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ナスダックによる新市場の開設

2011年7月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

米国における株式新規公開(IPO)の場として知られるナスダックが新市場を開設する。ベンチャーキャピタル投資の変化や他市場との競争激化によって、ナスダック市場への新規上場が低迷していることがその背景にある。

ナスダックが新市場を開設へ

 ニューヨーク証券取引所(NYSE)と並ぶ米国の主要株式市場ナスダック市場を運営するナスダックOMXグループが、年内にもベンチャー企業向け新市場を開設する。ナスダックOMXBX(旧ボストン証券取引所)の「BXベンチャーマーケット」である。
 ナスダック市場は、証券業界の自主規制機関が運営する店頭市場の気配表示システムとして1971年にスタートした。2006年8月には証券取引所化。2008年2月には、北欧やバルト諸国で取引所を運営するOMXと経営統合して国際的な取引所グループへと発展した。
 現在、ナスダック市場は、①グローバル・セレクト・マーケット、②グローバル・マーケット、③キャピタル・マーケットの三つに区分されている。今回開設される新市場は、かつて「スモール・キャップ」と呼ばれていたナスダック・キャピタル・マーケットよりも緩やかな数値基準を設定することで、ベンチャー企業の株式新規公開(IPO)や他市場の上場維持基準に抵触して上場廃止となった銘柄の再上場の受け皿となることを狙う。
 新市場の特色は、浮動株式数や時価総額といった数値基準を緩やかにする一方、独立取締役の選任などコーポレート・ガバナンスに係わる定性的な基準は従来の市場並みに厳しくした点にある。新市場の上場企業は、規模が小さく社歴が浅くても構わないが、公開企業として不特定多数の株主の利益を守れるような経営体制を整備しておくことを求められるのである。

新市場開設の背景

 1980年代以降、アップル、インテル、マイクロソフト、グーグルなど、時代をリードする革新的企業を次々に輩出してきたナスダック市場は、ベンチャー企業によるIPOの場として高い評価を確立している。それにもかかわらず、あえて新市場の開設に踏み切るのは、近年ナスダック市場への新規上場数が減少し、買収などによる上場廃止とも相まって、上場企業数の減少が続いているからである(図表)。
 新規上場数減少の背景には、金融危機後の景気回復の遅れなど米国経済のマクロ的動向に加え、内部統制報告制度を導入したサーベンス・オックスレー法(SOX法)に代表される規制強化による上場コストの上昇、ベンチャー・キャピタルによる投資が高いリスクを嫌って短期間で公開しやすい大型案件に集中しがちになっていること、など様々な要因が絡み合う。
 しかも、近年、ベンチャー企業によるIPOは、ナスダックの専売特許ではなくなりつつある。例えば、2011年5月にNYSEでIPOを行ったソーシャル・ネットワーキング・サービス大手のリンクトインは、一昔前ならば間違いなくナスダックを目指したタイプの企業である。同じ5月には、これまで他市場上場銘柄の取引に専念してきた新興の電子取引所BATSが、新たにIPO企業の獲得に乗り出すことを明らかにした。ハイテク・イメージの強いBATSは、ナスダックの強力なライバルとなる可能性を秘めている。
 一方、未公開株取引の場として古くから知られてきたピンクシートは、OTCマーケッツと改称して電子取引システムを整備し、順調に取引高を伸ばしている。SOX法の適用を嫌う外国企業が、米国市場での正式上場を避けてOTCマーケッツへの登録を選ぶ傾向を強めていることが一つの背景だが、米国内の小型株取引にも根強いニーズがあることは確かだろう。

新市場の課題

 1992年3月、今ではNYSEの傘下に入ったアメリカン証券取引所は、IPOの場としてのかつての地位を回復しようと、ベンチャー企業向け市場ECMを開設した。ところが、企業の成長性を偏重した上場審査の姿勢が裏目に出て、上場企業のスキャンダルが相次いだ結果、わずか3年余りで閉鎖に追い込まれた。日本でも、2007年以降の新興市場低迷の一因が、粉飾決算などの企業不祥事で市場の信頼性が損なわれたことにあると指摘されているのは周知の通りである。
 ナスダックが、新市場の上場基準作成にあたって、ガバナンス体制の整備といった定性面ではあえてハードルを高くしたのは、そうした前車の轍を踏むまいとする意思の表れだろう。しかし、経営体制の形式面ばかりに注目すると、真に成長性のある企業を遠ざけてしまう可能性も否定できない。BXベンチャーマーケットの成否が大いに注目される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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