるオルタナティブ商品へ分散投資を行っていた機関投資家でも大きなマイナスリターンとなった。そのため、このような新たな運用手法が模索されているのである。本稿では、その内容と運用上の課題についてまとめてみた。

全天候型資産運用の特徴と類型化

 全天候型という名前は、元々B r i d g e w a t e rAssociatesという運用会社が1996年に運用を開始したファンドの名前(※1)に由来する。このファンドは、株式リターンに年金ファンドの運用成績が左右されることを防ぐため、各資産への資金配分比率の決定をリスク量(※2)をベースに行っている。過去30年以上の長い期間のデータを見ると、どの資産クラスも単位リスク当たりのリターンにさほど大きな差がないという結果に基づき、各資産のリスク量を等分にする、いわゆる「リスク・パリティポートフォリオ」という考え方で資産配分比率を決めているのである。できるだけ多くの資産へ均等にリスク配分することで、経済環境に関わらずいずれかの資産が上昇することを期待したもので、全天候型運用の一例と言える。このファンドは、グローバル株式、高格付け債券、低格付け債券、インフレリンク債、コモディティ、エマージング市場債券などへ分散投資をしている。今では多くの運用会社が類似の商品を提供しており、米国では個人投資家向けに投資信託も販売されるようになっている。
 金融危機以降、もう一つの全天候型の運用方法が年金ファンド(※3)でも試みられ始めた。それが、「リスク要因」アプローチである。この方法の特徴は、資産クラスではなく、資産価格の変動をもたらす基本的リスク要因を分散することを目的としている点にある。例えば、経済成長、金利、流動性、信用力といったリスク要因が代表的なものである。資産クラスではなくリスク要因を意思決定の基本単位と考えるのは、リスク要因間の相関が資産クラスの場合に比べて低く、しかも金融危機などの突発的な事象が生じた時でも比較的安定している事実に基づいている。
 具体的な手順としてはまず基本的リスク要因を洗い出した後、経済成長やインフレ率の高低と各リスク要因の関係を特定する。例えば、インフレ率が低下している局面では、金利要因や経済成長要因がプラスになると考え、そのリスク要因に対応する資産クラスを選び出す。様々な経済局面ごとに上がりそうな資産を一定比率保有しておくことで、どのような局面でも一定のリターンを確保しようという運用手法である。リスク要因は、先験的に金利や流動性といった項目を決める方法と、定量的な分析(※4)によってファンドのリターンと関係のある抽象的なファクターを抽出する方法の2つに大別できる。
 リスク・パリティ、リスク要因アプローチの両方に共通するのは、「リスク」をベースにした運用であることと将来の経済環境の予測に頼らない点にある。予測に頼らないのは、将来何が起こるかを一定の正確性をもって予見することは難しい、という投資信念を持つ年金ファンドが世界的に多くなっているためと考えられる。

利用上の注意点

 以下の図表に、2つの手法の特徴と実施上の注意点をまとめた。リスク・パリティの一番の特徴はわかりやすさだろう。かなりの長期間において、資産間の単位リスク当たりリターンの大きさにあまり差がないのであれば、資産ごとに同じリスク量を割り振るという投資の考え方自体はリスク計算の部分を除けば一般にも理解しやすい(※5)。
 課題は実施上の難しさにある。リスク量をベースに資金配分を考えるため、将来のリスク量計算が必要になる。しかし金融危機の時のように相関係数や変動性は時として想定よりも非常に大きな値になる場合があり、リスク量をベースに資金配分を行うことは言うほど簡単ではない。また低リスクの債券の比率が高く期待リターンが低くなる場合が多いため、レバレッジを掛けることが不可欠になる(※6)。しかし流動性の低い資産では先物取引等の派生証券がない場合もあり、投資対象がある程度流動性のある資産に限定されてしまう。一番注意すべき点は、短期的に資産クラスごとの単位リスク当たりのリターンが大きく変化することである。例えば金融危機前に信用リスクを一定割合保有していたとすると、金融危機時に大きな損失を被ったはずである。
 一方のリスク要因アプローチは、何をリスク要因として特定するか、またリスク要因と資産クラスの関係をどう対応付けるか、さらにどの経済局面でリスク要因がどのような動きをするのかを明確にする点に実施上の難しさがある。例えば、世界の大手年金ファンドが採用しているリスク要因を調べたところ、リスク要因の区分方法自体にかなりの多様性が認められた(※7)。今後、年金ファンドや運用会社での研究が進み、様々な方法が考案されるものと考えられる。
 機関投資家の立場から、これらの動きをどう活用すれば良いだろうか。一つの方法は、自らの資産配分比率の決定などにリスクベースのアプローチを採用し、大きな環境変化にも対応できる、より頑健な資産運用のフレームワークを構築していくことである。資産運用に多くのスタッフをさけない小さな年金ファンドでは、リスク要因への配分比率までを決定し、それらリスク要因と資産クラスとの対応や、その配分比率の決定は実質的に運用会社に任せる方法も検討すべきと考える。大まかなリスク配分と目標リターンだけを決定し、残りの資産配分比率の決定などについては運用会社に権限委譲する方法であり、自身の運用管理能力に応じた方法の一つであると考えられる(※8)。

1) All Weather Fund という名称で、目標とするリスク量によって幾つかのファンドに分かれている。代表的なファンドはリスク量12%のファンドである。
2) 全体のポートフォリオに対して各資産クラスの配分比率を増やした場合に、ポートフォリオのリスク量がどの程度増加するかという、「リスク寄与度」がリスク量として利用されているようである。
3) デンマークの公的年金であるATP、カルパース(米国カリフォルニア州公務員年金ファンド)、米国アラスカ州Permanentファンドなどがよく知られている。
4) 主成分分析という手法を用いる場合が多い。
5) 実際には、短期的に資産毎に単位リスク当たりのリターンの大きさは大きく異なるため、実施において注意が必要である(後述)。
6) リスク・パリティポートフォリオは資産クラスのリスク量を一定量にするため、変動性の小さな債券などの配分比率を大きくしなければならないため、一般的に低リスクのポートフォリオとなりやすい。そのため、高い期待リターンを求めるには、リスク量を高めるため、レバレッジを活用する必要がある。
7) 例えば、「変貌する年金ファンドガバナンスの姿」(NRI 国際年金研究シリーズVol.5、p11)を参照。
URL:http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/pdf/201105nenkin.pdf
8) 実際に英国の産業別年金ファンドであるRAILPENでは、金融危機後に、傘下の小規模な年金プランから資産配分比率の決定権限を実質的に委譲する形に変更している。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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