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ランダムである難しさ

2011年7月号

外園康智

 新学期に1クラス40人の遠足があり、行き帰りの歩く順番を決めたい。先生は、この順番が意図的なものだと、生徒達から不満がでることを恐れている。何ら規則性のない順番を作って、皆を公平にしたいが、完全に“ランダム”な順番を作ることは可能だろうか? 順番は、背の高さや成績順など規則的なものは簡単に思いつくが、ランダムとなると逆に難しい。適当に並べたとしても、偶然「給食を早く食べ終える順」などになっているかも知れない。
 そもそもランダムとは何か。順番を数列とみなすと、どんな“関数”でも表現されない数列を、ランダムと定義する。これをコルモゴロフ・ランダムと呼ぶ。さらに数列の中で、ある長さ以上のどんな部分数列を切り出しても、コルモゴロフ・ランダムを満たす(※1)という強い性質を持つものをマルティン=レーフ・ランダムと呼ぶ。
 ランダムな数列は、周期性を持たない、“予測”ができない、記録しておかない限り再現性がないという特徴がある。その上で、その他多くの数列群が持つメジャーな統計的な性質は満たす。なぜなら“メジャーな性質を満たさない性質”は、逆に顕著な特徴になるからだ。
 ランダムな数列(=乱数)は、暗号作成やモンテカルロシミュレーションなどで重要な役割を担う。プログラミングで乱数が必要な場合には、一般の統計ソフトを利用できるが、実は、ここで生成されているのは“疑似乱数”と呼ばれるものである。疑似乱数は少し複雑な数式から計算されるものであり、本物の乱数とは異なり、初期値と計算法が分かれば再現できてしまう。
 特にマルティン=レーフ・ランダムを満たす数字を見つけることは難しい問題であったが、チャイティンという数学者が、オメガと呼ばれる数字を定義して、そのランダム性を証明した。オメガとは大雑把に言うと「長さ がn のプログラムが、実行時に停止する確率」を、すべての n について足した値1)である。0から1の間の確率値をとるオメガは「無限の時間とメモリー、強力なCPUのコンピューターにも決して規則性が発見できない究極の乱数」という性質を持つ。
 ところで冒頭の40人の並べ方の総数は47ケタの巨大数字だ。公開アミダクジで順番を決め、教室は大いに盛り上がった。新学期当初は、一見ランダムに思えた順番だが、夏頃までに生徒の特徴や友達グループが分かると、先生にはたくさんの“隠れた規則性”が発見できたとのことだ。

(外園 康智)

1) 数学的な定義も満たす性質も不明確で、正確な表現ではないことをご了承下さい。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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