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「国民ID制度」に民間IDの活用を

2011年6月号

消費財・サービス産業コンサルティング部 上級コンサルタント 安岡寛道

「国民ID制度」において、行政が整備する基盤とあわせて、民間事業者が提供するサービス基盤(ID)を活用する必要がある。試算によれば、それによって、利便性向上・効率化とビジネス創出を合せ、最大約10.5兆円の効果が想定される。これらの民間IDの活用は、震災時等にも適用できるであろう。

 多くの先進国で不可欠な社会基盤として定着しているID(※1)に関する制度が、日本でも実現に向けて動き出している。現在、「社会保障・税に関わる番号制度」「国民ID制度(※2)」の2つの施策の検討が進められている。
 これらの制度はよく一緒に議論されるが、主な目的は異なる。前者は、国民が自己の情報を閲覧・管理できることを前提に、真に手を差し伸べるべき人を識別し、社会保障を充実させることと考えられる。後者は、同じ前提で、行政機関内部や相互における情報連携を推進し、行政サービスの利便性・効率性を向上させることと考えられる。IDがあることで、本人確認がスムーズになり、様々な手続きの簡素化・効率化が期待できる。

「国民ID制度」における民間IDの活用

 これまでの「国民ID制度」の議論は、行政機関が整備する基盤を中心に、行政機関が発行するID(行政ID)を活用するという発想であるため、日本の経済・社会への影響が既存の行政サービスの枠内に留まっていた。
 理想的な制度として、行政サービスの利便性・効率性を向上させるには、行政IDだけでなく、民間ID(民間事業者が発行する利用者のID)を活用することも必要である。そうすることで「信用度」に応じた適切なレベルで本人確認を行える。例えば、自治体は、粗大ゴミ回収や図書館貸出の申請、住民票の取得、子供手当の受取等、様々なサービスを行うが、その時に必要な本人確認の「信用度」はサービスによって異なる。
 一般社会では、行政IDは役所に登録された実印に相当する。この実印だけですべての本人確認を行うのは、常に実印を持ち歩くのと同様である。簡易なサービスならば、インターネット上で既に多くの人が持っているYahoo! や楽天のID、リアルな取引であれば携帯電話のID、TカードなどポイントプログラムのIDでも構わないはずである。印鑑としては認印レベルのIDである。先の例で言えば、図書館の貸出申請のようなサービスはこれで十分であろう。住民票の取得といったより高い本人性と手数料を伴うサービスでは、少し高いレベルのID(銀行印相当)が必要になる。お金の受給を伴うサービスでは、最高度レベルのID(実印相当)を用いることになる。これに対面が加われば、より厳密性を要する手続きでも使える。前述のように行政IDは実印相当レベルだが、民間IDには様々な種類があり、認印、銀行印、実印相当のIDとして利用可能である。民間IDを用い、各サービスの本人確認の必要レベルによってIDを適宜使い分けるべきである。
 民間IDの活用により、国民が頻繁に利用する媒体を用いて、効率的に行政サービスを利用できる。また、より迅速・低廉に行政サービスの基盤も整備できる。既に米国やオランダ等では、行政等の公的(および民間)のサービスを4つの保証レベルに分け、民間IDでも本人確認できる仕組みが導入され、広がっている。このように、いくつものIDとサービスが柔軟かつ効率的に連携できる仕組みを「IDエコシステム(※3)」と呼ぶ(図表1)

民間ID活用のメリットと効果

 民間IDは公的サービスのみならず、民間サービスでも、ネット上を中心に、個人情報保護に十分留意することで、本人確認や情報連携を格段に効率化できる。サービスに要求される本人確認レベルが決まれば、各事業者間(1対1)で取決めをする必要がない。そのレベルに合った民間ID(あるいは行政ID)を使えばよいだけである。
 このように民間IDをレベル分けして各種サービスで活用すると、シーンや世代を問わず、様々な利用者に恩恵をもたらす。また民間ビジネスの創出も期待でき、図表2のようにリアルのサービスがネットで行えるなどの効果が期待できる。さらに、民間IDと各種サービスが繋がり易くなることで、IDやサービスの新陳代謝が促進され、最終的に経済・社会の刷新にも繋がる。
 これらの経済効果を試算(※4)すると、「利便性向上・効率化」として最大で約4.8兆円の効果が算出された。さらに「ビジネス創出」として、eコマース(ネット決済)関連で約1.8兆円、金融サービス(金融取引)関連で約0.4兆円、ポイント・サービス関連で約1.8兆円、およびその他のサービス関連で約1.7兆円と、約5.7兆円の効果が算出された。合計すると「利便性向上・効率化」と「ビジネス創出」の最大効果として、約10.5兆円が見込まれる。

今後の「国民ID制度」の検討にあたって

 本人確認を行政ID(※5)だけでなく、民間IDでも行えれば、よりスムーズに本人確認や情報連携が進むはずである。これを実現するには、現行の官主導の取組みに加え、民間主体による取組みも政府の基本方針に加えるべきである。
 なお、本年3月11日の東日本大震災後の避難所において、実印的な公的証明書だけでなく、緊急的に地域コミュニティによる確認等で本人を特定した。しかし、これらは大きな災害時以外には法制度に明文化されておらず、対応しづらい。そこで、今後のリスク対策として、政府が制度を決め、自治体や事業者が、民間IDや普段身に付けるもの(財布の中身や携帯電話)の組合せでも適宜本人確認できる仕組みを、できるだけ早期に実現すべきであろう。

1) IDとは、番号・識別子を表すIdentifi cationの意味と、番号に紐付く情報までを含むIdentityの意味があり、ここでは主に後者を指す。
2) 国民ID 制度とは、国民が自己の情報を確認できることを前提に、行政機関内部や行政機関間における情報連携を推進する制度を指す。
3) 本来は生物学の「生態系」を意味する言葉。ここでは、各レベルの民間(あるいは行政)ID の活用により公的・民間サービスで情報が自律的かつ効果的に連携することを指している。
4) 試算結果の詳細は、以下に記載されている。野村総合研究所 第148回メディアフォーラム:『「IDエコシステム導入の効果」~国民ID 制度に民間の活力を生かす』、2011年2月21日。http://www.nri.co.jp/publicity/mediaforum/2011/pdf/forum148.pdf(同日ニュースリリース:『「国民ID 制度」に民間の活力を生かした「IDエコシステム」導入の効果は10.5兆円』http://www.nri.co.jp/news/2011/110221.html)
5) 住基ID、導入予定の社会保障・税の共通番号など。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

安岡寛道

安岡寛道Hiromichi Yasuoka

ICT・メディア産業コンサルティング部
上級コンサルタント
専門:企業通貨・ID戦略立案

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