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リモートチャネルを軸にした新しい付加価値サービス

2011年7月号

銀行ソリューション事業一部 上級システムコンサルタント 大浦眞一郎

リテール部門で堅調な業績を残している欧州銀行では、リモートチャネルを軸にした新しい付加価値サービスにより、金融機関にとって魅力的な新たな顧客層を獲得してきている。

リテール業績を支えるチャネル強化

 ここ数年の大手欧州銀行リテール部門の収益をみてみると、堅調な業績を残しているところが多い。そういった欧州銀行の多くは、リテールの顧客基盤強化のために、リニューアルした店舗をきめ細かく配置することにより顧客接点の強化を図り、店舗アドバイザーは顧客リレーションマネジメントに注力して顧客満足度を上げる努力をしている。そして、これに伴うコスト上昇を、リモート系チャネルの利用拡大やバックオフィス業務の集中化・簡素化といった施策でチャネル全体を効率的に運用することによりうまくコントロールし、高い業績を実現している。
 そういった銀行の中で、セルフバンキング志向を強めている銀行の1つがBNPパリバだ。

セルフバンキング志向を強めたチャネル戦略

 フランスのBNPパリバは、パリ地区で18%のシェア(※1)をもち、年収82,000ユーロ以上のマス富裕層におけるメイン口座率の割合が高いといった特徴をもつ金融機関である。05年以来の顧客獲得の状況を見てみると、若年層の取込みやネット利用中心のユーザーなど新たな顧客層も取込んでおり、結果として10年度までの累計で65万口座の個人顧客を増加させた。
 そのBNPパリバでは、リテール店舗網として2,255店舗(※2)を展開し身近さをアピールしているが、一方コスト効率を高めるために、現在展開している新型店舗は行員を10人程度から3人程度に削減したキャッシュレス小規模店舗が中心となっている。そうした店舗戦略のほかに、BNPパリバのチャネル戦略の特徴は、新たな顧客ニーズに対応したリモート系チャネルを強化したところにある。ここでは、リモート系チャネル強化を軸にした特徴的な施策を紹介していきたい。

ホームページを活用した顧客取込みの仕掛け

 個人が金融機関と取引を始めるきっかけは様々だが、モーゲージなど複雑な商品を販売する拠点として店舗の役割は大きいと言われる。しかし、BNPパリバでは、ホームページやコールセンターを活用して、新規顧客の獲得に成功している。
 BNPパリバのホームページは、鮮度の高い情報提供や若年層向けサイトなどターゲット層を明確にした情報を提供することによって、インターネットバンキング利用ユーザーだけでなく多くの顧客が利用(※3)するサイトに成長している。このサイトに、モーゲージに関する情報を掲載し、興味をもった潜在顧客に対しては様々なコンタクト手段、具体的には、コールセンターへの問い合わせ、e-mailによる問い合わせのほかに、48時間以内のコールバックというコンタクト手段を提供した。
 このコールバック・サービスは、モーゲージのニーズ等の情報を入力することにより、48時間以内にコールセンターの専門家からコールバックがあり、パーソナライズされた回答を入手することが可能なサービスだ。これにより、顧客ははじめから状況を説明することなく、短時間に本題に入ることができる。しかも、「48時間以内に回答できない場合は手数料を50%割り引く」など問合せの回答までの時間に対し、銀行としてのスタンスを明示している。日本の金融機関においても、ホームページ等から質問を入力することで相談できるサービスは導入されてきているが、このように利用者に対し回答までの時間を明記しているサービスは少ない。
 このようなちょっとしたことが問合せに対する利用者の安心感をもたらすのだろうか、2009年には5万以上の問合せが発生し、そのうち6千の新しいローン(※4)が実行された。しかも、そのうち80%が、従来あまりリーチできなかったBNPパリバに口座をもっていない新規顧客だったと言われている。

ネットで実現する上質なサービス

 また、金融取引においてもインターネットの利用が高まっていく環境変化を捉え、BNPパリバでは、ネット利用ユーザーの満足度を上げるためのインターネットバンキング機能の増強にも力を入れている。
  「サービス開始後6ヶ月で35万ユーザーが登録した電子帳票サービス」、「オンラインによるセービング口座開設やローン申請」、「高度認証機能の追加」、「フランスで最初のiPhoneによるインターネットバンキング機能――残高照会、トランザクション処理、株式売買、ローンシミュレーション、店舗あるいはATMの場所検索等――の提供」など矢継ぎ早に機能を強化(※5)している。
 こういった一連の機能強化施策のなかで注目されるのが、店舗口座とは料金体系を別にした、ネット・アドバイザーが付く口座(Net Agence)の成功だ。
 このサービスでは、口座開設、銀行取引はもとより、アドバイスについても基本リモートでの完結が可能だ。ネット・アドバイザーは、BNPパリバのベテラン行員としてホームページで経歴とともに顔写真付きで紹介され、契約時に担当がアサインされる。このアドバイザーとは、店舗の営業時間より長く設定された時間帯(※6)に、電話/Webカメラ/E-Mailといった方法を通じて相談が可能となっている。また、ライフプランなど時間がかかる相談については、ネット・アドバイザーのアレンジで、営業店にて相談することも可能であり、忙しい富裕層が求める「時間・場所を選ばないで利用可能なプレミアムなサービス」となっている。このサービスは、2009年に開始したところ、3ヶ月で6,000の新規口座開設の申込みが発生したとのことである。セルフサービスを志向する顧客であっても、「アドバイスは必要」という新たな顧客ニーズを取込んだ結果と言えるだろう。

 従来、インターネットバンキング・ATM・コールセンターの利用はコスト削減の観点から推進されてきており、日本の金融機関ではいまだそういった意識が強い。
 しかしながら、上記の事例にあるように、インターネットの利用が高まっていく環境変化のなかで、コスト削減を主眼にしていないリモートチャネルを軸にした新しい付加価値サービスは、金融機関にとって魅力的な新たな顧客層を獲得できるサービスとして企画できる可能性を秘めているのではないか。

1) BNP Paribas French Retail Banking 2010marketing researchより。
2) 2010年12月末時点。
3) 2008年Annual Report より。2008年のBNP パリバのホームページbnpparibas.netは、170万のインターネットバンキング利用ユーザー(07年から20%以上増加)の他に、320万/月の一般ユーザー(2007年の約2倍)が利用。
4) 2009年Annual Report より。 2008年との比較で、実行件数は4%増、金額ベースで1,110万ユーロ増となった。
5) 2009年Annual Reportより。
6) ホームページによると、平日月~金は、8:00-20:00、土は9:00-18:00。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大浦眞一郎

大浦眞一郎Shinichiro Oura

金融イノベーション研究部
金融ナビゲーショングループ GM